「ぃ、んぁ…ぁぁ、」
「蓮、もう少し…」
苦しい、裂けそう、熱い…わけが分からない、それほど興奮しているのかもしれない。
「ん、ほら…入った」
「あ、はぁ…ふ、ぅ」
虎は僕の下腹部を柔らかく撫で、戯れのようなキスを顔中に降らせた。
「分かるか、俺が入ってるの。蓮の中」
「そ、んなこと…」
意地悪そうに細められる目。
それがたまらなく好きだと思った僕も、重症だ。切れ長の目は確かに鋭い。でもどうして誰も、その奥の瞳をのぞこうとしないのだろうか。こんなにも優しい目をしているのに。こんなにも、痛いほどきれいなのに。
「動くぞ」
「ん、」
ゆるゆると動き始めた虎。
僕の中に虎のものが入っているなんて信じられないけれど。繋がれた部分がひどく熱い。突かれるたび声は勝手に漏れてしまう。恥ずかしいのに、虎の余裕のない顔に、欲情している自分がいた。
「んっ、ん…」
「蓮、れん」
気持ちいいか、なんて分からない。もう感覚なんて麻痺してる。突かれながらキスをして、前も扱かれて、頭の中は真っ白になってしまっていた。
「だめ、と…ら」
「ん、」
「へん、イき…そ」
「どうしてほしい?」
こんなときに…何を言わせるんだ、この男は…切れ切れの意識の中、僕は自ら虎の顔に顔を寄せて唇を重ねた。触れるだけの予定だったのに、逆に食べられてしまった。同時に虎のものが、変な場所を突き上げ、惜しげもなく声が出ていく。
「んは、ぁ…」
三度目の射精。
全身を襲う倦怠感に、眩暈がした。
虎も達したのか、お腹の上に熱いものが広がっていた。中で出さないだけの理性が残っていたらしい。なんだかずるいな、と思いながら額に浮かんだ汗を拭った。
「また、風呂入らないとな」
「…ん、これじゃ…寝れないね」
お風呂に入ったところで着るものもないけれど。布団もぐしゃぐしゃ、あらぬもので汚れてしまっただろう。さすがにヤクザのお偉いさんが泊まった部屋に、旅館の人も文句は言わないだろうけど…僕の顔はばっちり見られている。男同士でこんなことをしたとバレたら…そんなことを考えて、ただただ恥ずかしくなった。
「立てるか」
「うん…」
素っ裸のまま立ち上がり、腕を引かれて露天風呂へと出た。
一戸建て風の部屋で、露天風呂つき。一体一泊いくらなのか…ヤクザご用達の部屋なのか、突然来たくせに借りられたこともすごい。ぼーっとする頭の中でそんなことを考えていたら、虎の腕に抱かれた。
「へ、」
「辛いだろ」
「いや、大丈夫…っ、から…降ろし」
男なのに軽々とお姫様抱っこなんてされてしまう自分が、また恥ずかしくなった。
「いいから、ほら…」
お湯の中でも、僕は虎の足の間に座らされて、後ろからしっかり抱きかかえられたままだった。もう死にたいくらいの羞恥だったけれど、丁度いい湯加減の露天風呂からは満天の星空が見えて心が落ち着いた。
いや、本当は星なんてなかったのかもしれない。
だって僕の目がそんな小さな光を認識できるなんて、もうないはずだったから。完全に光を失うまで、時間はかからない。もう、ギリギリなんだ。左の目は、使い物になっていない。
「虎…」
「ん」
「ありがとう」
「何が」
何が…何がだろう。
「分かんない」
「なんだよそれ」
自然と出た言葉だった。
笑いを漏らした僕に虎も同調して、小さく笑った。
「明日、何時に起きる?」
「蓮は寝てろ。俺が全部済ませとくから」
「それはだめだよ、八時くらい?」
「…そう、だな」
「分かった」
そのあとしばらくお湯に浸かって、下着だけ履いて、僕らは乱れていない一組の布団で眠りについた。
「おやすみ」「おやすみ」それが、僕にとって精一杯の別れの言葉だった。きっと朝が来て、目を覚ましたら。隣に虎はいないだろう。僕の遠慮なんて無視して、宿泊の料金も払って、タクシーでも用意して、僕を残して行ってしまうと思ったから。そんな嫌な予想は、とてもリアルで現実的過ぎた。
朝、隣に彼の温もりが残っている方が、今の僕には非現実的だとさえ思えるほどに。
“世界は残酷だけど、いつもどこかに優しさを残してくれてる”
夢を見た。
虎と出会った、屋上での夢だった。風が気持ちいいね、とか、その本面白いの、とか。そんな何でもない会話をしていた。僕は微笑んでいて、虎も微笑み返してくれていた。そして、いつの間にか夜になっていて、僕らはお互いの話をした。とても長い間話し込んでいたのか、それもわからない。ふと気付けば星が見えていた。居心地のいい温かさに包まれていた。
僕が最後に見たのは、虎の「おやすみ」と微笑んだ顔で。
僕の世界は、色を変えていた。
何もなかった僕の世界に、違う色が生まれた。
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