19
久しぶりのしっかりとした休息にエミリーもリヴァイも静かに眠りにおちた、どれだけ疲れていようが体に染みついた習慣は抜けることなくいつも通りの時間に2人は目を覚まし体を起こす。
「…おはよ。」
「ああ」
先にリヴァイが目覚め、数十分後にエミリーが目が開き、彼女の幸せそうな寝顔を見ていたリヴァイと目が合い頭をおさえながら上半身を起こしベッドから足を出し立ち上がって脳を起こそうとその場で伸びをする。
「…起こしてよ…。」
日が顔を出し始め、空に淡い日差しが差し込みだした時間帯。
「そうしようと思っていたところだ」
「…ありがとう。」
朝の支度を済ませ正装を取りに行く為に一度自室に戻ろうとした時だった。2人が使ってる部屋の扉がコンコンとなる。
「はい」とエミリーが扉を開け隙間から外の様子を伺うと手に見覚えのある服を抱えて扉の前に立つリアムの姿があった。
「おはよう」
「おはよう、どうしたの?」
「エミリーちゃんの部下が持ってきたよ、団長に言われたんじゃないかな。」
「ありがとう」
私の分だけでなくリヴァイの分まで用意されてる。
「ゆっくり休めた?」
あぁ、そうだ。私昨日そのまま意識が落ちちゃっていつの間にかここに居たんだ。
「あのさ…、この部屋勝手に使ってしまってごめんなさい。」
「それは気にしなくていいよ。ちゃんと使用許可貰ってる。」
「何から何までごめんね迷惑かけて。」
「こんなのお安い御用だよ。それにこれは貸しなんだよ。な?」
扉に手をかけグッと引き反対側の腕でエミリーの腰に手を回し引き寄せ、下からリアムをねめつける。
「用は済んだろ」
その好戦的な視線に笑みを浮かべ見下ろすリアム。エミリーは困った表情を浮かべながら腰に回った手をほどこうと腕を力を込めるがビクともせず小さくため息を零す。
「この後戴冠式の説明が彼女の部屋であるんだ。一応報告を兼ねて、エミリーちゃんがついていてあげた方が彼女の精神的にも善いんじゃないかと思うんだけど、どうかな。」
リヴァイから視線を外しエミリーへ優しい表情を向け迎えだけではなく、彼女の精神的な援助をしてはどうかと提案する。
「ありがとう、彼女だけでも大丈夫だと思う。 けど、行こうかな。」
訓練兵時代から見守ってきたかわいい教え子だった彼女が、今日この壁の中の王となる。
「すぐ着替えてくるね。あ、中で待つ?」
「そうさせてもらうよ」
リヴァイはッチと舌打ちをして中に入り、エミリーがリアムを招く。彼女は小走りで寝室に入り早速着替え始めた。
「そんな露骨だすなよ。随分、余裕がないんだな、リヴァイ」
エミリーの好意で中に入れてもらったリアムはソファーに腰を掛け足を組み、壁にもたれかかるリヴァイに視線を向け爽やかな張り付けた笑顔を向ける。
「それはお前の方だろう。」
「俺?」
「わざわざ、使いっぱしりしてまで来るなんざ必死だな。」
「あー、俺が自らかって出たと思ってるのか?この建物には限られた人間しか入れない、今は戴冠式前でピリピリしてる。ほかの憲兵は警備や監視に充てられ、消去法で俺が来たまでだよ。それにしても、それほどまで警戒するほど余裕がないだなんてな。安心したよ」
「ああ?」
「まあ、エミリーちゃんは俺ごときがどうこうできるほどの女性じゃない。はじめは些細な好奇心、調査兵団へ出入りした際に見かけた時は驚いたよ。目に留まるということはこういう事を言うんだろうな、柄にもなく親父に話す程だった。自分でも驚いてるんだ、こんなにも個人に固執するなんて。」
「だったらさっさと諦めればいいだろ。」
「リヴァイは諦めれるのか?諦めろと言われて」
「愚問だな」
