灯りのある家

「ただいま〜。」

「おかえりなさい。」

家に入るとソファで寝転がっていたマナが起き上がり手を挙げる。

最初に会った夜以降すっかり住み着いてしまったマナはまるで懐いたノラ猫のようだ。先の予定が何もないというから俺がしばらくいたらと言ったのだけど。こんな何日も人が家にいたことがないから変な感じがする。外から家の明かりが見えるのも、おかえりと迎えられるのも。

「なんで立ったまま?」

「やっぱ慣れない光景だと思って見てた。」

「もう2週間なのに。私は慣れちゃったよ。鉄朗君の家は居心地いいね。」

「順応性高いな。」

カラカラと笑いながらだって旅人だもんなんてキッチンへ歩いていく姿はどこか楽しそうだ。

こうして話をしながらテレビを見たりして、眠くなれば眠る。2人同じベットで寝ているのに身体の関係は持つことがなかった。この俺がだ。最初に会った日以降夜をもてあますことも無くなり適当な女に連絡もしないし、もっというと夜ぐっすりと寝れるようになった。あの日変わると言われた言葉の通りになってきていて少し悔しい。

「昼は家でなにしてんの?」

「ゴロゴロしたり日向ぼっこしたり…」

「完全におばあちゃんじゃん。」

「いいのー。日光浴は大事なんだからね。」

向かい合って夕飯を食べながらそんな雑談を交わす。

柔らかく笑うこの顔を見て心が安らぐようになったのはいつからだろう。マナといると気を張ることなくいい意味でとても楽でいられる。家に帰ることを待ち遠しく思っている自分、それに他の女じゃなく彼女じゃないとこんな気持ちになれないことに最近気づいてしまった。

「あ、あとは鉄朗君早く帰ってこないかなって思ってるよ。」

「なにそれ。誘ってる?」

「あはは、どうかな。でも本心だよ。」

こういうところは相変わらず掴めない。するりと俺の生活に入って来たくせにいつまたすり抜けていくか分からない、そんな感じ。よく空をぼんやり見てるマナを見かけるとまるで月に帰りたがってるかぐや姫みたいに思えてくる。いつか帰ってしまうんじゃないかって。なんてちょっとクサイか。だけどそんな儚さを感じてしまうのは事実だ。

そういえば最初に会った日から俺が毎日仕事だったから昼に出かけたことないな。こんな発想同棲してるカップルみたいだけど。でもデートなんてめんどくさいとしか思えなかったのにマナとなら出かけてみたいと思った。

「今度の休み…ってもう明日か。出掛けない?」

「この前のバー?私一緒じゃないほうがいいんじゃない?」

「いや、違くて。昼間にどこか行きませんかっていうお誘いです。」

「楽しそう。行きたいな。」

無意識に綻んでいた顔を横に降った。なんで照れてんだ俺は。初めてデートに誘う高校生でもあるまいし。ていうか誘うのってこんなに恥ずかしいものだったっけ。マナは俺の気持ちなんか知らずどこ行こうなんて嬉しそうにしている。

この日の夜は妙に落ち着かなくて久しぶりによく寝れなかった。