Tiger x Lotus parallel | ナノ


唇から顎、そして首へ舌を這わせ、彼のベルトへ手をかける。園村は小さく抵抗したあと、諦めの色を浮かべた。その一瞬を見逃さなかったことが…俺の運命を、変えてしまった。

「……お前…」

「…っ、…いいよ、好きに…してくれて」

「は…?」

「……血の、代償…」

違う。その諦めは…一体、なんだ?

「慣れてる、から…こういうの」

「どういう意味だよ」

そろそろ、授業終了の鐘が鳴る頃だろうか。気づけば、窓から差し込む光は弱い。少し前まで苛つくほど晴天だった空が、曇り始めていたのだ。だから、彼の目が焦げ茶色のままなのか、とも気づいた。反射させる光がないから、琥珀色に見えなくなったのか、と。

「僕は君の血を、飲んだ。君はその対価に、僕を、好きなようにする。それで…終わり。……ね、も…関わらない」

引っ込んだはずの涙が、また顔を出そうとしている。俺はその目を見下ろしながら、彼のベルトにかけていた手を離した。

「……今まで、そうしてきたのか」

返事も頷きもなかったが、“そうだよ”と言いたげに、ゆっくりと瞬きされた。

「…僕らのこの行為に…人間は、性的興奮を…覚える。それは、ずっと…小さいときから、わかってた……でも、僕らは生きるために…」

「体を、売るのか」

「…そう言うわけじゃない、けど……段々、耐えられなくなって…くる。生き血を吸える快楽に、溺れていく…同時に、求められる対価に屈辱を、覚えて…それを悩んでいるはずなのに…僕らは、それでも血を求める…最後は…」

「お前みたいな…」

人間、ではないか…でも、今の俺にはまだ、彼をなんと呼べば良いのか、わからなくて。

「僕みたいな奴でも、それは…言えること、なんだ…僕は、もう何人も」

ああ、涙が目尻から落ちてしまった。

「なにも、しなくたって…僕らは君たちに、同化できない。だから、ただ息を潜めて、この…忌まわしい匂いを、誰にも嗅がれないようにするって…匂いに気づかれたら…僕らは、見返りもなく…」

“犯される”

男でありながら、どこか妖しい。白い肌や長い睫毛、華奢な体。女を襲うやつがいるように、彼はそういう対象として見られることがある。そんな、周りとは違う匂いを嗅ぎ付けられて。
何度、この男はそんな目に遭ったのだろうか。対価、以外のそれを、どんな思いで受けてきたのだろうか。俺は、そんな奴らと…彼を苦しめた奴等と、同じことをしようとしたのか。

「君は…僕の匂いに…」

「“気づいた”って言いたいのか?」

濡れそぼったこめかみを拭ってやり、シャツのボタンをとめる。

「え…」

「お前がしてほしいって言うなら、話は別だぞ」

俺がこれ以上、彼に欲情しないように。

「強姦紛いなことする趣味はない。…そんな顔で、興ざめしない方がおかしい」

興ざめ、している。確かに。けれど、体の熱がひき、硬くなったものが完全に萎えるほどではない。それに戸惑う自分がいるのは、明らかだった。

「…なんで…そんな、こと…」

「その“代償 ”、もう少し後でもらう。今は…」

ただ純粋に“園村蓮”を、知りたい。認めるしかない。俺は、この男が、好きなんだと。
見ていたとはいえ、口をきいたのは今日が初めてで、同じ人間ではない、しかも同性である、彼を。

「これで我慢する」

今度のキスに、血の味は含まれていなかった。彼に吸収され、口内に残った風味さえ消化されて、俺の存在はもうそこにはなかった。だから今ここで、彼に自分の欲望を吐き出すことはしたくなかった。同じように、消えて欲しくないと思った。

「…やめて……」

胸を押され離れてしまった体。やっぱり、こんなに細い体からこの力が出てくるというのには、とんでもない違和感を抱く。

「興味本位で、僕に、近づかないで……さっきも言ったけど、僕は…君の匂いに、理性を、揺さぶられる。それから…僕は、殺人鬼も同然の、醜く汚れた……」

“バケモノだ”

雨が、降りだしたかもしれない。
カタカタと窓が揺れた後、また湿ったニオイがすきま風に紛れて吹き込んできた。


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