夜、みんなが寝静まった頃、わたしは甲板に出ていた。星が凄く綺麗で、心もとても落ち着いてた。
今日一日の出来事が嘘みたい…。
マルコに叩かれて、あんな目を向けられて、全部初めての経験だった。でもマルコが何よりもわたしのことを考えてくれてたんだって気付けた。
それに、覚悟しなくちゃ、わたしは賞金首になったんだ。
これから行く先々で追われることになる。海軍の前で一般人の振りはもう出来ない。
マルコはそういうことを予期してたんだよね。
わたしにはみんなみたいに力がないから、隠すことで護ろうとしてくれてた。
これからは自分自身ちゃんとしなきゃ。
「名前」
突然後ろから声が聞こえて慌てて振り返った。
「わっ、エ、エース」
「大丈夫か?」
「えっ?」
エースはわたしの隣に来ると、船縁に腕を乗せて海を眺め続きを口にした。
「今日一日いろいろあったろ」
「大丈夫だよ。エース、今日は本当にありがとう」
頭を下げると、へへっと笑ったエースが、良いって。と頭を撫でてくれた。それに何故か鼓動が速くなった気がした。
「そっ、それからさ…」
「うん?」
突然言いづらそうに吃るものだから
、不思議に思ってエースを見た。でも視線は合わなくて、エースは目をウロウロと泳がせていた。
「その…、名前は、1番隊に戻るのか…?」
「えっ」
マルコと同じ様な質問に驚いて、つい笑ってしまった。
「あははっ」
「え?」
ポカンとわたしを見るエースにまたふふっと笑いが漏れた。
「戻らないよ、わたしは2番隊にいる」
「そっ…そっか!!」
「わっ、エース!」
安心したように笑うと、途端にギューッと抱きしめられた。
鼓動が速くなった。
「よかった…!ずっと名前といられんだな!」
「うん!」
「おれ、すっげェ嬉しい…!」
本当に嬉しそうなのが全身から伝わってくる。エースが喜んでくれて、よかったと安心感がわたしの中に広がった。エースの背中へと自分の腕を回す。
「わたしも…、嬉しい…!」
またギューッと締め付けられ、2人で抱き合った。
「名前…」
暫くして名前が呼ばれたと同時に身体が離れた。するとすぐに、自然な手つきでエースの右手がわたしの左頬に添えられ、親指で頬を摩られた。
「エー…ス?」
その時、月の光で照らされたエースの顔がとても綺麗で、うっとりとこちらを見るその瞳から目が離せなかった。お互いに取り憑かれたように見つめあっていると、エースの顔がゆっくりゆっくり近付いてきた。
いつのまにか、頬に添えられている手とは反対の左手がわたしの腰に回されいた。
ドキンドキンと、自分の鼓動の音がうるさい。
すでに、視界にはエースしか入っていないくらいに、わたしたちは近付いていた。
「エー…ス…」
呼びかけても返事はなく、わたし自身無意識に目を閉じたところで、ついに唇同士がぶつかった。
「んっ…」
軽くくっ付けるだけのキス。でも唇はなかなか離されなくて、それが何時間にも感じられた。
息苦しくなって、エースの胸を押して唇を離した。
「ハァッ…、苦し…っ」
「ああああ!わ、わりィ!!!」
途端に慌てて手を振るエースにわたしもなんだか恥ずかしくなった。
「いや、その、なんだ、ほら、」
「あ、う、うん」
「きょっ、今日はもう遅いしな、うん」
「そっ、そうだね!も、もう寝よっか」
「あぁ!じゃ、じゃあな、またあしたっ!」
足早に去って行くエースと同時にわたしも逃げるように自室へと足を向けた。
バタン…
未だに本が散乱しているけれど、なんとかベッドの上へ行き心を落ち着けた。枕に顔を埋めるとさっきのことを思い出して顔が熱くなった。
な、何であんなことしちゃったの…!?
明日からどういう顔をすればいいのか、全く想像がつかない。
「わぁぁん…!!」
バタバタとベッドの上で狼狽える。
ふと動きを止めて仰向けになった。スッと自分の唇に触れてみる。
「柔らかかった…なぁ……」
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