「雨、止んだな」
「…うん」
「制服取ってくる」
「あ…んん」
いつの間にか聞こえなくなった雨の音。乾燥機は既に役割を済ませて静かにしていた。その中から蓮のものだけを引っ張りだし、部屋に戻った。
「ありがとう…」
ふわりと微笑まれ、やっと治まった下半身の熱が、またその中心へと集まった。情けない、しかし仕方がない。こちらに背を向けてTシャツを脱ぐその体を後ろから抱き寄せ、白い項に唇を押し当てる。じゅっと肌を吸いあげれば、そこには簡単に痕が残った。赤く、花弁のような痕。
焦ったのか、蓮は慌てて俺の腕から逃れ着替えを終わらせた。
「あ、服…洗濯して、返す」
「別に良い」
「でも…」
「今夜この服着て寝るから」
耳元でそう囁けば、何を思ったのか顔が真っ赤に染まった。恐らくその考え、あながち間違っちゃいないんだが。自慰なんて、いつぶりか。適当に誰かと肌を重ねれば良い、そんな考えは一ミリたりとも浮かばなかった。蓮の匂いに包まれて、蓮のことを考える、それだけで自慰に至るのはきっと簡単で。他の誰も、仲介させたくなどなかった。
「ほら、家まで送る」
部屋から玄関まで手を繋ぎ、それぞれ靴を履いて家を出た。一人で帰れるからと断り続ける蓮を半ば強制的に言いくるめて。
アスファルトにできた水溜まりを踏まないように、けれど前方に見えた虹を見上げて。時折俺に微笑み変える彼に微笑み返し、こういうのを“幸せ”というんだろうかと感じた。
「じゃあ、また明日」
「うん…また、明日」
そんなありふれた言葉のやり取りさえも、俺には幸せで。また明日がある、明日もこの愛しい人に会える、そんな女々しいことを思う。今度、蓮用のマグカップを買いに行こう、なんて約束までして。好きな人との約束、どんなに些細なものでも、自分の中の大部分を占めてしまうその“約束”とやら。
いつかこの身をあの牙で食い尽くされてもいい。そうなる前に、本当に殺してほしいと言われれば殺してやる。せめて最後に俺の血を貪りたいと請うならば、好きなだけこんなもの与えてやる。
そのあとで、俺も死んでやるから。
「蓮」
彼が、望まなくとも。
「好きだよ」
狂気
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