ドタドタドタッ


「青キジの乗った海軍の船が近づいてるらしい!」
「どういうことだよ!?」
「とにかく甲板へ急げ!戦闘になるかもしれねぇ!」


そんな会話が扉の向こうから聞こえ、わたしとミラノさんの会話は止まった。


「青キジ……?」
「とにかく、あたしたちはここで待機しましょう」


ミラノさんにそう言われたけど、青キジが来たという会話が頭から離れず、みんなが心配でならない。

暫くも経たない間に、銃声や刀がぶつかり合う音など、戦闘が開始されたことを知らせる音が聞こえ始めた。
わたしは祈るように震える両手を合わせて、絡めた。その時、奥の扉が開いた。


「ミラノさん!海軍との戦闘が始まったようです。指示をください」


ナースさん達が何人も入ってきてミラノさんにそう言った。ミラノさんは、そうね。と、わたしと並んで座っていたベッドから立ち上がりナースさん達の前に立った。


「あの大将も来ているらしいから、相当な負傷者が出ると思うわ、どんな怪我にも早急な応急処置が出来るように準備しておきましょう!重体者を寝かせるベッドも準備しておいてちょうだい」


ミラノさんの指示が出て、ナースさん達は、はい!と返事をすると、すぐにバタバタと動き始めた。


「ごめんね名前、騒がしくなるけど、あなたはまだ休んでなさい」
「えっ!…いやわたしも何か…!」


ミラノさんはそう言うけど、みんながこんなにも戦ってるのに、自分は休んでるだけなんて。わたしにも何かできることないかな。そうミラノさんに伝えようとした。


……ガチャ


ミラノさんの肩に手を触れたちょうどその時、医務室の扉が開いた。そして目に飛び込んできたその人物に、わたしは目を見開いた。たぶん、ミラノさんやナースさん達も同じだったと思う。時間が止まったようにわたしたちは固まった。しかし、本人はいたって普通。わたしと目が合うなり、片眉を上げた。


「おお、ここにいたんだねぇ〜」

「なっ…んで……」


黄猿…?

その姿は明らかに海軍大将の1人、黄猿、そしてその後ろには何人もの海兵が出口を塞いでいた。

襲ってきたのは青キジじゃなかったの?どうしてこんなところに黄猿が……。


「名前!下がって!」
「うわっ…!」


即座に反応したミラノさんは、わたしの腕を引いて黄猿のいる扉側とは反対の奥へとナースさん達とわたしを下げた。

黄猿は余裕のある笑みを浮かべたまま部屋の中に入ってくる。


「ミラノさん!ナースさん達と奥の部屋に!」


その瞬間、振り返ったミラノさんに何言ってるの!と肩を掴まれた。


「わたしだって能力があるんだから少しくらい戦えるよ!きっと誰かが来てくれる。それまでの間だけだから!」


いつか、ミラノさん言ってくれた。「ここに攻めてきたら、守ってね?」って。今こそその時だよね。でも…。と眉間に皺を寄せるミラノさんにさらにわたしは続けた。


「大丈夫。誰かが来るまでの時間稼ぎだから、お願い!」

「……わかったわ」


わたしとミラノさんの会話中、黄猿達海軍は何を仕掛けてくるでもなく、ただこちらを見ていた。ミラノさん達が隣の部屋へ移動するのを確認し、わたしはすぐに黄猿に向き合った。


「話は終わったかい〜?」


「………撃水!!」


黄猿の言葉に返事もせず、わたしはベッドサイドに置かれていたコップの水を操り、小さな弾のようにして海軍に向け投げつけた。

この技は魚人島に行った時にジンベエに教わったもの。ジンベエのように自力で弾いたところでなんの威力もないけれど、わたしには能力がある。だから威力も上げられるんじゃないかと思って練習した。護身用の技だけど、少しくらいダメージを与えられるんじゃないか、そう思ったんだけど…


