- ナノ -





からん、ころん、からん、ころん。


下駄の軽やかな音が響く。それと同時に、頭につけた髪飾りがしゃらしゃらと動く音もした。
なぜ下駄の音がするかって?
それは、今私が浴衣を着ているからである。
キクノさんが見立ててくれた浴衣は、花柄の可愛らしく、センスのいい浴衣だ。流石キクノさん。しかし、着付けが面倒臭かったし、動きにくい。別に私はTシャツにハーフパンツで良かったのだ。
さて、ではなぜ私が、浴衣を着て歩いているか。その理由は…。

「遅いですよ、ヨツバ」
「ごめんごめん。しかしすごい人だね、このお祭り」

兄さんと、ハクタイシティの七夕祭りに来ているからだ。








「あー、美味しい」
「さっきフランクフルトも食べてましたよね。あまり食べすぎるとお腹壊しますよ」
カキ氷を頬張りながら、私は兄さんと並んで歩く。ちなみに兄さんも浴衣だ。認めたくないが兄さんはイケメンなので、浴衣姿もばっちり決まっている。そんな兄さんは、私の浴衣姿は、「馬子にも衣装ですね」と言いやがったが。
大体、何故私が兄さんとこのお祭りに来ているかというと、シロナさんとキクノさんに、「たまには兄妹水入らずで遊んでらっしゃい」と無理やり来させられたのである。そうでなきゃ来てない。何が悲しくて、実の兄と自主的にお祭りに来なきゃいかんのだ。
「ヨツバ」
そんなことを考えていたら、兄さんが私を呼んだ。
「何?」
「あれ、」
兄さんが指差す先には、大きな笹の木があった。短冊がたくさんぶら下がっている。
「願い事、書いていきますか」
「うん」
折角の七夕祭りなので、お願い事をしなきゃもったいない気がして、私たちは笹の方に歩みを進めた。



「書けた」
「私もです」
笹の木の下で、係りの人に短冊をもらって五分後。私も兄さんも願い事を書き終えた。私たちは同時に立ち上がり、笹の下へ向かう。
「ジラーチに届くかな、この願いも、笹の木に飾られた願いも」
「さあ、どうでしょうね。」
そんなことを話して、笹に短冊を結ぶ。
「届いてもらわなきゃ困ります」
兄さんがぼそりと呟いた。
「さて、結び終わったら行きますよ、ヨツバ」
「あ、兄さん、ちょっと待って」
私は、短冊を結ぶ振りをしながら、笹から離れようとする兄さんが結び終わった短冊を盗み見た。
そして、つい笑ってしまった。
そこには、私の短冊と全く同じことが書いてあったのだ。




『これからも兄妹仲良く過ごせますように』





星に願いを
(確かにこの願いは)
(届いてもらわなきゃ困る)






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