刃のぶつかる音や銃声が響く。つまりまぁ、やつらがぼく達の作戦通りに動いてるってことだ。


「うらぁーーーっ!!」

パァンッ


背後から僕に斬りかかった海兵が銃声のあとにばたりと倒れた。



「油断してんじゃねえぞ、ハルタ」
「してないよ」


倒れた海兵の後ろから現れたのはイゾウ、そんなこと言うけど自分だって余裕そうな顔してる。


「名前見つかったかな」
「あぁ…、あの3人の割には時間かかってるねぇ…」
「だよね…」


こっちはまだまだ大丈夫だと思うけど、天竜人絡みだと海軍は何してくるかわかんないし、早く撤退するに越したことはない。


「名前大丈夫かなぁ…」
「あの子は強い、おれたちは囮を全うしようじゃないか」
「そうだね」


そんな会話をイゾウとしていると、辺り一帯の温度が一瞬で上がった気がした。


「流星火山!!」




「そっ!!空からマグマが降って来るぞー!!」



2人で護送船を見ていたら突然誰かの叫び声が聞こえ空を見上げると、本当に船の真上にたくさんのマグマの塊があった。
あんなのひとつでも船に当たったらひとたまりもない。
イゾウが銃を出したのを見て僕も剣の柄を握った。


「ついに大将が出てきやがったな」
「マルコたちが戻るまでもたせないとね」














「ハァッ…ハァッ…!!」



名前…名前……!!


一体どこにいるんだ……!!


甲板とは違い、護送船内は警備が薄かった。
あの陣形だと侵入されねぇと思ってたんだろうな。

だがありがてぇ、そのおかげでかなり動きやすい。


広すぎるこの船の今どのあたりなのか全くわからねぇ。まぁ名前見つけたらすぐに船壊して脱出するから何でもいいんだけど。


「しっ!侵入者だーーっ!!」


さっきからたまに現れる黒服の男たち、こいつもさっきまでと同じように眠らせてやろうと腕を上げたが、ある考えが浮かびその腕を止めた。



「おい」
「なっ、なんだ!!」
「名前はどこだ」
「だっ、だれがお前なんかに……!!」


そいつの胸ぐらをつかみ、手から火を出してそいつに近づける。すると、男はひっと悲鳴を上げた。



「言えば何もしねえよ」
「あ…、あの角を右に曲がって一番奥の部屋に…!!」


おれはその男を投げるように手を離し、すぐに男の言った方向へ走った。



「名前……!!待ってろ…」


見えてきた頑丈そうな扉を蹴破った。


大きな音が響き、若干煙が経つ中おれは部屋へと入った。



「名前ッ!!どこだ…!!」


「……えー…す…?」

「名前ッ!!?」


微かにした名前の声を辿ると、そこには大きなベッドがあって、その上に天竜人の姿が見えた。

驚いているのかマヌケな表情をした奴と目が合う。しかし、やつの下に目をやった途端おれの中の何かが爆発した。服を破かれ、虚ろな目をした名前がまた小さな声でおれの名を呼んだ。

足を進め、ベッドに近づく。


「なっ、なんだえ!お前!!」


天竜人が何か叫んだが、全く耳に入らない。
元より、やつの話なんぞ聞く気はない。


やつのベッドサイドに来て、未だ名前に跨っている天竜人を右手で退かした。



「ぶーーっ!!」


ベッドとは反対の壁にめり込んだ音がしたけど、おれは名前から目が離せなかった。


「名前……」


頭から血が出てる。すぐに手当しなきゃならねぇっておれでもわかるくらい。
微かに震えている名前の頬に手をあてた。よく見れば左側は頬も真っ赤に腫れ上がっていて何か変な液体のようなものがべっとりとついていた。
こんな状態なのに、名前はおれを見ると嬉しそうに笑った。


「名前…?」
「よかった……」
「え…?」
「たすけにきてくれた…、信じてたよ…」



その瞬間ギュッと胸が締め付けられた。
名前はずっと信じてくれてたんだ。
なのにおれ……、全然間に合ってねぇし…、名前をこんな目に合わせた……!!

