20
ヒストリアを連れこのまま一人にさせてしまう事を心配したエミリー。彼女のことはリアムに任せようと憲兵の彼らがよく利用する部屋に向う。
到着すると、リアムとナイルが部屋の前で会話をしていてエミリーの隣にいるヒストリアを見てホッとした表情を浮かべエミリーの顔を見てナイルが頭を下げ、エミリーも同様に頭を下げる。
どうやらヒストリアを探していた様子で「お探ししましたよ」と彼女の元に歩み寄る。これからはリアムが彼女の事を気にかけてくれる、それだけでも心に余裕ができた。
「では、失礼します。」とヒストリアに声をかけ、リアムに目配せしてその場から離れる。
「エミリーさんっ! また…会えますよね。」
後ろから聞こえた少し震えた声に口角をあげて優しい表情を浮かべ振り返る。
「もちろんです。」
「必ず、ですよ。」
不安気な表情を浮かべるヒストリアの大きな目を見つめて、目の端でチラリとナイルを見て。彼女の立場を考え言葉を選ぶ。
「仰せのままに。」
微笑み目を伏せ心臓の前に拳をあて頭を下げる。顔を上げ目を合わせる前に背中を向けてふぅと息を吐き前を向いて足を進めた。
これからは女王としてかぁ。寂しいような嬉しいような。複雑な気持ちだなぁ。
「あいつ寂しそうにしてたな。」
エレンの言葉に更にこみ上げるものがあってグッとこらえる。
「エレンも会いに行ってあげなよ」
「俺よりもエミリーに会いたいんだろ。」
「そんなことないと思うよ。…んーなんだろ、寂しいね。」
「死んだわけじゃねえ、いつでも会える。それに、俺が居る。」
「おおっ…少し前までヘタレだったくせにー。」
「今それは関係ないだろっ!」
「お前ら俺が居ることを忘れてねえだろうな。」
後ろから2人のやり取りを静かに見守っていたリヴァイが会話を遮る様に口を開く。
「ぁ…。いえ…。」
と肩を震わせながら怯えるエレンに苦笑いを浮かべ、後ろにいるリヴァイへ顔を向け「あら、居たの。」と冷ややかな目を向ける。
「ああ?」
「冗談だよ、さっきまでの優しいリヴァイ兵長はどこへ行ったのやら」
「…。」
「…これで…ひと段落かな。」
私の過去についてはまだまだわからないことだらけだけど、とりあえず誰かの記憶の中に私達一族のことが残されてる。目に見えない分、探すのには一苦労しそうだけど。一族の記憶は改ざん対象なのか、そうじゃないないのか。
新たな疑問が生まれて、少しめんどくさくなってきた。でも、私の過去にはきっと何かある、出なきゃ秘匿にされるわけない。王に近い存在だったのであれば、人類に関わる何かがあるんじゃないかと考えてしまう。
「はあ」
「どうしたんだよ。」
無意識に零れたため息にエレンが疑問を投げかける。
「んーーー…、エレンの記憶障害ってどこまでなんだろうね。」
「はぁ?どういうことだよ。」
「ほら話してくれたでしょ、断片的な記憶というか意識というか。その中で、イェーガー先生は私の事なにか言ったり聞いたり見たりしなかった?」
「…あぁ…その事か。」
「心当たりある?」
「ああ……、俺が見たのは。親父が、エミリーから離れるな、彼女はお前を導く。って言ってた記憶だ。」
抽象的過ぎてわかりずらいです、イェーガー先生。
「それだけ?」
「今はそれしかわからねえ。」
「とりあえず、エレンの側にいろってことなのかな…。」
「…おそらく。」
「エレンを導く…かぁ…意味が分からない。具体的にどういうことなのか…」
「今は思い出せたのはそれだけ…ごめん。」
「ううん、ありがとう。また何か思い出したら教えてね。それより、今は目の前の課題を整理していこう。地下室に行けば必ず手がかりがあるはず。」
兵舎に戻り2人と別れ、団長の部屋に入る。椅子に腰を掛けていたエルヴィンの腕は直視できず、瞼を伏せながら扉の前に立ちその場で話す。そんなエミリーの思いもむなしく、彼女の目の前に立ちはだかり見下ろす。
「そんな顔をしないでくれないか。エミリー。」
「…。」
「自分が思っていたよりも、君を抱きしめられないというのは寂しいな…」
自嘲気味に笑うエルヴィンの声に胸がギュッと苦しくなり、目の前に居るエルヴィンの胸に思い切り飛び込み力強く抱きしめるエミリー。
頭に思い浮かぶのは”ごめんなさい”ばかりで、それを言葉にするのは自己満足なのも理解してる。わかってるけど…
「よくやってくれている。君は本当に優秀な兵士だ。」
優秀…私が…優秀なら、きっとエルヴィンの腕はあった。自分が側に居ながら肝心な時に限って危機察知能力が下がる、冷静だと自分で思っていても実際はエレンの事で頭がいっぱいだった。
「…。」
「2人をよく守ってくれた。リヴァイとハンジからすべて聞いている。」
全てとはどこまで聞いたのだろう。ケニーの事?私の失態で2人を危険にさせた事?
