「おっし!こっち出来たぞー」
「こっち運んでくれー!」
「おー!」
食堂にはすでに大勢の家族たちが朝飯を食っていて、おれたち4番隊は戦場と化した厨房で追加の料理を作り続けていた。
その時…
「ええぇぇぇぇぇ!!!?」
叫び声が聞こえ食堂中の目がそいつに向いた。
「どうしたんだよ」
「かっ…こっ…これ…」
別の1人がそいつから新聞を受け取り、また同じように叫んだ。
「マ、マルコ隊長…!!」
「あ?」
今日も一番乗りで食堂に来ていたマルコはいつもの席でこの騒ぎになんの興味も示さず黙々と飯を食っていたが、その新聞を受け取ると、怠そうにその記事を読み始めた。すると…、あのマルコの目がこれでもか!っていうほどに開かれ、固まった。
「なんだなんだァ?」
マルコの近くにいたラクヨウがマルコの手にあった新聞を奪うように取り、あのデカい声で叫んだ。
「名前が…!!賞金首になってるじゃねぇか!!」
「「「えええぇぇぇ!!??」」
食堂に大勢の声が響いた。
「まじかよ…!!」
マルコは奪われた新聞を取り返そうともせずただテーブルをテーブルを見つめて焦ったように目をうろうろさせ何か考えてるみたいだった。
マルコのあんな顔初めて見たかもしれねぇ。
おれはすぐに厨房から飛び出して、ラクヨウのもとに行き、新聞を奪った。
新聞沙汰にはなるだろうとは思ってたが、まさか賞金首になるまでとは思ってなかった…。
新聞に目を通す。
“天竜人に平手打ち!!”
昨日、シャボンディ諸島にて、愛犬サウル様の散歩をなされていたチャルロス聖様が、突然現れた女に顔を平手打ちされるという事件が起こった。
天竜人に手をあげるなど前代未聞!世界政府はその女を全世界に指名手配し、懸賞金を掛けることを決定した。
一緒に入っていた手配書には…
ONLY ALIVE
名前
5000万ベリー
バッチリ名前の顔写真付き。
今度はおれが固まる番、その隙に後ろから手が伸びて来て新聞を奪われた。
すぐに名前だ!と誰かが言って、おれも見てぇ!とどんどん人が集まったが、その時マルコが低く唸るような声で言った。
「名前、連れて来いよい」
ピンッと空気が張り詰めた気がした。
おぅ。とイゾウが歩き出し、ドアノブに手を掛けたと同時に開いた扉。ひとりでに開いたかと思うとふわぁ〜あ。と大きなあくびと共にエースが食堂へ入ってきた。
「お、はよイゾウ」
「おはようさん」
そう言って食堂から出たイゾウに少し驚いた様子のエースは、視線を移して何時もとは違う食堂の雰囲気にん?と首を傾げた。
「なんかあったのか?」
「おい見てみろ!これ!」
またあくびをしながらゆっくり歩いて来たかと思うと新聞を受け取って目を細めた。
「うっわー。字細けェ、読めねェ…」
爺さんかよ…。
ハァ。と誰かのため息が聞こえて、ほい。と名前の手配書がエースの前に差し出された。
「え!!名前!?」
「そう!ついに名前も賞金首!」
「うわー!すっげぇー!!」
エースの野郎、名前の手配書部屋に飾りそうな勢いだな…。
すげーすげー!と言って手配書を眺めるエースの笑顔と比例して、マルコの眉間の皺がどんどん深くなっていく。
おいおいおい、やべぇぞ…。
その時、ガチャ。と音がしてイゾウと名前がやって来た。
「連れて来たぜ」
「お、おはよう…」
このの声に、エース含め盛り上がっていた全員が一気に扉側を向いた。
と同時にエースが名前に飛びついた。
「名前おめでとう!!」
「え?」
「ついに賞金首か!!」
「え!?」
「いきなりこの額はすげぇぞ!!」
「え…!?」
エースがバン!と名前に手配書を突きつけた。
「………!!」
目を見開き、魚みたいに口をパクパクと動かす名前に周りの奴らがゲラゲラと笑った。
ありえない。みたいな顔をした名前と視線が絡み、苦笑いを返してやればいつ渡されたのか、確認するように今度は新聞の記事を読み始めた。
まぁ、名前のことは今まで通りにおれらちが守ってやれば良いことだ。
この白ひげの船に乗ってるんだから、そうそう狙われることもねぇだろうし。
「名前」
さっきと同じように低く唸るような声がまだ座ったままのマルコから発せられた。が、周りの喧騒に紛れて扉付近にいる彼女には届かなかった。
「名前!!」
食堂が一気に鎮まり、全ての音がなくなったみたいに静かになった。
みんな驚いたようにマルコを見たが、いつもとは違う様子のマルコにゴクリと唾を飲んだ。
ガガガッ
カツ……カツ……
椅子を下げる音、マルコの足音。それらだけがこの食堂に響いた。
マルコが通ると船員達は、ひぃ。という声も出ずに一歩退いた。もちろんマルコが行く先は名前のところだ。
カツ……カツ……
ついに名前とマルコの間に何もなくなる。名前は困ったような笑いを浮かべマルコを見るが、50センチほどの距離まで近づいたところでマルコは無表情で右手を上げた。
「マルコ……?」
パチンッ!!
