Tiger x Lotus parallel | ナノ


「彼は、嫉妬に狂った恋人に腹を刺された。その心理、わかる人は居ますか ?」

午後の眠たい授業、古文を読む教師の声が子守唄に聞こえた。
内容は全く頭に入ってこず、ただこの物語の結末は理解できないなと思った。

「…愛嬌くん、分かりますか」

出席番号順の席、逃れようもない一番前。窓際のそこで、俺はぼんやりと青すぎる空を見上げていた。
名前を呼ばれて、挙手を促したくせに一方的に当てるのかとうんざりした。

「さあ」

「…少しは考えてほしいけれど、まあそうかもしれないわね。男と女では、違うものがあるから。じゃあ、井戸さん、貴女はどうかしら」

俺からその後ろの人物へと教師の視線が移り、俺は再び空を仰いだ。
難しい言葉で、理解しがたい情景で、伝わらない冗談を交えて、けれど根本にあるものは今と同じ。何百年前も、今も、そして何百年先も、人間は同じ。愛を描き、自分のその形を表す。これもそうだ。

ものを食べ、眠る、働く、そして愛す。
人間として生まれてしまったときから、その未来は避けられないのだろう。

「私はこんなにも愛しているのに、どうして貴方は私と同じだけの愛を返してくれないのだろう。どうして私だけを愛してはくれないのだろう。そんな貴方が憎い。永遠に私だけのものでいてほしい。他の誰も愛さないでほしい。私だけを見て、触って、少しも離れたくない。だから、殺した」

すぐ後ろから聞こえた回答は、やはり俺には理解できないものだった。愛し合えるのを当然だとでも思っているんだろうか。

「恋人の気持ちをよく考えているわね。愛嬌くん、少しは理解できた?」

「…全く」

教科書の角が、机の端に当てられた。
白く細い女の腕と、華奢な時計。なんだろう、綺麗な手なのに、綺麗だとは思えない。綺麗というのは、こういうものではないと断言できる。

「少しは女心っていうのを、考えた方がいいわよ」

「……」

「いつか女に刺されそうだから、貴方」

教科書が視界の隅から消え、俺は瞼をおろした。

「はい、じゃあ続きを読みます。18ページの二段落目です」

刺される、か。そうだな、そうかもしれない。
節操なく生活していて、その中には俺のことを本気で好きだと言ってくれた子もいた。でも俺には要らない言葉で、その場で切っていた。悔やむとしたら、その対応ではなく、その状況をつくってしまったこと。
もっと早く園村に出会えていたら、きっとその後悔も…悔やむことさえ、 少なかったはずだ。


「男は息絶える時、言ったのである」

そう思う俺は、既に自分の大部分を彼で埋めているんじゃないだろうか。

「僕は君を愛していたよ」

それは、そんな言葉じゃ足りやしない、もっと別のもの。

「そして女は言う、けれど貴方は別の女に会った」

目を閉じていても感じる太陽の明るさが、瞼の裏が赤く見えるそれが、今は物凄く鬱陶しい。そう思って目を開き、眼下に広がるグランドに視線を移した。


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