パァンパァンパァンッ!!



海へ行こうと1人で通りを歩いていた時、突然銃声が響いた。


通りの真ん中に、ボロボロの格好をした厳つい男達が立っていて、天に向けて銃を撃ったようで、その銃声にその場にいた全員の視線が集まった。


「わーっはっはっはっ!!」



「か、海賊だぁーーー!!!」
「きゃぁーー!!」



そんな声が聞こえて、わたしも慌てて建物の隙間に隠れて、その陰から海賊たちの様子を見つめた。



「わーっはっはっはっ!!!残るはこの村だけか…。おい!この村のガキの中に能力者がいるはずだ!ここへ連れてくりゃあ、村に攻撃はしねェよ、はっはっはっ…」



船長らしき人物を見て血の気が引いた。



「あ…、あの人……!」



自分の目を疑って何度も擦った。

その船長は、わたしがあの時川で助けた人だったから。


まさか海賊船の船長だったなんて…。



「能力者っていったらあの子じゃ…」
「やめろよ!まだ子供だぞ」
「だけど!あの子をださないと村がやられちまう!」




あの人たちが探してるのはわたしだ。そう思うと足が震えた、逃げなきゃ。



「お、おばあちゃん…!」



必死で走ったけどその当時はまだ5歳だったから、大人の足に敵うはずもなくて、家に着いた頃にはもう海賊達が村人に案内されてやって来ていた。



「さっさとそのガキ出した方が身の為だぜ?」
「だ、だから、今はうちにいないので…」
「匿ってんじゃねェよ!村の全員がこの家だっつってんだ!」



こんなやり取りが聞こえて飛び出すのを抑えて近くの木の後ろに隠れた。



「さっさと出せよ!あの子は能力者だろ!」
「村が潰されるんだよ!」
「だから今は…!」

「あー、分かった分かった。だったら金を出そう」
「え、あ…」
「200万でどうだ?ガキを出せば、金も入る、島も助かる。最高だろうが」
「そっ、そんなに…!」



ドクン、ドクン…


心臓の音がうるさい。父と母が顔を合わせた。何と答えるのだろうか…。


おばあちゃん…、たすけて…。


ドクン、ドクン……



ガチャ…



「お義母さん!」
「母さん、危険だから中へ入って」



家の扉が開いておばあちゃんが表へ出て来た。父と母は慌てておばあちゃんに中へ戻るように言うけれど、おばあちゃんはそれをもろともしなかった。



「その話、受けなさい」


え……。


「か、母さん?」
「あの子は化け物だよ、引き取り手が見つかって金まで入るんだ、こんな良い話断ってどうするんだい」




時が止まったように感じて、その後の話は何も入ってこなかった。おばあちゃんの言ったことが信じられなくて、木の陰でボーッと立ちすくんでいた。目からはポロポロ涙が溢れ出して、地面を濡らした。



嘘だ、おばあちゃんがそんなこと言うはずない、嘘…だ…。


声も出なくて、静かに泣いた。


時間を忘れるくらい泣いていて、気が付けば夕方になっていた。木の陰からそっと家の方を覗いてみたけれど、もう海賊達はいなくなっていた。


どっちにしろこの家しか帰る場所はないので、家の扉をそっと開いて中を覗いた。


いつも通りにキッチンに立つ母とおばあちゃん。ソファーで新聞に目を通している父。

いつもと何も変わらない、さっきのことが嘘のように感じられた。



「た…、ただいま…」
「おかえり、遅かったねぇ」
「おぉ、帰ったか」
「おかえりなさい、もうすぐご飯よ」

「え…、うん。」



初めてだった。能力者になってから父と母がこんな風に話してくれるなんて。

それには嬉しい反面、恐怖さえ感じた。





「実はね、明日から私たち出掛けることになって…」



夕飯の途中、母がこんな風に切り出した。



「え…」
「だからね、名前には暫く知り合いのところにいてもらいたいの」
「い、いやだ…っ」



身体が震えた。母は笑顔で言っているけど、わたしにはわかる。
海賊に…、売られる…!



