いつもと違う夜

「シャワーありがとね。」

「お〜。」

パンパンと音を立てながら頬に化粧水をしみこませている彼女をソファーの上から眺める。俺の家に着いてすぐスーツケースを広げたマナにシャワーを貸し、今に至る。荷物には部屋着や化粧品一式が入っていて本当に色々な所を渡り歩いているんだと思った。一通りやることが終わったのか折りたたみの鏡を畳んでこちらを振り向く。

「私ソファー借りてもいい?ソファーで寝るから。」

そう言って今俺が座っているソファーを指差した。

え、なんて?

思わず怪訝そうな表情をこぼして、ソファーから立ちあがり床に座り込んでいるマナを後ろから抱き締めた。思った以上に華奢で小さななその身体は力を込めたら壊れてしまいそうだ。

「ソファーじゃなくてベッドで一緒に、でしょ?」

彼女の首元に顔を寄せて囁き、回した腕に力を込める。

「鉄朗君、私本当にソファーで大丈夫だから。」

「…あのな、じゃあ何で付いてきたんだよ。」

こんな夜中、家に行くっていうのはつまりそういうことで、そっちだってその気で付いてきたのかと思ってたから言ってる意味が分からず一瞬フリーズしてしまった。はぁ、そんな風にわざと溜息を吐き出してその腕の力を緩めるとくるりと彼女がこちらに顔を向け真剣な顔で言う。

「寂しい人なんだなと思ったから。」

そして視線を俺と合わせだから付いてきたんだよ、そう付け足した。

「その寂しさをマナが紛らわせてくれると思ってたんだけど。」

顎にそっと手を添えてぐいと引き寄せて覗き込んでみたけれど彼女の瞳は揺らぐどころか、

「寂しさって誰かに埋めてもらうと癖になるよ。もっともっとって満たされない欲求に駆られるの。だから誰かに求めるものじゃないんじゃないかなって。」

やっぱり真顔でそんなことを吐きだした彼女の瞳は俺のことを見透かしているかのようにどこまでも真っ直ぐだ。

「…説教するためについてきたんですかね?」

「ううん。ただ今思ったことを言っただけだよ。」

そこまで言われれは盛り上がってきた気持ちも一気にしぼみ手を離して頭をかいた。

「分かった、分かったから。とりあえず風邪引くしベッド行くぞ。隣で寝るくらいはいいんだろ?」

なんとか自分のテンションを保って、寝室へ行くとベットに座ったマナ。今この流れで警戒したりしないんだろうかと少し呆れてしまうけど俺にとっては好都合。ここであっさり引き下がりはしないんだな。そのまま隣に行ってまだシャンプーの香りがするマナの髪をそっと撫でその細い肩を押してゆっくりと押し倒しながら顔を近づけていく。

「やっぱりマナがその寂しさを埋める手伝いしてよ。」

これ以上彼女に喋らせなくない。そうして少しづつ距離が近づき、あと数センチというところ。スッと伸びてきた手が俺の頬にそっと手が添えられて動きが止まった。

「それはきっと私じゃ役不足だと思う。ていうか、今まで誰でもいいって思ってきたからそんな風になっちゃったんでしょ?」

「…。」

「鉄朗君?」

「…はぁ。」

顔を逸らすわけでもなく真っ直ぐにこちらを見上げた彼女から思わず視線を外してしまったのは俺。そしたそのままごろんと隣に寝転んだ。なにしてんだか、と自分で突っ込みを入れつつぼんやりと見慣れた天井を眺める。無理やりするとかそんな趣味はないし彼女の言葉でそんな気もすっかりなくなってしまった。