頭に手を添えられ顔を上げるエミリーの首元のチェーンを引っ張り出し、プレートを優しい目で見つめキスを落とす。
エルヴィンにとってその首飾りは彼女との繋がりで自分のものだと主張し欲を含んだ印だった。
「エルヴィンの失った腕の代りを私がするから。」
「それは、片時も離れず共に居るということか?」
「…そうともとれるね。」
そういう意味で言ったんじゃないんだけど…と思いつつ。言われてみればそうかもしれないと思ってしまったエミリーは、少し困惑した。
エルヴィンと四六時中一緒は苦だとは思わない。昔に戻るような感覚になり懐かしさすらある。
エルヴィンの背中に腕を回して耳を心臓にあてがい、生を実感する。ドクンドクンと心地い心音を聞いて自分自身が落着いていくのがわかる。
「それを許さない奴がいるな。」
「そこは団長権限でどうこうできるんじゃない?」
エミリーの頭を撫でながら皮肉めいた笑みを浮かべていた。
「どうだろうな。」
いつも通りの雰囲気にもどりエミリーの精神も安定しはじめたことを察したエルヴィンは、彼女から離れて机の前に戻る。エミリーもその隣に立ち机に手をつきながら卓上に並べられた書類に目を通す。
「何か飲む?」
「ああ、頼む。」
こんなやりとりも久々でくすぐったく感じる。
「ヒストリアが孤児院作りたいって言ってた」
「そうか」
戸棚からカップと紅茶の葉を取り出しながら、思いついたことを話してみた。
「エルヴィンはさ、私の事何か知ってる?」
「というと?」
「私の先祖とか」
「いや、知らないな。」
「リリアからも聞いたことない?」
「ああ、何も聞いてない。」
「そっか。変な事聞いてごめんね。」
元々エルヴィンには期待してなかった。調べていたとしてもリアム同様、大した収穫はないだろうし。リリアから聞いていたら話は別だけど、リリアはきっとそんな話をしない。過去なんて今まで聞いたことなかったし。
「何かあったのか。」
「詳細が分かり次第報告する。」
「そうか。」
「今はエレンの硬化訓練をなんとかしないと。」
「そうだな。」
飲み物を机に置き2人で書類を整理していたら、コンコンと扉が鳴った「そろそろ来る頃だとは思っていたが」と口角を上げわらうエルヴィンに眉が下がる。
エルヴィンが返事をすると扉が開き、チラリと扉の方に目を向けて元に戻すエミリー。
「どうした。」
「休息も兵士にとって大事だろ」
それは私に言っているのかエミリーに言っているのかは聞くまでもないか。エミリーはリヴァイが入ってきたのにも関わらず手を止めることなく机の上の書類に目を通し順番に並べ整理を続けている。
「そうだな。」
気にせず作業する彼女をジッと見上げると「え?なに?」というような目をしていて頭を傾けた。
「君の事だ。」
「え?私?」
「他に誰が居る。」
「エルヴィンも休むなら。」
「そいつは好きでやってる」
「私も好きでここに居るんだけど。」
少し不機嫌に答える彼女の言葉を聞いて口角を上げるエルヴィン。逆に口角を下げるリヴァイ。エミリーはお構いなしに作業を続け、記録を作ろうとしていた。
フッと笑い作業する彼女の方をみて「エミリー。」と呼びかけると、顔を向けることなく「はい」と返事する。
「何か気がかりがあるのだろう、なら頭を休ませるべきだ。」
そう言われてエミリーの手がピタッと止まり背筋がピンッと伸びクルっと体が回り複雑な表情を浮かべエルヴィンの方を見る。
「…なんで?」
「昔に比べて君はわかりやすくなったからな」
「…いいことなのそれ」
「それは君次第だ」
