18


あいつが言っていた客室の前まで来たのはいいが、今更ながら憲兵野郎に貸しを作ったことに後悔し始めてる。


本当に今更だがな。



指定された部屋のドアノブに手をかけ扉を引き中に入る。


鍵を閉めリヴァイの腕の中で静かに眠るエミリーをソファーに降ろして、マントと立体起動を外して立体起動は床にマントはソファーにかけておく。いつもなら目覚めるが、ここ数日の疲労で目を覚ます気配が全くない。


エミリーが目を覚ます前に各部屋を確認しベッドがある部屋へエミリーを抱きかかえ連れて行く。


無理もねえ、ほとんど食わず寝ず動きっぱなしの振り回されまくりだ。訳の分からねえことばかりで精神的にも肉体的にも限界がきた。ただそれでだけだが、もしかするとこのまま目覚めないのじゃないかという不安も少なからず頭の片隅にくすぶる


あのまま戻ることなく王の側近として穏やかに暮らしてほしいとも願った。


俺もあいつらと同じだ。お前に強要したかった、どうか前線から退いてほしい。お前は微塵もそんなこと望んでねえのはわかりきってるのにな。






すやすやと眠るエミリーの目元を指で軽くこすりシャワールームで自分の邪念を洗い流すように頭から水を流す。上半身は何も纏わず雫が落ちないよう首にタオルをかけたまま静かに眠る彼女の様子を覗きにベッドのふちに腰掛け眺めてる。


覗き込むように見ていたせいで、濡れた髪の水滴がエミリーの肌に触れてしまった。首のタオルで水滴を拭った時だった。


ほとんどの体重をかけてた方の腕を捕まれ引っ張られエミリーの上に倒れこみそうになったがギリギリの耐え「…起こしたか。」と呼びかけるとゆっくと目が開いた。


焦点が合わない虚ろな目で見上げ目の前にあるリヴァイの顔を見て不思議そうな顔をして「…寝てた。」と抑揚のない声で独り言のようにつぶやく


そんな彼女の隣にそのまま寝転がり「少し休め。」と頭を撫でながら言うと、それに甘えるようにリヴァイの首へ腕を回し抱き着く。彼女からこんなことしてくることは珍しく驚くリヴァイ


「疲れたね。」と儚くこぼすその一言では表せない程、短期間で色々ありすぎた。


安心したような声で「リヴァイの匂いがする…」と言って頭をこすりつけるエミリー。


「もう少し寝ろ。」

「私も、浴びてくる」


首にあった腕が離れ起き上がりベッドに腰掛け、掛布団から足を出し立ち上がろうとするエミリーの腰に腕を回し抱き寄せる。


「んー…?」


こんな華奢な体で今まで戦っていたんだな、無理をするなと言っても聞き入れやしない。俺の目の届かない場で戦うと決まって満身創痍だ。今回は薬まで盛られた、それなのにお前は当たり前のように人類に仕える。


「体は大丈夫か」


薬の副作用で意識が混濁したと聞いた、どれだけ鍛えていても薬には敵わない。薬を盛った奴ですら許すお前は好きになれそうにない。兵士だとわかっていても、俺は今でもお前が平和に暮らすことを望んでいる。