「こら、我儘言わないでおくれ」



おばあちゃんにもこう言われ、もうここにわたしの味方はいないんだって思った。














結局朝までどうすることもできずに海賊達が家にやって来た。



「ほら、金だぜ」
「あ、ありがとうございます!」



お金を受け取る父を呆然と見ていた。するとトンッと足が一歩前に出て、後ろを振り返れば満面の笑みのおばあちゃんがわたしの背を押していた。



「おばぁ…ちゃん…」
「行きなさい」



嫌だ、行きたくない。でも…、ここにはもう…頼れる人もいない…。

だったら…、港まで行ってこいつらに攻撃しよう、こいつらを倒せば、みんなわたしのことを必要としてくれるかもしれない。それに、自分の能力だったらそれが可能だ。


そう決心したわたしの頭に船長の手が置かれて視線を合わされた。



「へぇ…、お前がおれを助けてくれたんだな、ありがとよ、はっはっ。それじゃあ…」


カチャンッ…


「えっ…」



なに…力が…。


ガクンと膝が落ちた。見ると手首には頑丈そうな手錠が付けられていた。



「能力で攻撃されても困るからな、ま、必要な時に外してやるよ」
「いやっ…」



その船長はわたしのことを軽々と持ち上げて肩に担ぐと、スタスタと歩き始めた。



「たすけてっ…、おばぁっ…ちゃん…!」



叫ぶと力が抜けて、とっても息苦しくなる、そんな中、何度もおばあちゃんを呼び続けた。
だけどおばあちゃんも父も母も笑顔で家の中へと入って行った。














「それから…、毎日船の奥の部屋に閉じ込められて、戦闘の度に能力を使わされた。首にナイフを当てられてたから、怖くて逆らえなくて。戦闘でうまく仕事が出来なかったときには殴られたし、ご飯は食べ残しのようなのしか貰えなかった…」



名前の身体が震えて、また涙が溢れ出した。



「もう…っ、あの頃には戻りたくないっ…!」
「名前…」


「この船の人たちなら絶対に捨てないって、そう思ってた。でも…、ここへ来て何年か経ったころに、マルコを探して船室を回ってたの。
そしたら声が聞こえてきて、その内容が…、マルコがあたしに構うせいで船員達への対応や仕事が疎かになってるって、名前っていつまでいるんだろうなぁって…。
誰が言ったのか分からないけど、それを聞いて、自分も何か役に立たなきゃって思った。必要とされたくて、必死で航海術の勉強した…!なのに…」


グッと下唇を噛み締めて涙を流す名前を引き寄せて抱きしめた。



「降ろすつもりだったなんて…」



名前は、両親に売られて、やっと信頼できる人を見つけたと思ったはずだ、なのにマルコにあんなこと言われて、きっと頭ん中こんがらがってんだよな。

自分の居場所がねぇってのは凄く辛ェ、それはおれもよく分かってる…。


名前の背中を摩り続け、涙と嗚咽が収まってきたころ。おれは口を開いた。



「おれな、親の顔…、見たことねぇんだ。」
「え…?」



突然発したおれの話に名前はゆっくりおれの胸から顔を上げ、顔を歪ませた。それには思わず苦笑いで返す。



「父親はろくでもねぇヤツで、おれが産まれる前に死んでた。母親はおれを産んですぐに死んだらしい」

「そ…なんだ…」

「ずっとさ…、自分の生きてる意味が分かんなかった。周りの人間には疎まれるし、誰もおれが存在することを望んでねぇって思ってた。」


「エースも…辛い思いしてきたんだね…」

「うん、けど」



“エースー!”
“友達になろう!”



「でもさ、こんなおれでも生きててくれて嬉しいって思ってくれてるヤツがいるんだよな。それはここに来てさらによく分かった。名前もそうだ、おれは名前が今まで生きててくれて嬉しいし、笑っててほしい。きっと他のみんなだってそうだ。」
「エース…」



名前の顔を両手で挟んで涙を拭った。


おれが笑うと名前も釣られて笑う。



「マルコが名前を捨てるわけねぇよ。…っておれもあんま勝手なこと言えねぇんだけど、少なくともこの船の奴らで名前を必要としてないやつなんていねぇ」
「……うん、ありがとう」


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