「悩みの種増やしてくれてありがとう。」
「更に休息が必要になったか。」
「…では…お言葉に甘えて。」
持っていたものを机の端に置いて。リヴァイの前に立ち止まってクルっとエルヴィンが座る方を向き頭を下げ「エルヴィンもちゃんと休んで。」と添え部屋を後にした。
王政のクーデタ後、壁の中で様々な事がおきた。新しい武器の開発、地下空間で光る鉱石の発見、兵団の粛清。失ったものも少なくはなかったが、得たものも多かった。
ここのところずっとエレンの硬質化能力の実験ばかりでエミリーの心中は穏やかではなく、肉体的にも精神的も少なからず影響のあることを知ってるからこそ間隔をあけて行使してほしいとは思っていたが。
そんな悠長な事を言ってられないのも事実、すぐに強くなる訳でもないが着実に能力の底上げをするには致し方無いと自分に言い聞かせ見守る。
ハンジ先導の元、新兵器を使っての実験の最中。新兵器の「地獄の処刑人」の成功を喜ぶハンジの背中を眺めて、フッと口元を緩め見つめる。実際は成功した事よりもエレンの体調が気がかりで素直に喜べずにいた。
そんな時だった、エミリーの隣に立っていたエレンの鼻からボタボタと血が流れ床に落ちるのを目にし眉を顰める。
「やったなエレン」と喜ぶハンジに声をかけることなく。
かがんで血を抑えようとするエレンの手を掴む。
「使って」
「ぁ…ありがとう。」
エミリーのハンカチで血を拭うが、拭いても拭いても流れ出る鼻血を見てリヴァイが口を開く。
「おそらく、巨人の力を酷使しすぎたんだろ。」
「こうなることはわかってたけどね。」とエミリーは目を瞑りふぅと自身の気持ちを抑えようとする。
「硬質化の実験ばかりだったからな。」
「すまない エレン…」
「俺が疲れたくらい何だって言うんですか。 早く武器を揃えていきましょう。」
エレンの言葉にきゅっと眉を顰めゆっくり立ち上がりその場を離れる。
「おい、どこにいく。」
「ちょっと頭の整理してくる。」
わかってる。わかってる。口を出していい事ではない。エレンがいいというのなら継続すべき。でも、いつまで?エレンは人間で消耗品じゃない、修理すれば直る兵器とは違う。限界がある、その限界は誰が決める?エレンの様子から見てこれからもこんな調子でこのまま続けられる。
仕方ないと言い聞かせるにもそろそろ限界なんだけど。
「エミリー。」
新兵器の設置が終えれば落ち着くのかな。わかってたけど、わかってたけど…見ていていい気はしない。エレン1人で戦うわけじゃない。確かに巨人の能力は私達人類にとっては最大の武器かもしれない。けど…
「おい。」
ポンと肩を叩かれ勢いよく振り返るとリヴァイが立っていた。
「…どうしたの?」
「……お前は兵舎に戻れ。」
どんな顔をしていたのか、露骨に目を逸らされた。
「わかった」
エミリーは兵舎に戻り書類整理でもしようと思っていた時だった。ハンジが駆け寄ってきた。
「エミリー…、すま「謝ることじゃないでしょ。すべきことなんだから。それに私は書類整理がむいてる。報告書はハンジに押し付けるね、じゃ…よろしく。」」と言ってニコリと笑う。
エレンの方に視線をやると、まだ鼻血は止まってないみたいでハンカチで押さえ目が合い少し辛そうに見え直視できず目をそらし、壁の下を覗き込み人が居ないか確認し壁から飛び降りた。
「ちょっ!エミリーー!」
てっきり荷台で降りると思っていたハンジは目を見開き壁の下を見る。他の兵士も驚いた様子で壁の下を見る。
「エミリー・アメリア初めてみた時は、こんな女がって思ったが」
「今のを見せつけられちゃあ」