「欲を言えば、俺の嫁に来てほしい。家に帰ったらエミリーちゃんが待って欲しい。俺の隣で笑って、俺の胸の中で泣いてほしい、その声で名前を呼び続けて欲しいって思うよ。それは叶わぬ夢だ。彼女が最後まで人類の自由の為に戦い続けたいと思ってる、誰が何を言おうときっとそれは変わらない。」
「…」
「俺は一緒に戦えない、それはお前に譲る不本意だけどな。まあ俺はお前にはできないことが一つある。」
「ああ?」
「彼女の大事なかわいい後輩(女王)を側で護ることだ。」
シーンッと静まる中ガチャと寝室の部屋が開き着替え終えたエミリーが現れ、座っていたリアムが腰を上げる。
「おまたせ!」
「じゃあ、いこうか。」
リヴァイがエミリーに歩み寄り彼女が持っていた先ほどまで着ていた服を受け取る
「俺は、エルヴィンの所に戻る。話したいこともあるからな。」
「うん。あとで合流する。リヴァイの服もあの部屋に置いてる。」
「ああ」
ヒストリアを初めて見た時の彼女の印象は、どうしてこんな子が訓練兵として来たのかだという疑問だった。
憲兵になって優遇された生活を欲してるようにも見えない、自身を鍛える為とも思えない。
彼女は危ういと思うほどのお人よしで自身が怒られるかもしれないのに懲罰中のサシャに食料を持って行ったりいい子でいようとする傾向があった
それとは別に何かに負い目を感じ人からの視線を誰よりも気にして怯えてるるようにも見えた。
お人よしが悪いとは思わないけど、彼女の場合は何か違う感じがした。
とある訓練の日、その日の訓練は今までの課程の中で一番過酷な訓練だった。雪山での訓練は下手をすれば死人がでるかもしれないと言われるほどの訓練で緊張感があり皆の顔つきは今までにないほど強張っていた。
あの日以降、ユミルとヒストリアの間で何かあったんだと思うお互いを支え合うような。絆のような、他の仲間とは違う何かが
「何か考え事?」
「え?」
「険しい顔してたから」
リアムに感づかれるほどわかりやすい表情してたのか、地上での生活に慣れすぎてすぐに顔に出るようになったのかもしれない。
「んーー?ちょっとねぇ。ヒストリアのこと考えてた。」
「そんな難しい顔をして?」
「なんというか、やっぱり心配なんだと思う。訓練兵の間だけだけど一緒に過ごしたから情が沸いちゃって」
「エミリーちゃんは心配性だからね」
「女王になれって言われて、はい、わかりました。っていう強さを持ってる。そこに関しては心配してないんだけど。女王としての心配じゃなくて…なんというか…。不安要素が少しでもあるとその不安要素を根絶やしにするまで、安心できないのよね。」
「それはなんだか親心の様だね」
「そうなのかな?」
「そうじゃない?エミリーちゃん過保護だから」
過保護なのかな、ヒストリアを信頼してないわけじゃないけど、大人の汚い部分をしってるからこそ彼女を利用しようという奴が出てこない可能性が無いとも言えない。人間ほど信用できない物はない。
ヒストリアが居る部屋に着きリアムが扉を叩く、ヒストリアの可愛らしい声で返事が返ってきた事を確認しリアムがドアノブを握って扉を引くとエミリーの背中を押して彼女が先に部屋に入る。
「俺は外に居るから。」と言ってパタン扉を閉めた。
「エミリーさん。」
嬉しそうな表情で駆け寄るヒストリアの前に立ち、敬礼をする。その姿に困った表情を浮かべ手を取り椅子に座らせ、自身も向かい側に座り、神妙な面持ちで自身手を強く握りしめゆっくり話す。
「エミリーさんに、言われた事考えてみたんです。」
意識が落ちるほど疲れ切ってしまったせいで、自分が何を言ったか思い出せない。こんなに深刻になる様な言葉を私はかけてしまったのか。
