「オヤジ、ありがとよい」
「お騒がせしました」
2人で頭を下げると、オヤジの笑い声が響き、あの大きな手で頭をグリグリ撫でられた。
「グラララララ!元に戻ったか」
「うん。これからも、お世話になります」
また頭を下げた名前におれとオヤジは顔を合わせて笑った。
「へへっ、名前がいねェとおれが大変だからな!」
「全くおめェは…、少しは名前の負担も考えろよい」
おれと名前について一緒にオヤジの部屋に来ていたエースが嬉しそうに笑い、おれからはため息が出た。
まったく。こいつは、いつまでたっても仕事を覚えようとしねェ。
「そのことで2人に話がある、よく聞け」
突然の真面目な声に、おれもエースも名前も顔を上げ、オヤジを見た。
「名前…、お前は今までよく頑張った。必要とされたくて航海術の勉強を必死でしてたんだろう?だがなぁ、もう無理することはねェ。おれはお前を降ろすつもりなんかこれっぽっちもねぇし、誰もお前を捨てなんかしねェよ。例えお前がこの船の役立たずだろうが何だろうが、お前はおれの娘だぜ」
「オヤジ…」
「わかったか?」
「……うんっ」
瞳に涙を溜めつつも微笑み、しっかりと頷いた名前、エースも名前の頭を撫でて、良かったな!って笑ってやがる。
今回の件、悪いのはおれだ。名前を不安にさせちまって…。
「それからマルコ」
オヤジに呼ばれ、下がっていた視線を慌てて上げた。
「お前もいろいろ責任を負いすぎだ。お前がこの船のことを大切に思ってくれてるのはよく分かってる。だがよ、お前は自分を犠牲にしすぎてねぇか?いろんなことを1人で背負って、他の奴らはそんなに信頼出来ねェか?」
「そんなことは…」
「なら頼れ、エースにもジョズにもサッチにも、この船には1600人いるんだぜ?その全員が家族だろうが」
「…あぁ」
グッと握り拳を作った。
そうか、おれはいつのまにかいろんなものを背負い込みすぎてた。
家族が増えて、守るものが増えて、知らぬ間に負担が大きくなっていた。でも、それを苦だと思わなかったのは名前がいてくれたからだ。いつもおれを手助けしてくれて、いつも笑っていてくれた。
あんな風に思ってた自分が馬鹿みてぇだ、そんなに大切な娘を手放せるわけがない。なぜもっと早く気が付かなかった…!!
「これからは2人とも、海賊らしく自由に生きろ。グラララララ!!」
「あぁ」
「はいっ!」
「ところで…、おめぇら速報は見たか」
「速報?」
「なんだァ?」
オヤジの速報という言葉におれと名前は顔を合わせた。
「おいマルコ」
「……あぁ」
オヤジに呼ばれ、眉を寄せたマルコは頷くと、尻のポケットから紙を出し、それを名前に渡した。
「見てみろ…」
「うん」
その紙を開くと、名前は目を見開き呟いた。
「モビーディック号の目撃情報提供者にも懸賞金…」
「名前が白ひげ海賊団の一員ってのもバレてるみてェだよい」
名前のもつ紙を覗いてみれば、それは新聞記事で、名前とモビーの目撃情報提供者には1000万ベリーの懸賞金が支払われるって、でっけぇ文字で書いてあった。
「ご、ごめんなさいっ…!!」
途端に名前はオヤジに向け頭を下げた。なんだろうな、少し身体が震えてるように見える。
「わたしのせいで、この船まで…」
「グララララ!おれたちは海賊だぜ?お前が何もしなくとも、追われてることに変わりはねェ」
顔を上げ、不安そうにオヤジを見た名前を、今度はマルコが頭を撫で始めた。
「人の心配してる場合かよい。怖いんだろい」
「…マル…コ…」
怖い…。と目に涙を溜め、頷いた名前をマルコは正面から抱きしめ、背中を叩き始めた。
「大丈夫だよい、おれたちがいる」
「うぐ…っ」
「もし、お前に何かあっても、おれたちが必ず助けるよい。信じろ」
「う…ん…っ!」
マルコの胸の中で大きく頷いた名前を見て、やっぱマルコには敵わねェな。なんて、柄にもなく思った。
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