「うわぁ、えげつねえ。」
「すっげえー…」
「あれだろ、婚約者いるんだろ」
「あぁ、憲兵だっけ?」
「いつ死ぬかわからねえ調査兵団にいるのにな。」
「でもあの人がいなけりゃ調査兵団の戦力も落ちるだろ」
壁の下を覗く兵士たち言葉にハンジは苦笑いを浮かべ、リヴァイは額に青筋を浮かべる。
「まあまあまあ、落ち着いてリヴァイ。」
「ああ?俺は落ち着いてる。」
馬に跨り調査兵団兵舎に戻り頭を冷やそうと思っていたら「「エミリー!」」と呼び止められ振り返るとアルミンとミカサとジャンが駆け寄ってきた。
「どうしたの?エレンと硬質化の訓練じゃ」
馬をつないで並んで歩く。
「そうなんだけど。ね。」
「…顔色がよくない。」
ミカサによって伏せていた顔があげられ両頬に彼女の暖かい手が添えられる。
「気のせいだよ」
「エミリーはいつもそういう。ちゃんと休んだ方がいい。」
「そうですよエミリーさん、いつも俺たちよりも遅く寝て早くに起きてるじゃないっすか」
「そんなことないよ?」
兵舎に入っても付いてくる3人に少し安心感すらあった、今一人になったら気持ちが落ちて後ろ向きになりかけ弱腰になりそうだったから。
「ちゃんと食べて休んで」
ミカサの強い言葉に微笑み「ありがとう。」と答えると。
「お礼じゃなくて行動で示すべきだよ。」とアルミンに言われくしゃっと笑い隣を歩く彼に視線を向け「最近、私に厳しいなぁ」と零す。
「エミリーは、どれだけ言っても上司の命令以外自分の事は後回しにするからね。こんな風に言わないと理解しない。僕たちがどれだけ心配しても聞き入れない、全く困った上司だよ。」
「おまっ…ちょっと…言いすぎだろ。」
「大丈夫だよ、エミリーはこう言っても素直に聞き入れない。」
「座り仕事だし、そんなに疲れないよ」
「…いつもこうなのかよ」
「そうだよ。昔から何も変わってない。」
「そんなことないよー…?」
アルミンの頬をつつき笑うエミリーの腕を掴み
「僕は、無理難題を言ってるわけじゃないよエミリー。いざという時にまた前みたいに…」
あぁ、あの時というのは。薬を盛られてしまったときの事だろう。あの時の不注意は完全に過集中のせいで、疲れすぎたとかではない。
「あれは、私のミス。あの時は万全だった。隙を作った私が悪い。」
「あの薬は…「アルミン。大丈夫だから、これからは単独で動かない。あの時は、過信してた。もう同じことはしない。」
これ以上話すなというような圧をかけ、アルミンの発言を遮る。
「……じゃあ僕が就く」
「おいおいおい、それはお前が決める事じゃねーだろ」
「私だってエミリーの側でエレンを守りたい。」
3人の会話を聞きながら自室ではなく食堂方向に向かう。
「そっちがエミリーの部屋?」
「ううん、食堂行こうかなって。軽く何かつまもうかと思って。」
「一緒に食べてもいい?」
ミカサの提案に他2人も乗ってきて、結局4人で食堂に向かうことに。食べるものを取り席に着く。
「エミリーに婚約者が居ると聞いた。」
「ゴホっ!ゴホッ…エッ!?」
咀嚼していたものがつっかえ咳き込むエミリーに飲み水を手渡すミカサ
「あのチビではなく、憲兵に居ると聞いた」
「ただの噂話だよ。えーー…もしかして、信じた?」
「私は、信じてない。みんなが」
「俺だって信じてねえよ!マルロが勝手に言ってただけだろ!!」
黙々と食べるアルミンをよそにジャンは慌てた様子でエミリーに弁解する。
「マルロ…マルロ…。あー、あの憲兵の子。正式に異動してきたみたいだね」
「はい。」