笑ってくれてる名前に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
情けねぇ…、なんでもっとはやく来られなかったんだって後悔ばっかだ。
でも辿りついたからには何がなんでも名前はおれが守る…!!

おれは名前に優しく笑いかけた。


「帰ろうぜ、おれたちの家に」
「…うん」


おれの言葉にまたふんわり笑うと、名前は気を失うように眠った。


ゴウゴウと自分の肩が燃えているのがわかる。
さっき、やつをぶつけた壁に向かう。



「てめぇ…、よくも名前を…」
「ヒイィッ!!!やっ、やめるんだえーッ!!」








「名前、帰るぞ……」



天竜人を炭にし、すぐに名前のいるベッドへ向かい、抱きかかえるも、身体に走った違和感に顔を顰めた。

一度名前をベッドに降ろせば、足首に海楼石の錠が嵌められているのが目に入った。


「くっ…」


マルコの言ってた通りか……。
名前を抱えた状態で能力も使えねぇんじゃここから脱出するのが難しくなる。せめて動きやすいようにはしておくべきか。


おれは名前を自分の背中に乗せて左腕を彼女の脚に回して落ちないように固定した。名前の足の錠があたって急に力が抜けそうになるし、能力を使おうとしてみたけどやっぱり無理だった。

右腕だけでも使えりゃ十分か…。


「行くぞ名前…!!」


名前を抱え直しさっき蹴破った扉から出た。






「いたぞっ!火拳だ!」


「…やべっ」



黒服の男たちが前から姿を現し、一斉に襲いかかってきた。

後ろだとあの部屋にまた戻ることになるし、右手だけでなんとか攻撃を防ぐ。


「ぐっ…はっ…!」


避けきれないのもあって何発か喰らった。

海楼石がある状態で名前を庇いながら闘うってのには限界がある。数が多けりゃこっちはかなり不利だ…。


「火拳を捕らえろっ!」
「後ろの女は絶対に逃がすなよ!!」

「……ちっ…!」


「ん…んぅっ……」

「名前!!?」


頭からの出血が止まらねぇ…、このままだとマズイ。名前が……!!

そう思ったら自分の中で何かが目覚めた気がした。



「てめぇらどけーーーー!!!」





バタン…バタン…。とさっきまで騒いでいた黒服達が倒れていく。

何とか助かったと息を整えていると、あらら。とダラけた声が聞こえた。



「覇王色の覇気かー、こりゃまたおっそろしいもんだな」

「青雉……ッ!!」



くそっ、こんな時にこいつと出くわすとは…。
目の前で通路を塞ぐ長身の男を睨み付ける。だが、内心はどうしようかという思いでいっぱいだった。


横をすり抜けるにも通路が狭すぎてこいつの横に隙間がない。やべぇ…まじで、やべぇ。



「ほらよ」


「はっ…?」


通路の端に避け通路を開けた青雉におれはずいぶんと呆けた表情をしていたと思う。
怪しげな視線をやつに送るが、なんもしねぇよ。と両手を上げた。



「シャボンディの…、天竜人に父親が撃たれた男の子がさ、その子が助けてくれたって泣いて喜んでたんだよ。そんなの見せられたらさ、その子捕まえるとかおれには出来ねーな」



おそらく、名前が起こした事件のことだろう。おれは詳しくは知らねぇけど、名前がある親子を助けたってのは聞いてた。



「おれは…、正義ってのはその場によって変わるもんだと思ってんのよ。今のおれの正義はその子を見逃すってこと。それに、もともと悪いことしてないんでしょ?」

「…当たり前だ」


名前は戦闘にも一切参加してないし、人を傷つけるなんてしたことねぇはずだ。
そんな名前がこんな目に遭うこと絶対にねぇんだ。



「でもお前、大将だろ?後でなんか言われんじゃねぇの?」
「あらら、おれの心配してくれるわけ?大丈夫よおれは、なんせ大将だから」
「へっ……」


青雉の返しに笑ってやって、そのままやつの横を通り過ぎた。
船を出るまでは気が抜けねぇが、とにかく。名前をマルコのもとへ連れていけば、おれたちの勝ちだ……!!


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