- ナノ -





12月24日。今日はクリスマスイブ。


これだけで、わかる人はわかるだろう。

そう、今日は非リア充を地獄の底に叩き落す日である。
そして、かくいう私も非リア充。クリスマスを呪う側である。そう、呪うのだ。

何がクリスマスデートだ、何が性の6時間だ。てめーらキリスト教なんざ信じてねーだろうが。ただイベントにかこつけて大騒ぎしてベッドでプロレスごっこしたいだけだろうが、穢らわしい!
いいもん私は二次元の嫁と清く正しくイチャつくもん。悔しくないもん。バーカ!

そうやって呪詛を吐きながら仕事を片付けていた。リーグはクリスマスイブでも通常通り営業中なので、リーグ職員は、特に四天王とチャンピオンもみんなまとめて非リア充流クリスマスイブだ。はっはっは。
しかし、神は私を見捨てていなかった。
卑屈な気持ちで覆われた私の心を光で照らしたのは、シロナさんだった。




タッタッタッ。
暗い廊下を走る。仕事を片付けるのに手間取ってしまった。もうみんな始めているだろうか。
廊下の先に、明かりが漏れる部屋がある。その部屋のドアを開ける。
「あ、来たわね!」
「遅いですよ。」
「もう腹減ったー!」
普段はリーグ職員の談話室であるそこには、四天王とチャンピオンと、ナギサのジムリーダー、その他リーグの職員の皆さんが集っていた。




「クリスマスパーティ?」
「そう。ささやかなものだけど、みんなでやりましょうよ。仕事の後にでも、クリスマス気分を味わいましょう。」
「いいですねー!」
シロナさんの素敵な提案に、私と四天王の皆さんはすぐに賛成した。皆呪いのクリスマスなど、本当は過ごしたくないのだから。
「あ、でも、秘書である私も参加しちゃっていいんですか?」
「いいのよ!ヨツバちゃんもリーグの仲間なんだから!オーバ君がデンジ君を呼ぶみたいだし、独身のリーグ職員には声を掛けてあるから。」
さすがシロナさん。優しい人だ。
「シロナさんがここまで言うんですから、遠慮しないでいいんじゃないですか。」
いつのまにか背後にいた兄さんも同調する。兄さんは厳しいけど、私を除け者にしたりしない。兄さんにこう言われたこともあり、私はパーティに参加することになった。



「乾杯!」
その掛け声で始まったパーティ。ピザやらチキンやらがテーブルに並べられ、無礼講でドンチャンやるのだ。
「リョウ君とお前はソフトドリンクです。騒ぎに乗じて酒に手を出さないように」
兄さんに釘を刺され、私とリョウさんはシャンメリーをちびちびやる。
「ヨツバちゃん、これおいしいですよ」
リョウさんがピザを差し出してきた。お礼を言って受け取る。あ、美味しい。
「太るぞ、ヨツバ」
「だまらっしゃい!」
デンジさんがからかってきた。この人はいい人だけどデリカシーはない。あ、オーバさんに殴られた。
見渡すと、皆笑っている。恋人などいない人ばかりだが、楽しそうにしていて、私も心が温かくなった。
兄さんが、私もの頭をぽんぽんと撫でる。今日の兄さんは優しい。

こんなクリスマスの過ごし方も、アリだよね。
「…メリークリスマス、皆」







チュンチュンーーー


楽しい時間にもいつか終わりは来て、夜が更けるとパーティはお開き。皆それぞれ家路へ着き、私もリーグの居住スペースに。そして疲れも相俟ってすぐ眠ってしまった。
というわけで、クリスマス当日になってしまった。
ベッドから起き上がると、枕元に赤い包みがあった。


私の元に来るサンタクロースは変だ。


子供の頃には来なかったのに、もうサンタクロースなど信じないような歳になってから来るようになった。サンタクロースが来ないから、クリスマスは昔から嫌いだったのだが、昨日のイブは好きになれた気がする。
包みの中には文庫本が入っていた。面白そうな本だ。本を選ぶセンスがある人を私は一人知っている。


「…おはよう、兄さん」
「おはようございます」
洗面所で兄さんにばったり会った。
私は口を開いた。
「サンタさんからプレゼントが来た。本だったよ」
「良かったですね」
兄さんは白々しく言う。
「いかにも兄さんが選びそうな本だったよ」
「そうですか」
兄さんはぶっきらぼうに返事をして歯を磨き始めた。私は心の中で、白々しいサンタクロースにお礼を言った。


(メリークリスマス、ありがとう、兄さん)





クリスマスは恋人で過ごすだけじゃない
(サンタクロースがくれた幸せ)






prev next