変わらない君



「マナ〜お昼一緒に食べようよ。」

次の日昼休み、教室入り口のとこが騒がしくて見に行ってみれば徹が笑顔で立っていた。その姿を見たクラスメイトはざわめきたって私に注目が集まってる。

及川君だよ!
七海さんもう付き合ってるのかな〜
転校してきたばっかなのにさすが

なんて女の子の声が聞こえてきて思わずため息がもれた。有名人のバレー部員がいるのは知っていたけどその人のことが徹のことだと知ったのは今日の朝のこと。そりゃあそんな人がクラスも離れている先月転校して来たばかりの私に会いにくれば騒がれるんだろう。

立ち上がり、勢いよく目の前まで歩いて行き顔がひきつるのを抑えながら食べないと言えばじゃあマナのクラスでいいやなんて教室に入ってこようとするものだから必死にそれを押し返して徹を外に連れ出した。

「なんなの?」
「マナ冷たくない!?昨日せっかく再会したのにすぐ行っちゃうからさ。すごい偶然だよもはや奇跡だよ?」

もう少しお話してくれてもいいじゃないなんて言いながら徹はお弁当を持って足早に歩く私の後ろを付いてくる。適当な相づちばかり打つ私に小さく息をはいて少しむくれたような声を出した。

「すっかりクールになっちゃって。昔はあんなに徹ちゃん徹ちゃんてついて来たのにねぇ。」
「っ、あれから何年経ったと思ってるの。昔のままな訳ないでしょ。」
「東京でなんかあったの?」
「…別に。」

中庭で立ち止まった私の答えに徹はそっか、と短く言うとそのままベンチに座ってお弁当を食べ始める。

「マナも座ったら?」

こういうところはわざとなのか天然なのか。そういえば妙に勘がいいところがあったような。それまではどうして連絡しなかったとか家は今回どのへんなのかとか質問攻めだったのに。突っ込まれないことはありがたいけど…

初めて来た中庭は太陽の光が眩しくて楽しそうな笑い声が聞こえてくる明るい場所。雰囲気が東京の中学校に少し似てる気がした。徹が東京なんて言ったからかもしれないな。お昼の時間がなくなってしまうからしょうがなく私もベンチに座ってお弁当を広げた。気持ちのいい春風を顔に受けて落ち着くとなんだか結局徹のペースに乗せられてるなと力が抜けてくる。

「それおばさんのお弁当?昔よくバレーの差し入れにくれたよね。俺のよりいつも美味しそうなんだよね〜」
「欲しいならこれあげる。」
「いいの?」
「あんまりお腹すいてないから。」

やったと笑って徹は私のおにぎりを取って美味しいといいながらあっという間に食べてしまってさすが体育会系という感じだ。その顔をちらりと横目で見れば子供みたいに頬に米粒がついているのが目に入った。

「ごはん粒。」
「なに?」
「ごはん粒ついてる。」

うそ!と徹はごはん粒を取ろうとするんだけど全然違う所に手をのばしているからごはん粒はついたまま。耐えきれず笑いを漏らすとその瞬間こちらを覗き込んで徹は目を見開いた。

「な、なに…」
「なんだ笑えるんじゃん!やっぱマナ昔と変わらないね。」
「っ、」

嬉しそうに笑う徹に思わず視線をそらせば照れなくていいのになんて声がする。

変わらない?私が?

「外見とかじゃなくてさ、笑い方とか。ちょっと安心した。やっぱり俺の知ってるマナなんだなって。」

そう柔らかく笑った徹。

変わらないのはそっちだよ。笑い方も、話し方も、その雰囲気も、何年も会わなかったと思えないような。私にはとても眩しく映って、目がくらむ。


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