甘いスイーツを君と

「ナマエー、そろそろ帰んだろ?送ってくけど」
「んー、これ観終わったら帰るー」
「何観てんの?」
 私の膝で寝ている蘭ちゃんの髪をくるくると弄りながら灰谷家のソファに座ってテレビに夢中になっていると、ランニングから帰って来た竜ちゃんがタオルで顔を拭きながらリビングにやってきた。
「スイーツビュッフェ特集?」
「そう! 新作情報がいっぱい出てるの!」
「へー。行きたいとこあった?」
「ありすぎて困ってる……」
 有名ホテルのビュッフェはどれもこれも美味しそうで、何処かひとつに絞るのが難しい。でも早くしないと予約はすぐに埋まってしまうしと、悩みながらテレビとにらめっこをしていると、竜ちゃんがカレンダーを見ながら口を開いた。
「ナマエ、今週末って予定ある?」
「んー? 何もないよ」
「じゃあ三人でデートしよ」
「えっ」
「行きたいトコいくつかピックアップしといて。そん中から選んで予約しとく」
「え、すき……」
「知ってる」
「おいおい、俺を放置してイチャつくなよ」
「蘭ちゃん、おはよう」
「兄ちゃんが寝てるからだろ」
 やっと起きたらしい蘭ちゃんは、まだ眠そうな目で私達を見てわざとらしく頬を膨らませている。
「蘭ちゃーん、起きたなら退いてー。足痺れてきた」
「んー、ナマエがちゅーしてくれたら退いてやるよ」
「はいはい、ちゅー」
「…………」
「ぎゃっ
 ちゅ、と適当に頬っぺたにキスをしたら気に入らなかったのか、足を叩かれて刺激に震えた。じんじんする脚を摩りながら蘭ちゃんを見ればふい、とそっぽを向いて自分は悪くないとでも言うように欠伸をしている。
「…………蘭ちゃんきらい……」
「あ?ブチ犯すぞ」
「もー! 兄ちゃんがイジメるからだろ! ほら、ナマエ、帰る支度して」
「…………帰らない」
「は?」
「蘭ちゃんが謝るまで帰らない」
「ナマエ……」
「…………」
「…………」
 竜ちゃんに呆れられながらも暫く蘭ちゃんと睨めっこを続けていると、蘭ちゃんが諦めたように溜息をついて私を抱き締めてくれた。
「…………悪かった」
「ん、私もごめんね。仲直りのちゅー」
「ん」
「なに? 俺は何を見せられてんの?」
「竜ちゃんもちゅー」
「…………ん」
 ぽそ、と私にだけ聞こえるくらいの声で謝ってくれたから、私も背伸びして今度は唇にキスをすると、さっきまでの不機嫌は何処へやら、目尻を下げて微笑んだ。
 相変わらず呆れた様子の竜ちゃんを手招きして呼ぶと、顔を近づけて屈んでくれたから竜ちゃんの唇にもキスを落とす。
「ビュッフェ楽しみだねー!」
「ナマエって普段メシあんま食わねーのにスイーツはめっちゃ食うよな」
「太んぞ〜」
「ム。食べたらちゃんと運動するもん!」
「ま、運動すんなら付き合ってやるから安心しろよ」
「じゃーまた連絡するから」
「うん! 送ってくれてありがとう」
「おやすみ」
 二人に家まで送り届けてもらって家に帰ってテレビの情報を元にスマホでホテルを検索し、候補を絞っていく。 そしていくつか挙げた候補の中から、都内某所の超有名ホテルのビュッフェを予約をしたとの連絡が入り、約束の日までの数日間、私の頭の中はずっとスイーツの事でいっぱいだった。

   

 ──デート当日。
 私の要望で、今日はホテルの最寄り駅で待ち合わせをする事にしたから、待ち合わせの時間よりも早く現地に向かい、時間まで遠くから二人を観察しようと待ち合わせ場所から少し離れたところで待機していた。
 二人がやってきたのは十分前で、辺りを見回した後二人並んで柱に寄り掛かってスマホを弄り出した。ピコン、と言う軽い音と共に私のスマホに到着した旨のメッセージが届く。
 あと五分経ったら移動しようと再び観察を始めると、遠巻きに見ていた女の人達が二人に近づいていくのが見えて思わず身を乗り出すと、私を見てニヤリと笑う蘭ちゃんと目が合った。
 もしかして、最初からバレてた……?
「ごめんなぁ? 俺らには超夢中な子がいてさぁ、もう一生そいつしか目に入んねぇんだわ」
「そーそー。誰の目にも触れさせたくねぇくらい溺愛してっから他のオンナが入る余地、ねぇんだよ」
 愛おしそうに微笑んで甘いセリフを吐く二人に、周りの女の人達から黄色い悲鳴が上がったかと思うと二人はこちらにツカツカと歩いて来て、私の目の前に立った。
「ら、蘭ちゃん、竜ちゃん、おはよ……」
「おはよ、ナマエチャン♡」
「いつからいたんだよ……」
「ええと……、二人が来る十分くらい前から……?」
「マジかよ……」
「……で? 愛の告白の感想はねーの?」
「…………すごく照れました……」
「はは、顔真っ赤じゃん」
 あんな告白を聞いてしまったら照れるに決まってる。そんな私を揶揄うように笑う二人の手を引いて目的地へと脚を進めて行く。
「も〜、早く行こ!」
「かぁいいなぁ、ナマエは♡」
「つーかなんでわざわざ外で待ち合わせにしたんだよ?」
「たまには恋人っぽく待ち合わせとかしてみたかったんだもん」
「……まぁナマエが良いならいーけど」
 いつも迎えに来てもらっているけど、待ち合わせした方がデート感が出る気がしたから待ち合わせにしてみたのに、女の子に囲まれる二人を見たらモヤモヤしてしまって少しだけ後悔した。





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