「タバコは身体に悪いし辞めた方がいいんじゃないかな?」
和也は校内だというのに相変わらず煙草をふかしている。
名前はずっと思っていたことを口に出す。
「ああ?」
唐突な名前の発言に面食らう。
もしや煙たすぎたのかと和也は思い、
「悪い悪い。煙嫌いだったか?アンタの前では吸わないようにするから」
「そういうことじゃないよ。タバコは中毒になるみたいな、学校で習ったでしょ」
「それならもう手遅れだな。結構前から吸ってるし辞めれねえって今更」
「…しかも高校生だし良くないよ。…先生に怒られないの?」
今更何を言い出すんだこいつ。
「この学校にオレに楯突くヤツがいるわけないじゃん!それが教師でも同じことさ」
なんなら名字も吸ってみるか?と1本差し出すが、名前はもちろん受け取らない。
「…わたしは心配してるんだよ」
「余計なお世話ってヤツだぜそれ」
「お父さんとかお母さんが心配するよ?」
親のことを言われ、カチンときた和也は強い口調で言い返す。
「アンタには関係なくね?何でそんなこと言われなきゃならないんだ?」
「関係あるよ。わたしは兵藤くんの友達だから」
友達ねぇ…と呟く。
和也は何か言いたそうな目を名前に向けた。
「『トモダチ』だって言うんならアンタがどうにかしろよ」
「どうにか…」
「心配だっていうんだろ?その気持ちが嘘じゃないなら、な」
和也の顔からは何を考えているのか全く読み取れない。
和也は値踏みするように名前を見つめた。
「…分かった」
和也は気まずくなったので立ち去ろうかと思ったが、先に名前が去っていったのでここに留まる。
(ちょっと突き放しすぎたか?)
煙草を吸って、クールダウンした和也は罪悪感に襲われる。
何も知らない名前にムカつきあのようなことをつい言ってしまった。
(親父が心配?んなことするわけねえだろ、馬鹿じゃねえの)
しかし、名字が親のことを知らないのは当然であり、ここまで強く言う必要は無かったと反省した。
名前は多分本気で心配していっただけだ。…そのことに和也は薄々気付いていた。
上辺だけならばわざわざ自分の機嫌を損ねるリスクを冒す必要は無い。
(あれは失敗だったな)
良かれと思って言った名前からすれば八つ当たりもいい所だろう。
自分のやることにうるさく言われるのが嫌いでうっとおしく感じていたが、和也は心のどこかで叱ってくれる人間が欲しいとも思っていた。
…本当に自分を思ってくれる相手。
和也は新しい煙草を取り出し、口にくわえる。
(…言ってしまったことは仕方ねえ。明日謝ってやるか)
多分許してくれるだろう。
それに彼女は謝ったことをいちいち掘り返すような人間ではない。
…しかし、名前がどうするつもりか知らないが、今更未成年だからとか身体に悪いだとか、そういう理由で喫煙を止めるつもりは和也にはさらさらなかった。
…もちろん飲酒も。
(iQ〇Sとか買ってくるつもりじゃねえだろうな…)
電子タバコには害が無いと勘違いしている人間も多いようだが、
それにも普通の煙草と同じ危険はあるのだ。
煙が見えていないだけで受動喫煙の可能性も十分にある。
それならばどちらも変わらない。
だから風味の旨い紙巻きたばこを和也は好んでいた。
(それに電子タバコって名字とかからすれば結構高いんじゃね…?)
風に流れていく自身の吐き出した煙を見ながら、その時は換金してやるか、と和也は思った。