おしゃべりの時間

拒否、というよりは諭すような。お堅い子っていうのとは少し違う雰囲気なんだよな。うまく言えないんだけど。

あそこまで言われたら普通は怒るのかもしれない。でもその瞳が、言葉が嫌じゃないのは同情や憐れんでるのとも違う気がするから。自分でも不思議な感覚だ。

「変な女。」

「図星だっから萎えた、の間違いでしょ?」

小さく笑って、彼女が寝ながら体制をかえて、こちらのほうに向きなおる。そんな彼女につられて、俺もマナのほうに身体を向けて向き合うようにベッドの中見つめあえば、何がおかしいのか二人して笑った。

ふんわりと可笑しそうに笑うマナを見ていたら彼女の考えなんてなんだかどうでもよくなってしまって。だって裏があるとかそういう感じには見えない。なにがしたいんだかは分からないけど悪い奴じゃないっていうのは分かる。

「傷心の旅でもしてた?」

「ハズレ。さっきも言ったけど一つのところに長居しない性格なの。だから本当に世界含めて色んなとこ行ったよ。」

「へぇすごいな。ちっちゃいのに、人は見かけによらないってやつ。」

「一言余計だよ。」

それから話題は尽きることなく他愛のないことを話し続けた。こんな華奢な身体なのにスーツケースひとつでいろんな所を渡り歩いていたなんて信じられない反面納得できる部分もあって。色気のある話なんてゼロだったんだけど、彼女の体験談は俺の知らないことばかりで面白いから夢中になって聞き入ってしまう。

「本当に全部1人でやってんの?」

「そうだよ。意外とタフなの私。」

「寂しくなったりしない?」

「なるときももちろんあるよ。でも誰かといたって淋しい場合もあるから。だから特別淋しいって思ったりはしないかな。」

「そっか…」

孤独を好んでる訳じゃないよと言葉に詰まった俺に視線を合わせマナは目を細めた。俺のことを言っているんじゃないのになぜか胸のあたりがざわつくのはなぜだろう。1人旅の話をとても楽しそうにする彼女がひどく眩しく見えた。

そうして話し込む内にふとカーテンの向こうが明るくなっていることに気づき、そろそろ寝るかと立ち上がって電気を消した時。

「…鉄朗君。」

「ん?」

なに?と再度問いかけて視線を合わせれば薄暗い室内でもわかるマナのまっすぐな瞳。

「きっと鉄朗君、変わると思う。」

意を衝かれたような彼女の発言に、思わず目を丸くして乾いた笑いが漏れた。

「なんだよそれ。」

確かにマナにハッとさせられたことはあるのは認める。けどいい大人が今さら変わるなんてことないし色々あるけどここから抜け出したいとかは思わなくて。どこか満たされない気持ちを抱えているのは俺だけじゃないしその埋め方は褒められないものだけどまぁこれでいいと思ってる。そんなことを考えながら振り返った。



きっと、変わると思うな



聞こえて来たのはそんな予言めいた言葉。意志の強いまっすぐな瞳をしてるのにとても柔らかく笑う、不思議な雰囲気をまとった彼女。

その意味を追求したくて、もっと話したいと思いながらも暗闇で横になれば眠くなり、すぐにふわふわとした意識になってしまう。いつもは目を瞑っても全然眠くならないのにこんなに自然と眠くなるのはいつぶりだろう。

そうしてささやくように聞こえてきたマナのおやすみの言葉とともに瞼が閉じていく。


変わってる女。

だけど居心地のいい女。


ふわふわと頭を撫でられる感触を感じながら頭の片隅で今日は人肌がなくても深く寝れそうだって、そう思った。