「…っはぁ」
食堂への扉の前で立ち尽くすおれ。
名前とどんな風に接すればいいんだ…。てか、なんであんなことしちまったんだおれ!!拒否されなかったってのもあるけど、名前の気持ちも聞かずにあんなこと…。はぁ…。
軽く息を吐いてから食堂の扉を開いた。
ガヤガヤと騒がしい食堂はいつもとなんら変わりない。
いつもの席を見ると、当然名前の姿が目に入り、一瞬ドクンと心臓が高鳴った。
名前は昨日のことなんて何もなかったかのよう、いつも通り楽しそうにマルコと飯を食っていた。
もしかすると名前はそんなに深く考えてねェのかもしれねぇ。ただ雰囲気に流されただけ…って感じで…。それもなんか悲しいけど…。
とりあえず争奪戦から飯を取ってそちらに向かうと、誰よりも先におれに気付いたサッチが、エースはよっ!と声を上げた。
ガタッ…!
その時、名前がスープの入ってる碗を倒しちまって、あぁっ。と声を上げた。
「大丈夫かよい!」
「あ、え、う、うん!」
慌てて返す名前にマルコは不思議そうに首を傾げた。
おれはすぐにテーブルにトレーを置いて名前の手首を掴んだ。
「手にもかかってんじゃねぇか」
「だ、大丈夫っ」
引こうとする名前の手首を離さないようにギュッと握り、近くにあった布巾で名前の手にかかったスープを拭った。
「あ、ありがとう…」
おれを見ると名前は恥ずかしそうに頬を赤らめて顔を下げた。
つい咄嗟に出てきちまったけど、そんな名前の様子を見て、おれの顔も熱くなるのがわかった。
そっか、名前もおれのこと意識してんだ…。
サッチが大丈夫かー?なんて言いながらタオルを持って来て、テーブルを吹き始めた。
「おい、どうしたよい」
「何固まってんだ2人して?」
「「なっ、なんでもないっ!」」
名前と言葉が被って、2人の視線が絡み、合わせて慌てて逸らした。
「何か2人変だぞ?」
「い、いつも通りだよなっ!」
「う、うん!」
ぎこちなく笑い合って見せると、で。とマルコは静かに声を発した。
「その手はいつ離れんだい」
「「あっ」」
お互い…じゃなくておれか。ギュッと握ってた手を緩めると、同時に離れた。
「わりィ…」
「ううん…」
「こいつら、何かいつになくぎこちなくね?」
「なんか…あったかねい」
朝食中、いつもの様にガッシャン!と音が鳴り、エースがいつもの眠りについたんだとわかる。
「はぁっ……」
途端に出るため息。
さっきから心臓が鳴り止まない、エースの顔を見る度昨日のことが思い出されて、一言も話せていないし…。
名前…。ってあんなに熱っぽい声で呼ばれたのは初めてで、今思い出しただけでも恥ずかしい。
「名前」
「えっ?」
「顔が赤いよい、どうした?」
「うそっ!」
咄嗟に自分の両頬を手で抑えた。確かにいつもよりも熱いかもしれない。思わず隣で眠るエースに目を向けた。
「何かあったかい?」
「ど、どうして?」
マルコの質問に動揺を隠せない、それも見抜かれてそうで視線も外した。その時、サッチが何か閃いたように大きな声を上げた。
「もしかしてエースに何かされたか!」
「えっ!なっ、何もされてないよ!」
「そうかァ?」
「う、うん」
エースに何かされたって感じじゃなかった。わたしだって受け入れたんだし…うん。
でも…
今思えば、何であんなことしたんだろう…。
わたしだってもう子どもじゃないし、キスは誰にでもするものじゃないことを知ってる。
わたし自身、初めての行為だったし…。でもそこに嫌だとか拒否するだとかの感情はなくて、初めてがエースで良かったとさえ思ってる。
…エースは?
エースはどう思ってわたしにキスなんてしたんだろう。わたしを少しでも特別だって思ってくれたってことだよね…
聞きたい…。でも、これが原因でエースとの仲がギクシャクするのは嫌だ…。
さっき、エースは咄嗟にわたしの手首にかかったスープを拭ってくれたけど、その時のエースは至っていつも通りで、状況を見て行動してくれた。
その後は昨日のことを少し思い出したみたいだったけど…。
だったらわたしも、昨日のことはあまり気にしないようにいつも通りエースと話そう。わたしが普通にしてればエースだってそうしてくれる…よね。
「名前、エースに何かされそうになったらすぐに俺を呼べよ?」
「え?う、うん?」
「何つうかエースは、野性的だからな…」
うんうんと頷きながら言うサッチには苦笑いを送った。
その時、また、隣で、ぷほっ!という声が聞こえてエースが起きたんだとわかる。
いつも通りいつも通り…!!
顔にサラダのドレッシングやコーンと色々なものを付けてキョロキョロを周囲を見渡しているエースに、タオルを差し出して、おはよ。と声を掛けた。
「…おぅ!ありがとな」
一瞬驚いたようだったけど、その後はいつも通りに笑って、タオルを受け取ってくれた。
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