コンコンと名前の部屋の扉をノックする。
すぐに「どうぞ」って中から返事がした
。
久々に聞く名前の声におれの緊張は自然と高まった。
ドクンドクンと鼓動が耳まで聞こえる。
扉を開けると、ベッドの上に上体だけ起こしている名前がいて、少し驚いた表情でおれを見ていた。だけどすぐに嬉しそうに笑って、エース。とおれの名を呼んだ。
「遅くなって悪い、いろいろ立て込んでた」
「ううん、いろんな人が来てくれてたから、大丈夫」
何でもないように意識しないように振舞う。おれがベッドの横にある椅子に腰かけると名前は嬉しそうに微笑んだ。つられておれも微笑む。
「ただいま」
「…おかえり」
「なんか、嬉しい」
優しく笑う名前。だけどその額と左頬に貼られた大きなガーゼを見て、おれの心臓はギュウッと締め付けられた。罪悪感が心ん中を覆い尽くしていく。
「ごめん…、ごめんな。こんな目に合わせちまって…」
そっと、名前に手を伸ばす。手が左頬のガーゼに触れる。
おれが顔を歪めると、おれの手に重ねるように名前も手を添えた。
おれがもっと早く助けに行ってれば…。
「エースが助けに来てくれるって信じてたよ」
名前にこんな傷を負わせることもなかった…。
「エースのおかげでまた船に戻って来られた」
おれのせいで……。
「本当にありがとう。エース」
名前の言葉一つ一つがおれ自信の罪悪感を打ち消していってくれている感覚。
そして両手でギュッと手を握り締められ、目と目が合わされる。
「また、こうしてエースと会えて、本当に嬉しい」
ぶわっと全てのわだかまりが弾けたみたいだった。
名前の笑顔はまっすぐおれに向けられていて、心の中がジンッと熱くなる。
手を握っている名前の手を両手で握り返す。そして力強く名前を見つめた。
「名前…!おれ!」
名前は驚いたようにおれを見つめ返す。
「これからはお前のこと、おれが守るから」
「え…?」
名前の瞳が少し潤んでくる。
「もう二度とこんな目には遭わせねえ。約束する」
「…うん」
名前の瞳から涙が溢れて慌ててそれを指で拭う。
「うん、嬉しい」
泣きながら精一杯の笑顔を向けくれた名前に思わず顔を近づけて口付けた。
そしてそのまま抱きしめる。
鼻いっぱいに広がったのは、懐かしいような、優しい名前の匂い。
「おれ、もう名前がいねぇとダメなんだ。ちゃんと守れなかったくせに何言ってんだって思うかもしれねぇけど。もう二度とこんな目には遭わせないから…。だから…」
「エース、わたしもね」
名前がおれの言葉に被せるように話す。お互いに顔は見えない分、聞こえてくる彼女の言葉を聞き逃すまいと耳に全神経集中しているようだ。
「ずっとエースのこと考えてたの。今までのわたしならきっとマルコが浮かんでたはずなの。だけど、エースだった」
さっきのマルコの言葉が思い出される。
“名前の中で、お前はおれを超えてんだからよい”
名前の頼りない細い腕がおれの背に回される。
「いつのまにか、エースが、わたしにとってすごく大切な存在になってたみたい」
名前から紡がれる言葉は少し信じがたいくらい、嬉しいものだった。
「もう離さない。って言ってもいいかな…?」
照れくさそうに確認する名前が愛おしくて仕方がない。
こんなの、ズルい。おれ自身顔に熱が集中しているのがわかる。
そんなのバレたくなくて彼女を抱きしめる力を強めた。
「それはおれの台詞だっつうの」
「ふふっ。じゃあ、離さないでね…」
いたずらに腕の中で名前が笑う。
少し腕の力を緩めてできた隙に彼女の頬に手を添えてキスをした。
今度はさっきよりも長く。
唇同士が離れるとどちらともなく笑い合う。
「好きだ」
「わたしも」
〜Fin〜
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