船から降りると、名前のもとに父親がやって来て、涙ながらに名前の両手を握った。



「名前…、ありがとう…!」
「…うん」
「大きくなったな…」
「…うん」



そのあと、おれとマルコに気付いた父親に名前が手で差しながら紹介してくれた。



「こっちがエースで、こっちがマルコ。マルコがあの海賊船からわたしを助けてくれたの」
「そうだったのか…。わたしが名前の父親です。これまで、この子を育ててくださり、本当にありがとうございました」
「いや、おれァ何の苦労もなかったよい」



深く頭を下げた父親にマルコはさらっと答えた。
その言葉に顔を上げた父親と、目を合わせた名前は少し照れたように苦笑いした。



「ウチへ案内します」



名前の父親に付いて街の方へ向かうことに。港近くは建物がなくて、景色は木だらけだった。
名前は景色に見覚えがあるらしくて軽くマルコの服の袖を握りながら歩いていた。

木が少なくなってくると、いろんな店が並ぶ街に出た。通りすがりに名前の父親に話しかけるやつもいて、その度名前が戻ってきたことに驚いているみたいだった。



「長く歩かせてしまってすまない。ここがわたしの家です」



街から少し離れたところ、周囲を木に囲まれているところに名前の家はあった。



「全然…、変わってないね…」
「あぁ、街の景色は13年前よりか建物が多くなっていたろう。ウチは13年間そのままだよ」
「そっ…か…」



少し辛そうに眉を寄せて、何とも言えないような表情をした名前に、父親は気づいてんのかそうじゃねぇのか、おれたちを家の中へと案内した。

家の中はいたってシンプルで、キッチンの前にはテーブル、その奥にはソファとローテーブルがあった。
そんなに広くねぇけど、ものが少ないせいで広く感じた。



「母さんは奥の寝室だ…」
「…うん」



ゴクリ。と、名前の喉が鳴った気がした。
父親扉を開き、最初に名前が中に入った。
続いておれとマルコも、父親も入った。

名前は、ただ目を見開いて立ち竦んでいた。



「お、かあ…さん…?」



部屋のベッドには、かなり痩せこけた女が静かに目を閉じていた。



「母さん、名前が来てくれたぞ…」



父親が近づき声をかけると、母親は薄く目を開いた。



「名前…?あなた何言ってるの…、名前はもういないのよ…」
「いいや、戻ってきてくれたんだ。ほら」



父親に促されて名前はぎこちなくも母親のベッドに近づいた。



「本当に…名前なの…?」
「う…ん…」
「大きくなったわね…」



ふんわりと、どこか名前に似た笑顔を見せた母親に名前はまた、お母さんと呟いた。



「もっとこっちへいらっしゃい、顔をよく見せて…」



母親が名前の手を引いてさらに近づいた。名前の頬に手を伸ばして、すっと軽く触れた。



「ごめんなさい、今更だけど、あなたを守ってあげることができなくて…」
「ううん。もう、お父さんが何度も謝ってくれたよ」



ポロポロッて、お互いに涙を流しあう2人の様子を、おれもマルコも黙って見ていた。










「名前、本当にありがとう。あんなに嬉しそうな母さんの顔、久しぶりに見たよ」
「よかった…」



名前の母さんがいる部屋を出て、さっきの部屋に戻ったおれたちは、ソファに座ってコーヒーを貰っていた。



「お母さんどれくらい悪いの…?」



心配そうに尋ねた名前に、曖昧に笑って見せた父親は答えた。



「心臓がもう弱っていて、この島の医者には、手の施しようがないと言われた。もう、長くない…」



おれたちの間に重い沈黙が流れた。




「そう…なんだ…」
「だから、最後に名前に会わせることが出来て本当によかったと思っている。神様が名前をここへ連れてきてくれたんだね」
「わたしも、お父さんとお母さんに会えてよかった…」
「本当にうれしいよ…、私は父親としての愛情を名前に与えることが出来なかった…、それでも私のことをお父さんと呼んでくれるなんて…」



申し訳なさそうに肩を落とす父親を見て、名前は笑うと、マルコを見た。



「お父さんから父親の愛情を貰うことは出来なかったけど、この…、マルコからたくさん貰ったの。兄弟としての愛情も家族としての愛情も、白ひげ海賊団のみんなにたくさん貰ったよ。あの時は悲しかったけど、あの日のことがあったおかげでみんなに出会うことができたから…。だから、ありがとう」
「名前…!!」




この言葉に泣き崩れた父親に名前は笑って、大丈夫を繰り返していた。

父親の涙が収まった頃、名前が、あの。と切り出した。



「どうした?」
「…おばあちゃんは…、いないの…?」
「実は…、3年前に、亡くなったんだ…」
「そんな…」
「もう歳だったから、最後は寝ている間にだったから、苦しまなかったと思うよ」



父親もすごく辛そうに眉間に皺を寄せながら笑った。



「お墓参り、行くか?」
「…うん、行きたい」
「じゃあ案内しよう。ところで、君たちはいつまでこの島に滞在する予定なんだ?」



父親の質問に名前は、えっと。と言いつつマルコを見た。



「この島はもともと航海の予定に入ってなかった島だからな、そんなに長居するつもりはねえよい。だが、急ぐこともねぇ、お前がいたいってんなら、暫く滞在しても構わねぇよい」
「わたしの都合なんていいのに…」
「気にすんなって!」



おれたちの会話を聞いていた父親は嬉しそうに微笑むと、なら。と声を出した。



「お墓参りは明日にするか、今日はここに泊まるといいよ」
「え、いいの?」
「もちろんだ。3人くらい大丈…」
「いや、おれはもう戻るよい。船でやることがあるんだ。こいつもまだ仕事が残っててねい」
「なんでおれも!?」
「じゃあな、家族でゆっくりしろい」
「う、うん、ありがとう」


「いい人たちだなぁ」
「うん…!」






























「なんでおれまで…、仕事なんてあったかぁ?」
「いや、お前のは全部名前が終わらせてくれてるよい」
「じゃあなんで!」
「13年ぶりに会ったんだぞい、家族水入らずでゆっくりさせてやれよい」
「ぶー!イテッ!」
「うるせぇ」


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