Tiger x Lotus parallel | ナノ


園村蓮と交際をはじめて…交際と呼べる関係なのかどうかは今でも謎だが…三ヶ月が経った。人間ではない彼の本当の意味での“食事”は三日か四日に一度。その度に理性を手放しそうになるが、未だ彼に手は出していない。
あれから、梅雨が明け、夏が来た。学校ではほとんど口をきくこともなく、けれど帰りは一緒で。周りは好奇の目を向けてきた。が、気にするに値するほどではなかった。
それからすぐに夏休みに入ったから余計に。恋人のいる夏休み、なんて浮かれることも出来ないで一ヶ月を過ごした。それぞれバイトをしていたし、暑いのが苦手なのと根からの出不精で、二人で何処かに行ったのも片手で数えられるくらいだ。勿体無く思いながらも、一日中一緒に居られることを柄にもなく嬉しいと思っていた。蓮が料理上手で掃除洗濯なんでもそつなくこなし、尊敬さえしてしまうほどおかん気質だというのも知れた。

そして夏休みが終わり、代わり映えのない学校生活が再開される中、暑さの抜けきらない九月の空の下相変わらず蓮は儚げに佇んでいた。遠慮がちに名前を呼び、ぎこちなく隣に座り、キスだけで頬を赤くして。そのくせ俺に噛みつく時は容赦ない。おかげで首筋には蛇に噛まれたような二つの小さな丸い痣が、綺麗に残っている。それと張り合うように、彼の胸元にも赤い痕が残っている。体操着を着ても見えない場所に、二つだけ。

「なー虎ー今日これから暇ー?」

「嫌」

「まだ何も言ってねえじゃん」

お前は合コンしか誘ってこないだろ、と続く言葉を飲み込み、帰りのショートを進める担任に視線を戻す。

「なー彼女でも出来たー?最近遊んでないらしいけど」

「ああ、うん。だから無理」

「え!?誰誰誰」

「うるさい」

そうだ、俺と蓮にどれだけ好奇の目を向けられても、その中に色恋沙汰があると踏んでいる人間はゼロに等しいんじゃないだろうか。ただ、接点など何もない二人がある日突然一緒に帰っている、その光景が不思議なだけ。

「はーまじかあ、いつの間に〜」

そんな呟きはショートの終わりを告げるチャイムに消され、次には椅子を引く音とクラスメイトの声に完全に聞こえなくなっていた。俺も鞄を肩に掛けて、そいつに背を向ける。まだ何か言われていた気がしたが、聞こえないふりをして教室を出た。昇降口で蓮を探したけれど見つからず、仕方なく裏の校門で待つことにした。教室から一緒に帰ったのは一度きり。そのとき向けられた周りからの目を気にしてか、蓮だけはそれを酷く嫌がった。だからそれ以来昇降口で見つけるか、裏校門で待つか、自然とどちらかになっていた。

裏から帰っていく生徒は少なく、その姿を見逃す、というのはあり得ない。日直でもなく委員会もないこんな日に、三十分も待ったことはなく。何か居残りでもさせられているのかと思い電話をかけても繋がらず、探しに行ってすれ違いになるのも嫌で、待つしかできなかった。それから更に十分経ち、さすがに待ちくたびれたと思った頃、パタパタと革靴がコンクリートを叩く音が耳に届いた。

「と、ら…」

そんな、驚きを孕んだ声と共に。

「蓮…」

「ご、ごめ…待ってて、くれたの……?」

「ああ…携帯繋がらなかったし」

「あっ、ごめんなさい…充電、切れてて…」

「別に、待つくらい大丈夫だから、謝んなくて良い」

秋を思わせる日暮れに、蓮の髪が染まる。鮮やかなオレンジ色だ。
蓮が俺を待たせることなど滅多になく、ましてや理由が分からないなんていうのは初めてだ。理由を問いたいくせに聞けなくて、結局何も知らないまま家路に着いた。その間ずっと、蓮は俺を見なかった。なんだか泣きそうな、無理矢理な笑みを貼り付けているようにも見えた。

「蓮」

「っ、ん?」

「上がってく?」

心ここにあらず、だ。

「あ…」

俺の家から蓮の家までは徒歩十五分。学校からは俺の家の方が近く、帰りは俺の家へ来ることが多かった。そして蓮を家まで送り届けている。こうして上がっていくかと問うのはいつものことで、断られればそのまま蓮の家へ向かう。彼が自宅に俺をあげてくれたことはないが、理由は明確にされている。“父親も同じだから”俺が襲われる可能性があると、家の前までも行かせてもらえたことはない。

「いや、帰るよ」

顔色、良くないな。
額に滲んだ汗はこめかみから頬をなぞり、首筋へと流れている。珍しい、彼がその汗も拭わずいるなんて。反射的に伸ばした手で濡れた額を拭ってやり、「コーヒー淹れてやるから」あがって、と手を引いた。帰ると言ったくせに、抵抗もしないで蓮は俺のあとに続いた。

「部屋、上がってて。エアコンもつけて」

「…い、や…」

やっぱり、変だ。
躊躇う蓮を半ば強引に招き入れてからコーヒーを淹れて部屋へ入れば、蓮は変わらずぼんやりと体育座りした爪先を眺めているだけだった。


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