看病から始まるえとせとら
頭がぼーっとする。熱を測った白龍が言うには風邪らしい。ぐったりとベッドに俺が伏している間にも、てきぱきと粥が作られてベッドまで運ばれてきた。聞こえてきた足音にゆっくりと目を開く。
「食べれますか?」
上から覗き込む白龍の顔が見えた。気遣うように声をかけられて思わず苦笑した。
「悪いな白龍」
と言えば、
「これくらい当たり前ですよ」
と返事が帰ってきた。ゆっくりと身を起こせば額に乗せられていたタオルがぽとりと布団の上に落ちた。
「あ、そういや充電…。って風邪移っちゃうよな…。あ、白龍はスマホだから関係ないか…。あはは何言ってんだろうな」
ポツポツと小声で話すと、落ちたタオルを手にとって白龍は微笑んでいた。
「充電は後でいいですよ。今はご飯をしっかり食べて下さい」
「……うん」
いつもはうるさいくらい充電して下さいっ!と言う白龍が今はものすごく大人しい。勧められるままにお椀を受け取って視線を落とした。白い粥の真ん中に浮かぶ赤い梅干し。シンプルだけれどさじで掬って、口に運べば少し塩味がきいてて美味しかった。
「一昨日、酷いこと言ってごめんな。やっぱり白龍が居てくれてると心強いよ」
「そんなこと…俺は気にしてないですよ」
一昨日もカシムにメールを送る送らないで一悶着あって、「今度こそ解約してやるっ! 機種変してやる」と俺は叫んでいた。それに返すように白龍も「手数料高いですよ。それに料理とかアリババ殿できるんですか??」と応酬していたけれど、考えてみればやっぱり言い過ぎだった。
こんな風に白龍に優しくされるとすごく胸が痛む。何かお詫びをしないといけないんじゃないかって思うくらいに。
「食べ終わったらそこに置いてて下さい。俺、どうしたら熱が早く引くか調べてくるんで」
「ああ、頼む。本当に……悪いな」
「だから、そうゆうのはいいって言ってるでしょう」
苦笑しながら白龍が去っていく。パタパタと電波が繋がりやすいリビングに移動する白龍を見送って、俺は朝食を再開した。
ご飯を食べて、歯を磨きたかったけど動く余力がないからそのまま薬飲んで目を閉じた。熱くて苦しかったけど、すぐに俺は睡魔に襲われて眠っていった。どのくらい眠ったんだろうか。大分眠ったのか次に目をさました時には結構体が軽くなっていた。時計を見れば二時間が経っていた。十一時だった。
すぐ傍には白龍がいて、どこかほっとしていた。そういや、ずっと独り暮らしだったからかもしれない。誰かが弱った時に傍にいてくれるってだけでこんなにも安心できるなんて知らなかった。
俺が起きたのに気付いて白龍は体温計を差し出してきた。受け取って脇下にいれて少し待つ。その間、俺も白龍も特に何も言わなかったけれど、俺が寝ている間もこいつがずっと傍にいてくれたのは、よく……わかった。そりゃ高い値段払って手にいれたスマホなんだから当たり前だって思うのもわかるけれど、それだけじゃ今俺が感じている温かさなんて表現できない。
「まだ熱がありますね」
音がなった体温計を渡すと、その小さなディスプレイに表示された文字を読みながら白龍はため息をついた。
「ところでアリババ殿。風邪を治す手っ取り早い方法を見つけたのですが…」
体温計をケースにしまいながら、白龍が顔を上げた。言いにくそうに小さく呟かれた言葉に、俺は目を瞬かせた。
「へ? そんなの本当にあるの?」
「ええ。少しばかりアリババ殿にも負担がかかる方法なので俺としてもやっていいのか悩んでるんです」
「そんなに大変なの?えーと、どんくらいかかるの?」
「まぁ、一時間もあれば十分だと思います」
「へ? それくらいで?」
「はい」
一時間と言えば、今からそれくらい経つとちょうどお昼頃だ。何かの運動だろうか。ヨガとかストレッチの類の。まぁ、今ならちょっと体も軽くなっているし、それくらいなら平気かもしれない。
「えーっとそれなら頼むわ」
「いいんですね?」
「うん、お願い」
なんでそんなに白龍が確認するのか疑問に思わず、俺は二つ返事で頷いた。白龍が何をしようとしているのかも知らないまま。だから、その後に続いた白龍の言葉の意味もわからなかった。
「わかりました。気持ちよくさせてみせますから」
たかだかストレッチくらいで大げさだなぁ。と俺は思っていた。
次の瞬間、白龍の黒髪が視界に映ったと思ったら、口を塞がれるまでは。
――は?