「んー思ったより…」


まだしっかり頭が働いていないのか抵抗することなくされるがままの彼女の肩に額をあてすこし体を預け音にならないような声で名前を呼ぶ。


「エミリー…」


俺はお前が思ってる程、いい奴じゃない。


「リヴァイ…」


縋るように甘えてくるリヴァイに対して微笑みながら甘く優しい声で呼びかけ頬に手を当て。


「あなたが居てくれて…ほんとによかった。」

「…こっちの台詞だ。」


エミリーの甘い言葉に顔をあげ視線を合わし、彼女の頬に手を置く。優しく微笑みかけてくる目を見つめながら唇の端にキスを落す。


「お前の居ない世界は考えられなくなった。」

「大げさだなぁ」


柔らかく微笑みリヴァイの手に自身の手を重ね。


「でも、お互い様かも…ね。」とやさしく諭すような口調で零し手の甲を撫でゆっくり立ち上がり「汗流してくるね」と言い残し部屋を出て行った。













身体を洗い流してる間、限界が来て涙をこぼすエミリー。


本当に色々ありすぎた、自分の中で一番ショックが大きかったのはケニーという存在を失ったこと。私の幼少期を知る数少ない人、ナイフの持ち方をはじめ私に色々教えてくれたやる気があるのかないのかわからないおじさん。



最後のやりとりを思い返す


「お前は笑えてるか。母親に似て、男を見る目がねえな。」


おかげさまで、本当におかげさまで。今、昔に比べて笑えるようになったよ。あの頃は心が枯れちゃってて、口角が上がることが少なかったよね。そうしなきゃ生きてけないと思ったから、最善がそれだと勝手に決めつけた結果、表情も死んじゃってたよね。


母親から譲り受けたものは、容姿だけでなくほかにもあったんだね。まさかそれが男の趣味だなんて血筋って怖いね。


私のお母さんの事を知ってるかって聞いたら、知らないって秒でバレるような嘘をつくなんて、どうしちゃったの。


一族の事聞いた時は答えてくれないけど、きっとケニーにとっても大事なことがあったから言えなかったのかなって思う。



「私のお母さんの事好きだった?」なんて聞くなんて野暮だったよね、でも「かもな。」
って言われた時の表情は穏やかに見えたけど思い出が胸を掻きむしったよに笑ってて見てるこっちが苦しくなった。



再会がこんな形になったのは哀しかった。生きてればまた会えるかなくらいに考えてた。でも、まさかこんな風になるなんて思わなかったよ。


置いて行かないでなんて幼子の様な駄々に笑って女になったな、って言うのケニーくらいだよ。


荒く頭を撫でられた時、昔もこんな風に撫でられたなって思い出した。お世辞にも優しいとは言えないけど、嫌じゃなかった。






「エミリー 笑っててくれ。 」


笑えないよ…ッ。もっといっぱい話したかった。色んな話聞きたかった、聞いてほしかった。




そっちでお母さんに会えるといいね。次会ったらちゃんと気持ち伝えるんだよ。私はもう少しこの壁の中であがいてみるから、それまでどうか安らかな時を過ごせますように。









ガチャと寝室の扉が開く髪が濡れたままのエミリーを見て手を引きベッドに腰を下ろさせ頭にタオルを乗せ水分を含んだ髪を丁寧に拭く。


「風邪ひくだろ」

「大丈夫だよ」

「お前の大丈夫ほど説得力のないものはない」

「ひどいなぁ」


エミリーはヘラリと笑い大人しく髪を預ける。はぁっと無意識にでたため息に「どうした」と問われ右側口角を上げ自嘲気味に話し始める。


「男見る目がないって言われたなぁって」

「ケニーのことか」


ピタっと手が止まり抑揚のない呟きの様な声にふっと笑い「うん」と返す。


私たちは、お互いの過去をよく知らない。私の場合は自分自身の事すら危うい。人の好奇心は底を知らない、知りたいという欲求に貪欲で自分が納得できるまで答えを探し求めるそれがどんな結果であろうと。


「私、地下の娼婦館に居たって言ったよね」

「ああ。」

「私が物心ついたころには、当たり前のようにエミリーって呼ばれ。ナイフの握り方から処世術やら地下で生き抜く術を熱心に教えてくれるおじさんだった。その頃にはもう憲兵に所属してたと思う。エルヴィンと会うようになってからは私の前から居なくなって。きっと憲兵としてよろしくやってると思ってた。また、いつか会えるかな程度に考えて。」



