- ナノ -





「うわっ」

スーパーから出た瞬間、冷たい空気にさらされて思わず声が出た。店内は暖かかったからなあ。後戻りしたいけど、もう暗いし、早く帰らないと。

年末で皆が忙しく動き回る中、私は兄さんに命じられ、ナギサに買い出しに来ていた。性格の悪い兄さんは、ここぞとばかりに大量の買い物を任せてきやがり、結構な量になってしまった。正月に籠城するつもりかよ。畜生重い。
わたちゃんを街中で出すと迷惑になるので、浜辺に向かおうと顔を上げる。と、

「あ、」

何故か兄さんが待っていた。
「ヨツバ」
「兄さん、どうしたの?」
「お前が遅いから迎えに来たんですよ。暗い中、『一応』若い娘を歩かせる訳にはいきませんからね」
「流石兄さん、皮肉は一流だね」

優しいと思ったらこれである。兄さんはやはり性格が悪い。
兄さんは私の横に立つと、買い物袋を一つひったくった。
「ちょっと、」
「重い荷物は男が持つのが筋ですよ。相手が愚妹だとしてもね。さあ、帰りますよ」
兄さんはすたすたと歩き出す。待ってよ、と追い掛けると、兄さんは歩く速さを緩めた気がした。




「兄さん」
「はい」
隣を歩く兄さんに声をかける。
「もう今年も終わりだね。」
「そうですね」
沈黙。私は本題を切り出した。
「兄さんは、さ、里帰りするの?」
そう。帰省の話だ。流石に正月早々リーグに挑む酔狂な奴はなかなかいないので、リーグは休みとなり、常駐する四天王やチャンピオンもそれぞれ実家に帰るのだが、私は実家には帰らず、リーグの居住スペースで年を越す。もう何年実家に帰っていないだろう。帰らない理由については、今は語るまい。
しかし兄さんには、帰らない理由がない。兄さんが帰ったら、私はリーグに一人だ。受付にあるポケセンのジョーイさんと駄弁って過ごすことになるが、私に兄さんを止める権利はない。兄さんはどうするのか今のうちに知りたい。すると兄さんは、
「帰りませんよ」
と、こちらを見て言った。
「え、でも、」
「どうせお前は帰らないでしょう。お前を置いていっても仕方ありません。リーグで二人で年を越しましょう。」
いつもより柔らかい兄さんの声が、私の胸に染み込んでいく。一人ぼっちになる不安が消えていく。
代わりに、胸が温かくなった気がした。
意地悪な筈の兄さんが、いつも私の隣にいるという事実を確認できて、なぜか喜んでいる私がいた。
私は少しだけ兄さんとの距離を詰めた。
「そうだね。こたつで紅白見ながらぐうたらしようか!」
「お前はいつもぐうたらしてるでしょう」
兄さんの皮肉も気にならない。足取りが軽い。早く帰って、兄さんや皆と晩御飯を食べよう。
私は兄さんの手を引いて、浜辺へと急いだ。




年末兄妹ラプソディー
(そういえばさあ)
(はい)
(まだ大して話数稼げてないのに、年末季節ネタしかもシリアスな伏線まみれの話やるって、このシリーズぐだぐだだよね)
(メタネタでぶち壊すのはやめなさい)






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