顎はしっかりと手で固定されていて、驚いて目を瞬かせている間に少し冷たいものがうごめきながら口のなかに入ってきた。それが白龍の舌だと気づくころには息苦しくなってきて飲み干せない唾液が口のはしを伝っていく。
口内をじっくりと白龍がなめ回しているのがわかる。逃げていた舌を捕まえられて引っ張られて甘く噛まれると電流が走ったような変な感覚にびくりと背が震えた。
「ふ…っ…ぅんっ……んっ」
逃れられないならせめて鼻でと息をしていても、苦しくて仕方がなくなる。諦め意識が遠くなりかけた時、唐突に解放された。
「はく、りゅ…。お前……、なに、して」
酸欠に喘ぐ口から言葉は不明瞭にしか紡げない。何をしているんだ。そう聞きたかったはずのに風邪でぼんやりしていた頭が酸欠で一層ぼんやりして手も動かせなかった。気付けば白龍の手が服を捲し上げていた。
「ん、あっ!」
制止の声をあげるはずだった口から甘い声が漏れた。それを認めてなのか白龍の頭が胸元に下がっていく。
「はく、りゅ! あ…っあ!」
与えられた刺激のままびくりと体が震える。片方の突起を白龍が口に含み舐め甘噛み、もう一方も空いている手で同じように刺激を与えられる。くすぐったさと刺激に身をよじれば、そのままベッドに押し倒された。白龍が上にのし掛かってきてベッドが軋む。白龍が絶えず与えてくる刺激に元々熱かった体は何度も震えながら一層熱を上げてくる。白龍を止めようにも声はろくに上げれないし、風邪で弱った力では押し返すこともできない。頭も熱くなって考えがまとまらない。
――まるで白龍に貪られているみたいだ。
そんな錯覚を今まで感じたことのない抗えない感覚とともに俺は感じていた。刺激からは逃れられない。荒くなる息遣い。漏れる甘い声。快楽を与えられ続けて、体を巡る熱が否応なしに下に溜まっていく。腰がずくりと重くなっていく。
「腰、揺らいでますよ……」
声に視線を動かせば顔を上げた白龍と目があった。左右で違う青色の瞳が細められて俺を見つめている。何かを俺は言おうとしたんだ。でも、下履きに潜りこんだ白龍の手が立ち上がりつつあった自身に絡められれば、口から一層甲高い声が上がった。
笑みを浮かべている白龍から俺も視線を外さなかった。恥ずかしくて嫌な筈なのに真っ直ぐな白龍の視線から顔を背けられなかった。白龍の手が速まって張りつめた自身が熱を吐き出し背が弓なりに反るまで何も考えられなくなり甲高い声が上がるその瞬間まで白龍と視線を絡ませてた。
「はぁはぁ……」
酷い脱力感と共にぐったりと天井を見上げてベッドに体が沈む。身体中から力が抜けて動くこともできずに酸素を求めて肺だけがせわしなく上下している。Tシャツを捲し上げられ大気に触れている肌に白濁が吐き出されていて、その濡れた感触が気持ち悪かった。
「……ひぁっ!」
ひゅっと息をのんだ。腹の上を撫でる指の感触に息を呑んだ。
「な、に……」
気を飛ばしていて一瞬だけれど白龍の存在を忘れていた。その白龍が腹の上の白濁を混ぜ、指に絡ませている。気持ち良かったですか?確認する言葉に頷く間もなく、白濁を絡めた指を白龍は下の窄まりへと埋めてきた。
「い、ったぁ……っく」
痛みに息がつまった。下穿きは脱がされて、足は白龍が抱え上げるようにして左右に開かれた。窄まりに埋められた指が抜き差しされる度に痛みに呼吸がままならない。
――なんで、なんでこんな……。
耳に聞こえてくるぐちゅぐちゅという音が自分から洩れているとは考えられなかった。キスされて、胸を弄られて、イかされて――。あっという間に自分に起きた出来事が整理できず今も俺は混乱したままだった。訳が分からないまま、与えられている痛みに身体を強張らせている。