私は憲兵ではなく調査兵団を選んだのは、エルヴィンという存在が一番大きかった。当時のは私は誰からも必要とされていないと思っていた、人を殺すことで自分の存在意義を見出し。

その行為を否定するわけでも肯定するわけでもなく、やり方を変えることを教えてくれたのがエルヴィンだ。

身体を重ねたこともなく、ただ自分の力になってほしいと言われた時は私なんかに生きる理由を与えてくれた神のように思えた。


「私のお母さんとケニーの関係はわからなけど、あの人はずっと笑えと言い続けてた。最初はそりゃ泣くより笑っていた方が幾分マシだからっていう安易な考えだったけど。好意を寄せていた人の子供が人形のように感情が乏しい子になってたと思うと。少なからず心を痛めセンチメンタルになったのかなって…まさかリヴァイの伯父さんだなんて。世界は本当に狭い。」















エミリーの話を聞いて少し自分の過去を思い出した。死にかけていた俺の元にあいつが来た、ただのケニーと名乗りその後連れられパンを貪っていた時だ。


あいつの後ろから2人の女が話しかけ俺たちのテーブルに何食わぬ顔で腰をかけケニーと談笑していた。その2人は今まで見てきた人間の中で一番違和感があった、浮いているわけじゃなかった、でも優しさを纏った人間なのだろうとなんとなくそう感じた。


「なにこの子。」
「あなたの子?」


バツが悪そうな顔をしていた。リリアという女が俺の隣に座りも、もう一人シアンという女がケニーの隣に腰を掛け頬杖をしながら俺の事を見ていた。



俺は正直誰かなんてどうでもよかった、腹が減ってたから。


「こんにちは。」と俺の隣に座っていた女に微笑まれたがチラッと見て視線は目の前のパンに戻した。


どう接したらいいかわからなかったのもある。


「名前は?」とケニーの隣に座って…た…女。


重なった、地下街で追いかけられてる時の冷たい視線と表情がエミリーに似ていた。



今更思い出した。



きっとあの女がエミリーの母親。



店員が持ってきた飲み物を片手に持ち俺の隣に座ってパンを貪る俺の頭を撫で何か声をかけるわけでもなく俺の前に置いた。

チラッと表情をみようとパンに向けていた視線を女に向けた、優しい笑顔を浮かべていて驚いたのを覚えてる


その後「このおじさんに何かされたら、私の所においで。絞めてあげる。」と軽く柔らかな声が俺の耳をかすめ固まった。



シアンという奴の声がとても心地よく暖かく感じだ。


どうしてそんな事言ったのかわからないが、見つめられた目をそらすことができない程子供ながらに衝撃を受けたのを覚えてる。母親以外から優しく微笑まれたのはこの人たちが初めてだったから。


その日以降2人はケニーが居ない日を見計らって俺の所に顔を出し食べ物やら身につけるものを持ってきた。身の回りの掃除洗濯はあいつらを見て覚えた。


会話はさほどしなかったが、それも来てくれることに嬉しさはあった。


今になって、はっきりと思い出した。ケニーが自分が居ない時に2人がよく来ていたのを察して「俺よりもよろしくやってるじゃねーか」とぼやいていた。


ケニーが俺の前から消えた数日前に2人が来て「信じる力はあなたを強くする。強く生きて」とシアンからの最初で最後の抱擁に戸惑いながら、離れた時のシアンの表情は俺が今まで見たことない表情をして恐ろしかった。


訳が分からなかった、当時の俺はその言葉が別れの言葉だということに理解するのに時間がかかった。


捨てられたんだと思ったんだ。ケニーもシアンもリリアも俺の前から姿を消した。恨みはない、俺が今ここに生きてるのは少なからずあいつらのおかげだ。


けど、けど。




「俺は、たぶんお前の母親に会ったことがある。」


頭に置いていたタオルを下ろし、ゆっくり小さくもなく大きくもない声量でシーンッと静かな部屋に響くその言葉にエミリーは大きく動揺した。


「え…。」


ゆっくりリヴァイの方を振り向くエミリー。視線が合い驚いた表情で瞬きもせず見つめる。


「ガキのとき、ケニーが俺の前にきた。俺を酒場に連れ食いもんを与えてるときだった。その酒場にお前に似た女ともう一人の女が俺らの席に座り、親し気にケニーと話していた。そいつらはシアンとリリアと名乗っていた。」


