「はぁーっ」



昨日荒らしまくった自分の部屋の掃除を、ついさっき、やっと終えることができた。
食堂に来て席に座ると、片付いたかー?って言いながらサッチがココアを持ってきてくれた。



「ありがとう。なんとか…、自分が悪いんだけどね」
「そっか、まぁ、人間たまにはそういう時もあるぜ」
「はは、だね。そういえばエース知らない?」
「あー…」



朝食が終わった頃、おれも手伝う!ってエースが名乗り出てくれたんだけど、散らかしたのわたしだし、何よりエースへのプレゼントが見つかったらまずいから丁重に断った。でもエースは、なんでだよー!って凄く拗ねちゃったんだよねぇ…。



「すげー拗ねてたからな、どっかでイジけてるんじゃねェか?」
「んー…、謝りに行こうかな…」
「場所わかんのか?」
「なんとなくだけど…」
「ほー」



物珍しそうな目を向けてくるサッチに、わたしもどうしたのかと首を傾げた。



「じゃー、行ってこい」
「えっ、う、うん」



いつのまにかいつもの笑顔に戻っていて、パンッと軽く背中を押された。


食堂から甲板へ出たと同時、



「島が見えるぞォーーー!!」



そんな声が聞こえた。



「えっ」



早い…よね。
エターナルポースの指す島は一度行ったことがあるし、海図通りだとまだかかるはずだった。つまり指してない島ってことだ。



「島だって!?」
「とりあえず見失わないように舵きっとけ!」
「はいよ!」




初めてのことじゃないけど、やっぱりそういう時は航海士達のトップであるマルコに報告しなくちゃいけないはず。



「わたしマルコに知らせてくるね」



バタバタと慌ただしくなり始めた航海士さん達の1人に声を掛けると、頼んだ!と返ってきたのですぐにマルコの部屋に向かった。



部屋につくと、マルコは海図を描いている最中だったらしく、数回呼んだところでやっとこちらへ気付いてくれた。



「どうした?」
「島が見えたって」
「あぁ、すぐ行くよい」



眼鏡を外して、コキコキと数回首を鳴らすと、目を押さえながら立ち上がった。



「上陸するの?」
「海軍がいねェ島なら上陸していいってオヤジに言われてんだよい」
「そっか、どんな島かなぁ」



隣に並んで、話しながら甲板へ向かった。



「ある程度まで近付いて、島の周りを一周しろよい、港があるようならそこに停めろい」



甲板に出るとすぐにテキパキと指示を出し始めたマルコに、船員達が動き始める。

やっぱり、マルコの統率力って、すごいなぁ。



「港ありましたァー!海軍はいません!!」
「船をつけろい!」
「りょうかいっす!」



マルコが島を確認するために船縁まで行ったのについて、わたしも隣に並んだその時、大きな声で名前を呼ばれた。



「島見えたってなぁ!」
「うん、ほらあそこ」



声の正体はやっぱりエースで、その島を指してあげれば、おおおお!なんて言いながら目を輝かせた。

海へ落ちそうなくらい身を乗り出してその島を見るエースを抑えながら、マルコと顔を合わせて笑った。



近付くにつれ、だんだん大きくなるその島を改めて見てみた。

木が生い茂っていて、川も通っているみたい。自然が豊かそうだなぁ。
砂浜では子供たちが数人遊んでいて、それに、港には漁船がいくつか停まっていた。

その港から村まで一本道で続いているみたい。

その通りを見てハッとした。



「ここって…」



思わずマルコの上着の裾を握る。

すごく、見覚えがある…。



(おばあちゃんっ…!!)
(ハハッ、無駄だっつってんのによぉ!)
(お前の親もばあちゃんも!お前を捨てたんだよ!)
(おばぁっ…!)