「慈悲深く痛みのわかる女王になれればいいなって。」
「…そんなこと言った気がする…」
いつだったかは忘れたけど、記憶の片隅に残ってるその言葉に少しほっとした。疲れると視野が狭くなって語気が強くなってしまう。それで彼女を傷つけたかもしれないとおもってたけど、そうじゃなさそうでよかった。
「何をしたらいいのかまだわからないんですけど、一つしたいことがあるんです」
思ったよりも彼女は前向きに物事を捉えていた、ユミルを失った傷はきっと浅くはない。それでもこの壁の世界の王として、したい事を考える程与えられた職務を全うしようとしてる。
「こ、孤児院をしようかと思ってて。」
「ヒストリアらしくて、良いと思うよ。」
「そうですかね。」
私の何気ない一言を気にかけ、真剣に考えてくれる子が王か。壁の中も、捨てたもんじゃない。
「私、やれますかね」
不安気な顔で私をジッと見つめる瞳の奥はどこか揺れていた。
「やれるよ。」
「…どうしてそう思うんですか」
「どうしてかぁ…。んーどうしてって聞かれて言葉にするのは少し難しいけど。んー…私が尊敬する調査兵団に所属していた兵士だからかな。」
「…そ…うですか…。」
「昔も今も変わらない、場所が違えは根本的な目的も変わらない。」
「…今でも、あなたが側にいてくれたらなぁって思います。」
「んー…かわいい後輩の頼みでもそれはちょっと、困るかな。」
「わかってます。そんなことしたら皆に何言われるかわかりませんし」
皆というのは104期の皆の事だろう、彼女の身を案じた仲間達。
「そろそろ準備しなきゃね。」
「はい。」
腰を上げ戴冠式に向けての準備を始める、白の服を着たヒストリアの見て優しく微笑み「こんな可愛らしい子が王だなんてね。」と零すエミリーに対して「そんな可愛いらしい子の元で共に働いてみませんか。」と鏡越しに視線を合わし笑う。
準備が終え2人で椅子に腰を掛けお茶を飲みながらゆっくり昔話に浸っていると複数の足音が近づいてくる気がしてエミリーが立ち上がり扉前まで静かに近寄る。
「どうしたんですか?」
コンコン。
ノックをした後、ザックレーと名乗りドアノブを開けようとした瞬間。エミリーが先に扉を引き足でコンと止める。
「おはようございます。」
「もう来ていたのか。」
「何か不都合でも?」
昨晩の事もあり何気ない一言にさえエミリーの語気が強くなる。その様子を人の悪い笑みを浮かべ「そう目くじらを立てるな。」と添え目を部屋の中へやる。
複数の兵士がヒストリアの部屋に入ろうとするのを止め、ザックレーと彼女に説明する兵士のみ部屋へ入るよう伝え扉を閉める際、リアムと目が合う。てっきりリアムが中に入るものだと思っていたエミリーは不思議に思いながら扉を閉めた。
「彼女が、エミリー・アメリアですか。」
「ああ、そうだよ。」
「初めてお会いしました。」
「野次馬感覚で来たのか。」
「い、いえ…」
リアムとの関係など彼女の噂話は絶えない。消えたと思えば新しい話がどこからか湧き出る。
リアムだけでなく憲兵のトップまでもが気にかける調査兵団兵士など聞いたことがないからである。幹部たちの気にかけっぷりに元々憲兵だったのではないかという憶測まで広がったことがある始末。
「妙な噂に流されるなよ。」
「…はい。」
リアムの耳にも届いていた噂だ。ほとんどの兵士が知っていると言っても過言ではない。
良くも悪くもエミリーちゃんは目立つからなぁ。
