「兵藤くん、おはよ!」
「お…おう」
名前はいつも通り明るい。
多少気まずそうな様子を見せてくるかと思ったがさすが天下無双の名字名前である。そんなことはなかった。
「あー…えっと、名字…昨日は」
「分かってるよ」
「え?」
謝罪しようとした和也を遮り、名前は何故か得意気である。
「ちゃんと買ってきたから」
…嫌な予感がする。
「…あのな…悪いんだけどiQ〇Sっていうのは害がないって思われてるだけで、」
「はい、どうぞ」
名前が和也の手に乗せたのは電子タバコなどではなく…
「…おまえ、まじか…」
「コレなら兵藤くんも辞めれるよ。ほら開けた裏にね…」
名前がもう1つ取り出し、箱を開けた。
…側面には「We support your No-smoking.」の文字。
これって…
「シガレットはシガレットでも、駄菓子じゃん!」
「うん。口寂しいならこれがいいよ。タバコ吸ってるみたいな気分になれるんじゃないかな」
相変わらず虚をついてくる。
予想の斜め上を行く名前に自分の悩みが馬鹿らしく思えてきた。
名前の頭を少し乱暴に撫で回す。
「わわっ、なにどうしたの兵藤くん」
「やっぱりアンタは最高の草だな〜!」
髪を乱している名前はなぜ和也が笑いだしたのかよく理解していない。
しかし、名前もつられて微笑む。
「名字、昨日は悪かった。言いすぎたな」
「ううん。大丈夫だよ。わたしも兵藤くんの言うように余計なお世話だったかもって思ってたんだ」
…おそらく和也は辞めない。
それこそよっぽどの事がない限り。
…しかし、本当に心配してくれる「友人」のために、少なくとも名前の目に入る前だけでは控えてみようと思うのだった。
…
「もしココアが嫌なら他の味もあるよ」
よく見ると名前のカバンには色とりどりの駄菓子が詰められていた。
名前はブルーベリーが好きらしい。
ココア以外の味があることを初めて知った。
そもそも和也は駄菓子など幼い頃に食べたきりだったので新鮮に感じる。
そして、煙草と違った意味でまた身体に悪そうな味を名前と楽しんだ。