「名前ッ?名前!もう大丈夫よ!よく頑張ったわね…!」
瞼がひどく重い中、涙を溢れさせながら必死で私に話しかけてくれるミラノさんの姿が見えた。でもどう頑張ってもその声には応えられなくて、わたしはまた瞼を閉じた。
わたしが目を覚ますと、そこはモビーの医務室だった。
ミラノさんや船医さん、見知った顔がいくつもあって、ひどく安心して、涙が溢れた。
頭の傷は痛んだけど、大したことはないらしくて、安静にするなら自室に戻ってもいいって言葉にわたしはすぐに頷いた。
自室に戻り、マルコが一番に来てくれた。
申し訳なさそうに入って来て、わたしを見て顔を歪めた。
「遅くなって悪かったよい…」
「ううん、来てくれるって、信じてたから…」
そうか。って優しい笑顔で頭を撫でてくれて、傷に響かないように優しく抱きしめてくれた。
それから次々にみんながやって来てくれて、モビーに戻ってこれたんだって実感が湧いてきた。
……だけど。
いつまで経ってもエースは来てくれなかった。
「名前ー!飯持ってきたぜ!」
扉を開き、そう言って入れば、名前は一瞬期待したような目をこちらに向ける。だけど、おれだと気付くと、少し悲しげな笑顔に戻る。
「サッチ…、ありがとう」
「今日は、おれ特製きのこリゾットだぜ、冷めねぇうちに食え」
「…うん」
おれの料理においしそう。なんて呟きつつも、やっぱどこか寂しそうな表情の名前。
理由はあれだよな。エース。
あの野郎。名前が戻って来てから一度も顔を見せに来てねぇ。
何を深いこと考えてんのかしんねぇけど、さっさと会えばいいのによ。
まぁ。エースもエースなりにいろいろ考えちまってんだろうな。あんなでも責任感とか強いタイプだし、それも名前に対してはかなり特別だし。
「…おいしい」
おれのリゾットを口に入れた名前が呟いた。
「…の割には浮かねぇ顔じゃねぇの」
ポスッと名前の頭に手を乗せると、名前はおれの手の重みでか少し頭を下げ、そのままリゾットの入った器を眺めた。
「…なんかね」
「ん?」
「足りない気がするの」
「え?」
味付け薄かったか?そんな風なおれの考えを払うように名前は続けた。
「毎日みんなが部屋に遊びに来てくれて、戻る前よりも毎日騒がしいのに。何か、物足りない……」
物足りないか…。きっと名前の中にエースが自然に存在しすぎてんだ。だから、いないと違和感があるんだ。
料理で言うとあれだな。塩みてぇな感じ。
どの料理にも当たり前に入ってるから、少なかったり、入ってなかったりすると、なんか物足りないって思っちまうんだ。
それも、すぐに原因は塩だって浮かばねぇもん。
この二人の関係も、とうとうここまで来たかって感じだな。
って、エースの野郎、ほんと何してんだ…。
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