部屋の中では戴冠式に向けての説明が行われ。その様子をヒストリアの後ろから目を光らせ憲兵達を静かに見守るエミリー。一通り説明が終えると訪問者たちが腰を上げ扉の方に向かう、エミリーが誰よりも先に扉前に着き開け次々と出ていく兵士
「少し打ち合わせをしてきます」とヒストリアに伝え後を追うようにエミリーも出た。ザックレーが出ていく際にエミリーに目配せをしたからである。
「彼女をよろしくお願いいたします。」
ザックレーに深く頭を下げる、その姿にその場に居た全員が目を見開き驚く。
「ほほう、では貴様が側に居ればいいだろう」
「…総統…。」
困った表情を浮かべながら顔を上げ視線をザックレーに合わし、少し呆れたように零す。
「くどかったな、お前の活躍を期待にしておる。せいぜい人間様の恐ろしさを分からせてやれ。」
その言葉を投げかけエミリーに背中を向けその場から離れていく。その場に残ったのはリアムのみだった。
「行かないの?」
「王の伝言役みたいになったからね」
「リアムがヒストリアの側に居てくれるの?」
「ずっとではないけど」
その言葉をきいて嬉しそうに笑みを浮かべリアムに抱き着く。
「よかった…。ありがとう。」
それほどまで喜ぶと思っていなかったリアムは動揺しつつも彼女の背中に腕を回し「エミリーちゃんの大切な子だからね」と耳元で囁く
「…ちょっと泣きそうになったじゃない」
胸を押して距離を取る。これ以上彼に甘えては自分が弱くなりそうな気がしたから。
「総統は、誰をあてがおうと君が首を縦に振らないことを分かってた。エミリーちゃんは憲兵の事信用はしてないから。」
「耳が痛い、仰る通りすぎて。」
「昨日の光景をみれば誰もが思うよ」
「憲兵で信用できるの、あなたとナイル師団長くらいだもの。」
「光栄だな」
「そっか、リアムがヒストリアの…。はぁ…よかった。」
心底安心したようにする彼女に、ゆっくり手が伸び頬を触り親指で頬を撫でる。その行動に不思議そうな表情を浮かべリアムを見上げ首を傾げ「どうしたの?」と投げかけ。
「エミリーちゃんは本当に強いね。」
心が切なく苦しくなるような表情を浮かべていた。その姿にエミリーは眉を下げ感情を読み取ろうと目を見る。
「どうしたの…?」
「俺の気持ちは、ずっと変わらないから」
「ごめんなさい。」
「うん、わかってるよ。でもこの気持ちだけは止めれそうにないんだ」
「……。」
「エミリーちゃんが調査兵団に居続けたいように」
「……。」
何も言い返せない、リアムの気持ちを私が口を出すのも違う。だからと言って応えられない私の事はいいから自分の為に時間を気持ちを使ってほしい。でもそれは私の我儘。
「困らせたいわけじゃないんだ、ただ。溢れ出てしまってごめんね。」
ゆっくりと手が離れ自嘲のような笑いを浮かべる。そんな顔をさせてしまったのは私のせいだろう。
「中に入ろうか、きっと心配してる。」
「うん…。」
いつも通りのリアムに心が痛む、リアムの気持ちが分かってしまうからこそ申し訳なさと不甲斐なさが込上げ眉間に力が入る。
リアムがドアノブに手をかけた時「俺はエミリーちゃんに利用されていい、都合よく使ってくれていい。切り札として考えて。」と悪戯っぽい微笑が浮かべコンコンとノックして中に入っていった。
式開始まで3人で過ごし他愛のない話をしていたら予定時間になり前にヒストリアを間に挟み前にリアム、後ろにエミリーがついて向かう。
式典が始まったらリヴァイの元に向かう。
住民たちの歓声が響き少し疲れるがその歓声がヒストリアに向けたものだと思うと幾分かマシに思えた。
ヒストリアが壇上に上がり彼女の頭上に煌びやかに輝く王冠。その姿をみて更に住民たちの歓声が大きくなる。
