「もー、大丈夫だから!下ろして!」
「何言ってんだよい!急がねェと!」
わたしを肩に担ぎ、バタバタ走るマルコに、ハァ。とため息が出た。
と言うのもついさっき…、今日一日泣いてばかりだったため、わたしの目は赤く腫れてしまっていて、それを見たマルコは途端にわたしを担ぎ上げてしまった。
「手当してもらわねぇと!」
そう言って走り出し、下ろしてと言ってもダメだよいの一点張り。
バターン!と派手な音を鳴らして医務室に入り、そこでやっと椅子に下ろされた。
「一体何事だ!」
「名前の目が酷いことになっててよい!治してくれよい!」
わたしの前髪を上げて、息を切らしながら船医さんに伝えるマルコに、その場にいたナースさん達もとても驚いている。
「まぁ落ち着きなさい。名前、泣いたのか?」
「う、うん…」
気まずく頷くわたしにニッコリ微笑むと、そうか。と頷いた船医さん。
「まず、そこで顔を洗いなさい。おい、タオルを2枚用意しておいてくれ」
促されるまま、水道の所へ行き軽く顔を洗った。涙を流して熱くなっていた瞼が冷えて、とても気持ちいい…。
洗い終えると、船医さんがタオルでポンポンと拭いてくれて、また椅子に座らされた。
船医さんはミラノさんからタオルを受け取ると、それを水に濡らし絞った。
「目を閉じて」
軽く目を閉じると、目に乗せられる冷たい感覚。それはさっき船医さんが濡らしていたタオルだ。
「これで暫く冷やせば、ずっと良くなるだろう」
「ありがとうございます」
「おい、ほんとにこれだけで大丈夫なのかよい」
「明日には腫れが引いてるはずだ」
「そうか、よかったよい…」
「マルコ……」
タオルがあるせいで見えないけれど、手探りでマルコの手を掴んだ。
「ありがとう」
「いや、気にするなよい」
ギュッと手を握り返してくれて、ほんのり、心が温かくなった。
きゅるるるるるるる…
「あ…」
「フッ、腹減ったかよい」
「うん…、今日一日何も食べてなかったんだった…」
「終わったら食堂に行くか、夕飯の時間だよい」
「うん」
顔は見えないけれど、きっと笑ってくれてるんだと思う。ちゃんとそれが手から伝わってくる。
夕飯前、ガヤガヤと賑わう食堂は朝の出来事が嘘のよう。朝の事件の目撃者達から船中に伝わり、名前が賞金首になった、マルコが名前に手を上げた、って話題で持ちきりだった。
厨房からいつもの席を覗くが、当然誰の姿もなく、この混み合う食堂で誰も座ろうとはしない。不思議なオーラを放ってるみてぇだった。
「サッチ〜、腹減った」
「うぉ!エース!」
頭をボリボリ掻きながら、ダルそうにおれの所へ来たエース
あれ、こいつ名前追っかけて飛び出してかなかったか?でもおれがココア持ってた時は名前1人だったぞ…。
「お前、名前見つかったのか?」
「ん?あぁ、でもさっきマルコが来たから任せた」
「あぁ、そっか」
なるほどな、さすがのエースでもあんだけ時間あったら見つけるよな。まぁ、マルコが行ったんならもう安心か。
「ちょっと待ってろ〜、もう出来るからよ」
「早くしてくれー、おれ朝から何も食ってねェんだ!」
「あー、じゃあそこのバナナでも食ってろ」
「うひょー!」
バナナでそんなに喜ぶのはお前だけだぜ…
「サッチおかわりー!」
「おまっ、今日は一段と食うなぁ!」
「だから朝から食ってねェってんじゃん!」
「あー、はいはい」
仕方なく追加分を作ってやろうと立ち上がった。厨房へ入って冷蔵庫確認。肉はあいつの誕生日用なんだよなぁ…
「おいエース!肉はねぇぞー……ん?」
なんだこの静けさ。さっきまであんなに騒がしかったのに…って、
食堂の中の全員が同じ方向を見てるもんだから、おれもそっちを向けば、そこには開けた扉から入って来る名前とマルコの姿があった。
お互い笑い合って、マルコなんか名前の頭に手乗っけてる。
今までで最悪の親子喧嘩終了か…。
今回はおれの出番少なかったなー…。
名前は厨房にやって来ると、おれの前まで来て、ふにゃりと笑った。
あ、ちょっと目赤い…。
「サッチ…、これ。ありがとう」
おいしかったです。差し出されたのはおれが持ってったマグカップ、それを受け取っておれもニッと笑ってやった。
「おぅ、仲良くな」
「うん、お騒がせしました」
少し苦笑い気味に頭を下げた名前のそこに手を乗せて撫でてやった。
「名前!良かったな!」
カウンターから声を掛けて来たのはエースで、名前はそちらにもまた笑顔を送った。
「ありがとう」
良い雰囲気だぜ、全く。
「おいサッチ、腹減ってんだ、なんか作れよい」
突如名前の背後に現れたパイナポーは、またまた名前の頭に手を乗せた。
「わかってるっつの、ちょっと待ってろって」
「わたしも手伝うよ」
「名前、今日は疲れたろい、席行くぞ。サッチ、体が温まるスープも作れ」
「サッチー!おれの肉まだかぁ〜!?」
「あー!もううるさいうるさいっ!」
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