指が抜けていく感覚に息が吐き出される。白龍の指がまた腹の上の白濁を絡ませているのがわかった。同じようにまた窄まりへと濡れた指が差しこまれる。
「苦しいでしょうが我慢して下さい」
増やされた指と奥をする痛みに、白龍の声がやけに遠く聞こえていた。
――もう限界だ…っ。
痛みにぼんやりとしていた意識が鮮明になっていく。最初よりも慣れたのか痛みはひいたけど、探るように抜き差しされる指の感覚が気持ち悪くやっぱりまだ痛い。
「はく、りゅ…っ、ンアッ!?」
白龍の指が内側のしこりに触れた瞬間、体に電流が走ったみたいだった。
「ここですか」
白龍の指がそのしこり狙うように何度も指をうごめかす。
「ッア――――! ヒぁッ!!」
その度に走る刺激に身体がビクリビクリと跳ねた。なに、これ。さっきまで痛いだけだったはずなのに。しかも、胸を弄られていた時よりも、強い感覚。
「男性にも感じる所はあるんですよ」
囁く白龍の声に信じられないと目を見開いた。
――感じてる? って、俺感じている、のか?
何度か白龍の指がそこを擦り上げて、みっともなく俺が声を上げていたら不意にずるりと指が引き抜かれた。
「俺にもナニはついているんで」
「……は?」
――白龍、何の話して……。
「……ぁあっ!」
問いただす前に突き上げてくる圧迫感に悲鳴が上がった。温かいとは言えない無機質なもの。それが白龍が腰を打ちつけるように動くと俺の内側を抉っていく。指の時とは段違いの痛みに息が上手くできない。それでもそれは突き上げてくる。ずるりと大きいそれが内側を難なく動いているのはきっとさっきまで塗りこまれていた白濁のせいだろうか。動く度にずちゅずちゅと卑猥な音が聞こえてくる。動きを助けられたそれがさっきのしこりを潰すようにするまでそんなに時間はかからなかった。
反射的に上がった嬌声に白龍が嬉しそうに眼を細めていた。
狙ったようにそこだけを擦られ続けてアリババの口からは嬌声しか漏れなかった。
「気持ち良さそうで良かったです。熱も、沢山吐き出せましたね」
「……アッ…あ――――っ」
抱きすくめてアリババを穿ちながら白龍は、意識を半分飛ばしているアリババの眼の前で静かに微笑んだ。
『風邪引いたって聞いたけど大丈夫か』
そんなメールが届いていた。と白龍は何もかもが終わってから俺に報告した。
「ああ。その返事ですが、アリババ殿が返事を打てなかったので俺が代わりにうっておきましたよ。『俺が看病しているんで大丈夫です。ちょっとした運動で熱も下がりました』って」
「ちょっ!? お前何してくれてんのぉおっ!?」
カシムに勝手に送られた文面をディスプレイに映して見せられて頭を抱える。
「いっそ画像も送ろうかと思ったのですがアリババ殿の可愛い顔は俺だけのモノなんでやめときました」
続けられた言葉に昨日の行為を思い出して顔が赤くなった。もうやだこのスマホ。
「あのさ、その画像って……」
そう言って、俺はその言葉が失言だったと気付いた。
「これですけど」
そう言われて、我が家のテレビに映し出された果てた姿の自分に悲鳴を上げたのは言うまでもない。
「さすがに送ってないから安心して下さい。もちろん今日の映像もしっかり記録してますから。見たくなればいつでも言って下さいね」
「頼むから全部消してくれぇええええっ!!!!」
俺の悲鳴なんかどこ吹く風で、ああそうそう。と白龍は続けた。
「それからこれからの充電なんですが」
「…うん? え?」
唐突に変わった話題に思わず目を白黒させた。
「これからは夜にお願いしますね」
「へ? それで大丈夫なの?」
「はい」
振り返って考えればおかしいって気付くよなフツー。なんで気付かなかったんだろ俺。毎晩のように鳴かされて異常だって思った時には何もかも手遅れだった。
もうヤダ、このスマホ。
大事なことだから二回言いました。
prev /
next