その姿に誇らしく思いながら眺めながら、リヴァイが居ないことを確認し屋内に移動し戴冠式が見える場所にいるだろうと目星をつけ探し回る。
その読み通りと戴冠式よく見える場所に見えのある影を見つけ隣に立つ。
「出なかったの」
「俺が居なくとも滞りなく進む」
「立場的に参加しなきゃいけないでしょ」
「自分の事を言ってるのか」
「あの人混み辛くて」
「そういう場だからな。」
「エレンの様子はどうだった?」
「お前はいつもそれだな。」
「仕事だからね」
2人とも窓に顔を向けたまま会話を続けヒストリアの雄姿を見届け戴冠式が終える。戴冠式も終えその場でリヴァイから今後の予定の話を聞き頭に入れる。そんな話をしていたら、遠くの方から複数の足音が近づいてきてるのが分かり視線を向ける。
104期たちがこちらに向かってくる。ヒストリアも一緒に。
エレンと何か話してるようだった。
「ここに来る予定だったの?」
「ああ」
「「「エミリーっ!」」」
「「「エミリーさんっ!」」」
エレン達が私に気づき駆け寄り、私の体調を気にかける。3人の頭を撫で「大丈夫」と声をかけるとホッとした表情をする。
ヒストリアがリヴァイの前にきた104期はどこか不安気に見えた、彼女の様子から見てさっきのやり取りでこんな雰囲気になったのだろう。
エミリーはリヴァイをヒストリアの前に出す。
ヒストリアは怯えた表情を浮かべ「うわーあー!」と叫び拳を握りしめリヴァイに振り下ろしポフッと可愛らしい音が鳴り、その姿を見た104期も雄叫びの様な子を上げる。
あぁ、作戦会議にミカサがヒストリアに言った事か。なんというか微笑ましいなぁ…。
「ハハハッ!どうだ!私は女王様だぞ!文句があれば…」
「ふっ」
リヴァイの背中しか見えず、どんな表情をしているかはわからない。でも皆の表情、すこし揺れた肩をみて。きっとみんなにとって予想外の表情をしてるのかな。
「お前ら ありがとうな」
今まで彼らに向けた言葉、声の中でいちばんやさしかった。
エミリーは104期の元へ行きヒストリアに抱き着き「ッホントに、最高だよッあなたたち。」と涙声で言う。
ヒストリアも彼女の背中に腕を回し「ッ…エミリーさんに出会えてよかったです…ッ」と涙声で返す。
「私もだよ。」
顔を上げヒストリアの目尻を人差し指で撫で皆に視線を移す。
「生きててくれてありがとう。」
「エミリーさん……。」
「エミリーッ」
ミカサが堪らず抱き着く。エミリーは拒むことなく優しく笑う
「期待してるよミカサ」
「そろそろエミリーから離れろ」
エレンがミカサの肩を掴み彼女からはがす。エミリーはジャンの前に行き前髪辺りを撫で
「今のジャンは自分が思うほど悪くないんじゃない?」
「はい。エミリーさんのおかげです。」
「まだまだこれから頑張ってもらうつもりなんだけどね」
「あはは……感がります。」
「あなたは私が思ってたよりも数段も上に居て頼もしかった」
サシャの首に腕を回し耳元で囁くエミリーの行動に照れながら後頭部をかく。
「あ、あなたの背中を見てきたので…」
その言葉にエミリーは腕を離しサシャの表情を伺う。
「そんな事まで言えるようになったの?」
「ほ、本心です!」
「疑ってるわけじゃないよ」
クスっと笑ってサシャの頭を撫でコニーに視線を移すとびくりと体を強張らせ硬直する。
「そんな怯えなくてもいいじゃない」
「怯えてるわけじゃ…」
ゆっくりコニーの首を回しびくつく体をギュッとだきしめる。今この中で一番気がかりなのは彼だ、ハンジの仮説の件もある。
私の中でもまだ整理できてない、当事者のコニーは更に…
「エミリーさん!?!」
「おい!エミリー!」