一瞬で食堂がざわついた。おれも目の前で起こったことがすぐには理解できず、目を見開いた。名前は自分の頬を抑え、黙ったまま怯えるようにゆっくりとマルコを見た。
「マルコッ!」
エースが名前を庇うように飛び出したが、マルコの鋭い眼光にすぐに押し黙った。
叩いたのか…?マルコが名前を…?
そんなの、この10年間見たこともないことだった。
「こんなことして、どういうつもりだよい!!」
「ご、ごめんなさいっ!」
すぐに名前が頭を下げた、その時ポロッて涙が床に落ちたのが見えて、思わずマルコの手を掴んだ。しかし、その手が震えていたことがわかってすぐに離した。
「おれが悪いんだ…、ちゃんと見てなかったから…」
「サッチは悪くない…ごめんなさい…」
おれも名前の隣に立って、一緒に頭を下げる。
すると、静かな声が上から降ってきた。
「わかってんのかい…」
「わかってます、もうこんな危ないことしません…!!」
違う。
マルコが小さく呟いた。
「賞金首になるってことは、一生この船で暮らすしかねぇってことなんだぞ!!」
マルコの声に
……は?そんなの当たり前じゃねぇか、別に賞金首になろうがならまいが、ここで暮らすことに変わりはねェだろ…?
おれが顔を上げると、名前も同じようにマルコを見ていた。
「どういうこと…?」
「もう、一般人として島で暮らすことは出来ない、一生この船で暮らすしかないってことだ」
「それって……」
いつか、わたしを島へ降ろす気だった…?
名前の呟きに、まさか。とおれもマルコを見た。だが奴は眉一つ動かさない。
「は?何言ってんだよ。名前はずっと…」
「あぁ、降ろすつもりだったよい。」
名前もおれも目を見張った。名前の目に涙が溜まり、声が震えてる。
「じゃあなんで…今まで…」
「デカくなりゃどこかの島に降ろすつもりだった。ここより安全な場所の方がお前も幸せに暮らせるだろうと思ってたからだ。降りてから仕事に困らないよう航海術も叩き込んだんだよい」
「ちょっと待って…。わたしそんな暮らし望んでない!!」
「まぁ、賞金首になっちまった今、二度と平穏な生活はなんて出来ねぇよい」
涙声の名前が訴えるように叫んだが、マルコは表情を変えず、吐き捨てるように言って、食堂を出て行った。
カツ…カツ…
バタン…。
「名前…」
「だから…、白ひげのマークを入れることも許してくれなかったんだ…。いつか仲間ではなくなるから…。2番隊に移動させたのも…、もう必要ないって思ったからなのかなぁ…」
「そんなわけねェ…、そんなわけねェよ…!」
名前が来てからだぞ、あいつの表情が増えたのは…!!
刺青のことも、移動のことも確かにあいつの考えはおれにもわかんなかったけど!!
あいつが名前を手放すことなんて考えられない。
「ごめんなさい…」
おれの言葉も耳に入っているのかいないのかわからねェけど、また一滴涙を落とすと、魂が抜けたように食堂から出て行ってしまった。
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