「まだ異動してきた人の名前と顔が入ってなくて」
チラチラとジャンが見てくるので苦笑いを浮かべて「なーにー?」とスープを飲み終え頬杖をついて聞くとびくりと肩を揺らし目を泳がせる。
「い、いえ。何もないです。」
「本当にー?」
「エミリーに婚約者なんてありえない。私は認めない。」
パンを食べ終え冷たい声と目でジャンを睨むミカサ。
「居てもおかしくないよね。」
「アルミン。どういう事。」
「エミリーは僕達よりも大人で綺麗で強くてかっこいい、そんな女性を誰も放ってはおかない、縁談の一つや二つきてるんじゃないかなってことだよ。兵団の資金援助するとか言って内地の人間とかね。」
「そんなのないですー考えすぎじゃない?」
「団長しかわからないと思うよ。」
「いやいや、ないって。」
「あのチビより、あの憲兵の方がまし。」
「あの憲兵って誰だよ。」
「あー…試験の時に居たあの人の事じゃないかな。」
「リアム・シャルロット司令か」
「リアムは調査兵士を相手にするほど女性に困ってない。」
この話がいつまで続くのかと飽き飽きしながら食器を片付けるエミリーの後ろを3人がおってくる。
「訓練兵のとき、エミリーさんが飛んだ日あったじゃないですか。」
「あーあったねー。」
「あの時俺、リアムさんと見てました。」
「そうなんだ。」
後ろからジャンの言葉を聞きつつ頭では別の事を考える。異動してきた人の名前と顔、配属先。ヒストリアからの孤児院設立の応援要請など。
「俺正直、あの人がエミリー恋人かと思ってました。」
「……ははは……。」
渇いた笑いを零し自室に向かう。
「……俺は、まだ…貴方の力になれるほど強くないです。」
「?」
歩いていた足を止め後ろを歩いていたジャンの顔を見る。
「それでも、指をくわえ黙って眺めるだけなんてしたくありません。」
真剣な目をしていうジャンにふわっと笑い歩み寄る。その様子を見守るミカサとアルミン。
「私は、いい仲間を持った…。もし、私が腑抜けた時、思い切り殴り飛ばしてね。」
「ぁ…ぃや…」
「期待してるよ。」
「……は…はぃ…。」
熱のこもった目を向けられ否定することができなかったジャンは困りながらも返事した。
「じゃ、私は自室に戻るから。3人はそれぞれ体休ませるなり、身体を鍛えるなり。有意義な時間を過ごすんだよー」
「エミリーの部屋に行ってもいい」
ミカサが小走りで彼女の背中を追いかけ隣に立つ。
「いいけど、こき使うよ?」
「構わない」
「飲み物くらいは出してあげる。」
そんな2人の背中を見つめるジャンとアルミン。先に口火を切ったのはアルミンだった。
「…渡さないよ。」
「あ?」
「エミリーの事諦めてなんて僕に言う資格はない。ただ、彼女は僕にとって譲れないものだから」
「…お前いうようになったな。それともあの人が絡んでるからか。」
「…」
「まぁ、なんだ。どちらにせよ。俺だって譲る気なんてねえよ。」
「いつから」
「ああ?」
コツコツと歩幅を合わせながら歩く。
「ジャンは、ミカサの事が気になってるのかと思ってたよ。」
「はあ?」
「でも、調査兵団を選んだ時。腑に落ちた。君の視線の先にはいつもエミリーが居たから。」
「……なんだよ。」
「別に何もない。」
「牽制のつもりか?」
「エレンじゃあるまいし。」
「だよな。お前はいい人で居たいんだもんな。」
いい人…、僕はエミリーにとっていい人でありたい。それ以外の人間にどう思われようとエミリーが僕を信じてくれている限りどうでもいい。
「……ふっ。」
「どうした。」
「ライバルが多くて困るよ。」
「同感だ。」