エミリーの黒目がうろうろ動き、あからさまに動揺してるのが見て取れた。それはそうか、まさか自分の母親が俺と会ってるだなんて思いもしなかっただろう。


俺も今の今まで全く気付かなかった、ケニーに会って底に沈んでいた記憶がぶわっとあふれ出てきたみたいだ。


「リリア…は…私の育てのお母さん…だよ。」


震わせながら絞り出したよな声を聞いて抱きしめると、背中に手を回されギュッと服をつかむ。


混乱するよな、正直俺も今お前に伝えるべきことなのかわからない。でお、お前の過去はお前のものだ、知る権利がある。


「私のおかあさん、シアンって言うんだ。」

「ああ、おそらくな。」

「…私のお母さんに似てる?」

「ああ。」

「そっかぁ…」


ため息交じりでこたえ俺の胸に顔を埋め頭を左右に振り額をこすりつけるような行動に愛おしさが込上げる。


「ケニーが惚れるくらいだもんね。」

「お前の人誑しも母親譲りなんだろうな。」

「もう、きっとお母さんもそういうんじゃないよ。」

「そうか、それは悪かったな。」


エミリーの顔を覗き込むように首を傾げ表情をみるとヘラっと笑いながら


「こうしてみるとさ、地下でも地上でもいつかはリヴァイに会ってたんじゃないかって思うよ。」


泡沫のように儚い表情を浮かべながら俺の心音を聞きいうエミリーの髪を耳にかけ首筋が見えるように髪を後ろに流す。


「珍しいなお前がそんな事言うのは」

「そう?」

「そうだろう。なんだ、疲れて甘えたくなったのか?」


少し照れたように少し唇をかんで視線を逸らす仕草にギュッと心を捕まれ、手首を掴みそのままベッドに押し倒す。


「それはそっちじゃない?」

「よくわかってるじゃねえか」


覆いかぶさるように首元にキスを落とし舌先で舐めると体をビクつかせ甘い声が零れ、その声に更に気持ちが昂る。


「明日立てなくなるのは困るんですけどー…ヒストリアの迎えも私だし。」


それもそうだな、十分に休息を取らせたいが。だが俺もすこし甘えたい。ベッドにあがり足を組んでエミリーを抱きかかえ、そのまま上に座らせた。髪が俺の顔にかからないように
耳にかける。


エミリーの視線が俺の口元に移った、その一瞬を見逃さずエミリーの後頭部に手をやり近づけ唇が重なる。

優しく触れるだけのキス、んっと鼻にかかるような声が漏れ離れるようとするエミリーの頭をグッと息苦しそうにする唇の隙間から舌をねじ込み片目をあけ表情を盗み見た。

苦しそうに眉を顰めながら「んっ…はっ…っ」と応えるように舌を絡ませてくる、しおらしさに下腹部がうずく。このまま続けると俺の理性がもちそうにない。

ゆっくり唇をはなすと、唾液が糸を引き蕩けた表情を浮かべるエミリーに引っ張られそうになったがグッとこらえて頬を撫でる。


「これで勘弁してやるよ」

「はぁ…っ…もぅ…なに…。」

「ほら、寝るぞ。」


ぎゅっと抱きしめそのまま横に倒れる、エミリーは「どの口がいうんだか…」と言いながらリヴァイに背中をむけ後ろから抱きしめる形でお互い瞼を閉じる


「おやすみ」

「ああ、おやすみ」


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