「くそぉーっ!」
どこにいんだよ…!!
名前の行きそうな場所はだいたい見て回ったってのに…。
他にも探してない場所はあるけどよ、こんなにでけえ船なんだ、全部回ってたら日が暮れちまう。今だって少し日が傾き始めてんのに…。
ワンワンッ!!
「ん?」
足下を見るとステファンがおれの靴を噛んでやがった。
「悪ぃけどおれァ忙しいんだ、お前に構ってる暇はねぇの」
ワンッ!!
足下から離れるように言うが更に強く噛みやがった。おれは舌打ちをして足を振る。
「もう!離れろ!」
ワンッ!
今度はズボンの裾を噛んで引っ張る、こっちだ!と言わんばかりに
「もしかしてお前……名前の居場所分かるのか?」
ワンッ!
首を縦に振りながらワンワンワン!と吠えるステファン、マジか!と抱きあげたら嫌がられた。
早く連れてけと下に降ろすとすぐに駆け出した。
「おい、待てよ!」
「ハァハァ…ハァ…」
こいつ…、案内する気あんのか…!
おれの通れねぇような道ばっか通りやがって…!!ステファンに付いて来てのは、船尾の隅の隅の一角(おれは初めて来た)そこに積んであるいくつもの箱へ向けステファンは、ん。と首だけ向けた。
「ほんとにここかよ?」
ワン
何で小さい声なんだ。と言うツッコミは置いといて、おれの肩程度にまで積まれている箱の後ろを覗いてみると、そこには膝を抱えて、そこの上に額を宛て伏せる様にしている名前の姿があった。
まるでオヤジに挑んでいたあの時のおれのよう…。
「名前…」
名前を呼ぶが返事がない。もう一度呼んで肩に触れるとカクンと力なくおれの肩に凭れた。まさか!と思い顔を覗き込むと、スゥスゥと名前の呼吸に合わせて肩が上下していた。
「はぁ……」
良かった、寝てんのか…。性に合わないが安心のため息が溢れた。
髪の間から見えた名前の目は赤く腫れていて、泣いたんだなってすぐに分かった。それに指で軽く触れた。
「ん…」
ギュッとおれの指を握りフッと笑った名前の頭を撫でた。
手、冷てェな、ずっとここにいたのか…。
ぎゅるるるるるるるるる…!!
「「!!」」
しまった!
こんなでけぇ腹の音だ。さすがの名前も反応してゆっくりと顔を上げた。
そういえば今日は朝から何も食ってないんだった。そんなこと今更気付いたところでどうにもならず。顔を上げた名前と目があった。
「エース…」
「……よっ」
手は上げずに声だけで返した。
「どうしたの…?」
「あ、いや…、えと、まぁ、なんかここに来たくなったんだよ」
「ふふ、なにそれ」
名前の肩に回した手を離すと何かに気付いたらしい名前が、あ。と声を出し握られていた手が離された。
「ごめん…」
「あ、あぁ…」
「これ…、エースが持って来てくれたの?」
「え?」
座っている名前の横に、ちょこんと置かれているマグカップ。全く覚えのないそれに、いや。と返すと名前はその手でそれをそっと持ち上げた。
「ココアだ…、まだ温かい…」
サッチかな…。と呟いてそれを一口含んだ。それと同時にみるみる潤んでいく瞳
「おい、しい………、くふっ…んっ…」
「名前……」
すでに赤く腫れるほど泣いたんだろうに、また溢れて来た涙を拭おうとする手を掴み、カップを床に置いて引き寄せた。
おれの胸に顔を埋めて泣きじゃくる名前の背をポンポンと一定に叩き続けた。
「航海術の勉強なんてっ…しなきゃ良かった…」
「なんでそんなこと言うんだよ……!名前はっ…!」
続きが何も浮かばなかった。名前は10年間のことを想っての言葉だろう。だけど、おれはまだ名前と出会ってから数ヶ月しか経ってねェし、まだ全然、名前のことを知らねェ。
「わたしねっ…初めてだったんだ…、娘だ妹だ。って可愛がってもらったの」
え。とおれが発すると、名前はゆっくりと身体を起こした。この時、おれと名前の自嘲気味に笑った目とがぶつかった。
「親に…可愛がってもらってたんじゃねェのか…?」
「……違うの、ほんとは…、誰にも…」
微かに名前の身体が震えるのを感じて、今度はおれから名前の手をぎゅっと握りしめた。それに名前はふ。と息を吐くと、続きを話しはじめた。
「いつのことか覚えてないんだけど、おばあちゃんと森へ行ったときに木の実拾いをして、そこに混じってた悪魔の実を食べちゃったらしいんだ。それから両親には気味悪がられて、まともに話した記憶なんてなくて、外では絶対に能力のことを言っちゃダメだって何度も言い聞かされた」
「ちょっと待て!サッチは、両親に可愛がってもらってたって…!」
おれの制止に名前は押し黙った。視線を合わせることなく、ポツリポツリと言葉を紡いだ。
「みんなには…、嘘ついた。親に売られて海賊船に乗せられて…、もうこれ以上、自分を惨めな奴だなんて思いたくなかったの…。海賊があの島に来たからこうなった。海賊が来なければ親はわたしを見捨てなかった。自分がそう思いたかったから…」
そんな風に…、思ってたのか…。
「友達には能力のことは隠してた。家に帰っても両親はまともに話してくれなかったけど、食事とか生活の最低限のことは世話してくれたし、おばあちゃんは…、わたしが悪魔の実を食べちゃったことに責任を感じてたみたいで、普通に振舞ってくれた」
口ではそう言ってるが…。なんでだろ、今ちょっと様子が変わった気がした。
「それでね、ある日友達と海辺で遊んでたときに、人が流されてるのを誰かが見つけて、わたしは咄嗟に能力でその人を助けちゃったんだ」
それが、はじまり。
名前がグッと瞼を閉じた。
当時のことを思い出しているんだと思う、眉を寄せて涙を堪えるように上を向いた。
「名前、おれ、名前のことすっげェ知りたいけど、無理はしなくていいぞ」
「エース…」
目を開いておれを見ると、大丈夫だと言うように数回頭を振った。
「…それからね、友達がいなくなったんだ。わたしのことはすぐに村中に知れ渡っちゃって、誰もわたしと口を聞いてくれなくなった。
でも…、おばあちゃんだけは違った。いつも通りに接してくれた。」
また、名前の眉が寄った。
「暫くしてから、海賊が島に上陸したって話が村中に広がった。同じ島の村は片っ端じから襲われてって、残ったのはわたし達の村だけになった…。」
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