「能力者だったとはねぇー、おーい、海楼石の錠用意しときなよぉ」


わたしの放った水の弾はスルリと黄猿の身体をすり抜けていた。
ロギア系の能力者にはわたしの攻撃なんて到底効果がなかった。

黄猿の相変わらずの余裕の笑みに冷や汗が背中を伝った。


「今度はこっちの番だよぉ」


黄猿の指先がこちらに向いて、その指先が一瞬光ったかと思うと、気付いた時には膝が崩れていた。


「いっ……」


左の膝側から血が出ていて思わず抑えた。

あんなこと言っておいて…、時間稼ぎにもなってない…。


カツ…


音がして顔を上げると、もう目の前に黄猿の姿があった。


「傷付けるなって言われてるんだよねぇ」
「…うっ…!!」


黄猿の拳が腹部にぶつけられ、わたしはそのまま気を失ってしまった。















「おい大丈夫か!」


マルコに言われ、名前のもとへ向かうべく、おれはモビーに戻り船室へと続く扉の前に来たんだが……、そこにはうちの船員が数人倒れていた。こいつらは船室の扉を守るように言われてたはず。当然扉は開いていて、誰かが侵入したのだとわかる。


「一体誰が……」


その時扉の向こうから足音のようなものが聞こえた。それと、声も。


カツ、カツ…


「名前ッ!名前を連れてってどうするのよ!!その子を返しなさい!」


暗闇からだんだんと光に照らされていきその足音の持ち主がわかった。
姿を確認できるまでになり、おれは怒りに拳をにぎった。

船内から表れたのは、黄猿と部下たちらしい多勢の海兵。
先頭を歩く黄猿に首を掴まれ、脚をバタバタ動かしているのはミラノ。そして、別の海兵の肩に担がれているのは、間違いなく名前だ。


ここから攻撃しようにもミラノと名前がいる。
ただ握った拳に力を込めるしかできない。


「…うぐっ…名前…!!」


ミラノの声がさっきよりも苦しそうだ。ついに黄猿達が甲板に出てきて、おれと対峙する形になった。名前は気を失っているのかさっきから全く動かない。


「海軍……!!!」
「おやおやぁ、火拳ん〜、一歩遅かったねぇ」
「てめぇ、名前とミラノを離せ…」


その瞬間高くまで持ち上げられていたミラノが落とされる。ミラノは手を口元に当てて少し咳き込んだ。おれはすぐに近づき背を摩った。


「大丈夫か?」
「コホッコホッ……えぇ」


その様子も面白そうに見ていた黄猿は、部下から名前を奪い、片腕に担いだ。
名前の腕ははだらんと力なく垂れていて、やっぱ意識がねぇみてぇだ。


「名前を返せ!!」
「あんな船の奥に隠すなんてこの娘の事相当大事にしてるようだねぇ白ひげ海賊団ん〜。だが、詰めが甘かったねぇ〜」
「待てっ!!」


おれが手を伸ばすも簡単に避けて、黄猿は船の上に飛び青雉の方へと向かった。


「おーいクザン、目的のものは手に入ったよぉ」
「んじゃ、ま、帰るか」


青雉と話す黄猿を見て、青雉と戦っていた隊長連中は目を見開いた。


「てめぇら…!名前をどうする気だよい…!!」
「どうって、ただ海賊を逮捕って当然の仕事しただけじゃん」
「てめぇ…!!」


いつのまにか、さっきまで甲板が埋め尽くされるほどいた海兵たちがほとんど撤退していて、出航準備できましたー!などと声も聞こえた。


「おれも戻るか、んじゃな、白ひげ海賊団」


青雉と黄猿を乗せると瞬く間に出航する海軍船に、早く追いかけろ!と、マルコがかなり焦ったように声を上げた。


「だめです!船底が凍らされていて…!」
「くそっ!おれが行くよい!」
「よせマルコ!」


腕を不死鳥に変えたマルコを止めたのはサッチだった。


「落ち着け!冷静になって考えろ!大将が2人もいるんだぞ!お前1人で行くなんてのは無茶だ!」
「名前が連れてかれたんだぞい!!あの子に何かあったら…!どうすんだよい!」
「大丈夫だ!あいつの手配書を思い出せ!おれたちと違ってあいつには何か殺されねぇ理由があるんだよ!だから、作戦練って出直そう」


サッチはマルコの両肩を掴んでそう言い聞かせた。
いつも冷静に物事を見てるマルコがあんなになるなんて、名前が連れ去られたって。今起こった事実がおれはまだ信じられなかった。


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