エレンが眉間に皺をよせ強い口調で彼女の名前を呼ぶ
「コニー、私が居る。みんなが居る。1人じゃないからね。」
「エミリー…っ…さんッ…。」
「いつも、その場の雰囲気を柔らかくしてくれてありがとう。その根っからの明るさに救われたこともあるから見失わないでね。」
「……は、い…。」
ゆっくり離れわしゃわしゃとコニーの頭をなで「私の誇りだよ。」と笑顔で投げかける。その言葉を聞いてとめどなく涙を流すコニーに呆れながらも微笑みながらポンポンと撫でる。
「……アルミン…。」
薬を盛られたときに一番心配してくれた、ずっと気にかけてくれた。そしてきっと察してるどういう薬なのかも、分かった上で皆に伝えず私の意思を尊重してくれた。それは上司だからってのもあったかもしれないけど。
「あの時はごめんね、みっともない姿見せちゃって。」
薬のせいとはいえ不本意だった。落ち着いたと思いこんでしまった、その考えが浅はかだった、今になって後悔しても仕方ないけど
「僕はなにも見てないよ。」
自分がどんな表情していたはわからない、けど抑えられない欲にまみれた体だった。どんな表情していたかなって言われなくても想像ができる…。
はぁ…そんなウソつかせちゃってごめんね。
「ごめんね」
アルミンのサラサラな綺麗な髪を撫でる。下を向き瞼に深い哀愁がこもった表情を浮かべて俯く。
「僕はもういい人じゃない。エミリーにとっても」
意を決したような面持ちでゆっくり顔を上げてまっすぐにエミリーを見つめ頭に置いてあった彼女の手を取り握りしめる。
「そんな僕でもきっとエミリーは肯定し続けてくれるんだろうね。」
「素行が悪くなっても困る。」
「そういう訳じゃないけど、近くも遠くもないよ。」
「…んー?どういうこと…。」
「僕は君の力になれるよう頑張るよ。」
「頼りにしてる。」
「守れるくらいに」
「それは先輩としての威厳が…」
「元々さほどないよ」
「突然、毒吐くじゃん」
「ほら、いい人やめたって言っただろう。」
「思ってたのと違ったんだけど。…なんだろ…んん、複雑。」
「ミカサみたいに無茶するし、エレンの様にたまに無鉄砲になるし。捨て身すぎる部分もあるから時折その行動に苛立ちすら感じるときがあるよ。」
アルミンの本音であろう言葉に動揺しながらも素直に心に刺さりエミリーがしょげる。
「それは、ごめんね。」
その様子をみたエレンがエミリーを自身の方に引っ張りアルミンを睨む。
「おい、アルミン。どういうつもりだよ。」
「本当の事だよ。」
「俺たちの事思っての行動だろ。」
「エミリーに命が落ちて救われても僕は笑えない」
「…それは…そうかもしれねえけど…。」
「でも、兵士として当たり前の行動だと思うんだよね。確かに自分の命すら守れない人に守れても迷惑かもしれない。けど最優先はエレンだから。替え効かない、人類の希望だから。」
アルミンが深くため息をつき、顔が綻ぶエレンを睨む。エレンはそんな視線すら気付かず嬉しそうに彼女の横顔を眺めていた。
「いい加減にしろお前ら、エミリーも気が済んだろ。いくぞ」
怒気を孕んだ声でアルミンとエレンへ視線を向け、その声に怯えるエレンと対照的にアルミンは落ち着いて声の主の方へ目を向ける。
アルミンの反応にリヴァイは右眉を顰め腕を組み「はぁ」とため息をつきエミリーの腕を引っ張り強制的に距離を取らせる。
「エレン、お前も来い」
「ちょっと、待ってっ!。ヒストリアも一緒に」
無理矢理引っ張られる腕を引っ張り返しヒストリアも来るように手招きするエミリー。
「ほかの奴らは戻れ。」
「はい。」
ミカサとアルミンは納得いっていない表情で4人を見送った。