「名前?」
「こ…こ…」
「ん?」



身体が震えた。
マルコがどうした?って肩を支えてくれた。エースも、名前?って呼びながら顔を覗き込んでくれた。でも、わたしはその島から目が離せなかった。



「こ…、この島…、わたしの生まれた…島…」
「…ッ!?」
「え!?」



間違いない…。あの砂浜で遊んだこともある。それに何より、ここから見る島の景色が、海賊に抱えられて見たものと全く同じだ…。



「大丈夫かよい?」
「う、うん…」



マルコが、軽く背中を摩ってくれて、少しだけ、震えが治まった。



「あんたら海賊か?」
「あぁ!白ひげ海賊団だ!だが別に略奪しようってんじゃない、この島に停泊する許可をもらいてェんだけど!」



港にいた漁師さんと、船員の1人が交渉を始めた。
漁師さんは村長に聞いて来るから待っててほしいと言うと、一度村の方へ行ってしまった。













まさか、名前の生まれ故郷の島に着いちまうとはな…。


しばらくして、さっきの漁師と数人の村人たちが戻ってきて、危害を加えないなら上陸を許すと言ってくれた。

だから今、見張り番の隊のやつら以外、次々に上陸している。


でも、おれとマルコはまだ名前のそばにいた。
名前はマルコの服の袖を握っていて、ギュッと眉を寄せてその島を見つめていた。



「わたし…、この島には上陸しない…」



小さく呟くように発せられた名前の言葉。それには一瞬戸惑ったけど、すぐに両手を上げて伸びをした。



「んー、おれも今回はいいや」
「おれも特に目的もねェしよい」
「そっか…」



ありがとう。
そう言って困ったように笑ってみせる名前の頭をマルコが優しく撫でた。




「名前ーーーーッ!!」




突然、名前を呼ぶ大きな声が響き、その声に名前はビクンと体を強張らせた。そして、マルコの服を握る手を強めた。
船の下を覗いてみると、息を切らした男が上陸していく船員に掴みかかるようにしていた。



「この船に名前という女の子が乗っていませんか!!?」
「名前?」
「18くらいで!能力者の!!」
「あぁ、そりゃあいるが…、あんた、名前の知り合いかなんかか?」
「父親です!」



名前の父親だと……?
隣でその様子を見ていた名前は、見開いた瞳をゆらゆらと揺らしていた。



「へぇ!あんた名前の父親なのか!ほら、名前ならあそこに」



会話をしていた船員がおれたちの方を指さし、その男もこっちを見た。
その瞬間、名前は船縁に隠れるようにその場に座り込んだ。



「お…とう…さ…ん…」



名前は、今までのことを思い出したのか、怯えるように膝を抱え、絞り出したような声で言った。



「名前ッ?いるんだろ!顔を見せてくれ!」
「いや…っ…!」
「13年ぶりじゃないか!」
「やめて…」
「お父さんだぞ?覚えてないか?」



男が喋っているあいだ名前は耳を塞ぎ首を振った。マルコも、名前に向けて話続ける男を睨むように眉を寄せた。


あいつに名前の声が聞こえねぇのはわかるけど、名前は嫌がってる。
おいッ!とおれが叫ぶと、その男はビシッと固まったように黙った。




「てめぇ、今更名前に何のようだ!」



おれの一言に、黙って下を向いた男は静かに声を出した。



「謝りたくてね…」
「あ?」
「ずっと後悔していた!名前…、すまなかった!!」



男はその場で膝を着き、頭を地面に擦り付けた。その行動には思わず押し黙った。名前はというと、船縁に手を置き、恐る恐るといった感じでその男の姿を目に収めていた。



「ずっと後悔していた…!あんなに幼かったお前を愛することもせず、ずっと一人ぼっちにさせて、簡単に海賊に渡してしまった…!!おれは父親失格だ…、そこの彼の言う通り、本当に今さらだ。だけど、ずっと謝りたかった…!!」



ポロッ…



名前の目から雫が一粒落ちた。名前はもう隠れずに、難しい顔をしつつも真っ直ぐそいつを見ていた。



「今さら許してもらおうなんて思ってない!だが1度だけ…、母さんに会ってやってくれないか…?」
「おかあ…さん…?」



突然出た母親の話題に名前は難しい顔を少し緩めた。



「実は母さん、3年前に病気になってなぁ…、今じゃ一日のほとんどを寝て過ごしているんだ…。最期に名前に会わせたいと、ずっとそう思ってた…」
「……」



頼む…!!とまた頭を地面に擦り付けた男を見て、名前は暫く黙りこくって考え込んでるみたいだった。



「マルコ…」
「ん?」
「行っても、いいかな…」
「それは、名前次第だよい」
「わたし…」



グッと名前が拳を握った。



「行って来る……」



力強く、でも少し不安そうに名前が言い、おれも行くよい。ってマルコが続いた。それに少し驚いたように名前がマルコを見上げた。



「いいの?」
「あぁ、エースも付き合えよい」
「え、おれ!?」



突然振られたことに驚き、いいのか?と名前に聞けば、もちろん。と笑顔で返してくれ、おれたち3人名前の故郷の島に上陸することになった。


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