会いたくなかった
仙台の田舎の、スポーツが盛んみたいな学校で
私みたいな長いミルクティー色の髪、パーマでピアスもあいていて、化粧もバッチリなんていうのは目立ちすぎるくらいだった。主に悪い意味で。同級生からは調子乗ってるとか、遊んでるとか男好きだとか。東京よりも好奇の視線が突き刺さるけど、外見は好きでやっているし今さら変わる気なんてない。たぶんあと1年しかこの土地にはいないはずだから。
高校3年生。転校して早1ヶ月。
「ていう感じでここら辺は田舎だからすごい話題になってるからさ〜。話してみたいと思ったんだ。名前聞いてもいい?」
「……七海マナ」
「ふ〜んマナちゃんか。…んん?ちょっと待って。七海マナってあの!?」
「徹…」
見上げた顔は、見知った顔で。
どうして、なんで、色んな感情が頭の中を駆け巡っていく。
だって会いたくなんてなかったから。
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「なんで!?」
「私が聞きたいんだけど。」
「いやいや8年ごしのまさかの再会でそんなに冷静でいられることに俺は今ビックリしてるよ!」
「…驚いてるけど。」
「全然伝わってこないけどね!でもそっか〜、こっち戻ってきたんだ。というかどうしちゃったの!東京行ったから!?」
「別に、東京だからって訳じゃない。これやったの高校入ってからだし。てか校内でナンパ?」
少し怪訝な顔を向けると、聞こえていないのか、でもよりによってマナに声かけるなんて…と顔を手で押さえてがっくり肩を落としている目の前のこの男。軽いノリで話しかけてきたときのテンションと全然違う。
記憶の中とあんまり変わっていないような気がするのは昔と同じように話しているからだろうか。でも声変わりした声にもう幼さは残っていない顔つきに身体、やっぱり時間は経っているんだなと実感する。もうひとつ変わってないことといえばジャージを見るに彼は今もバレーをやってるんだと思う。
「まぁいいや。私帰るところだから。じゃあね。」
「ちょっとちょっと、久しぶりの再会なんだからもう少し話そうよ。積もる話もあるし。」
「私は特に積もる話はありません。」
くるりと背を向け校門へ向かって早足で歩いていく。追いかけてくる気配がしたけどおそらくそのさらに後ろから誰かに声をかけられているのが聞こえて引き止められたのか足音は遠くなっていった。
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自分の部屋に帰ってきてカバンを放り投げてそのままベットへ寝転がり天上を仰ぎ見る。
「は〜疲れた…」
たぶん最後の記憶は小学校のとき。家が近所でよくいく公園に徹がいたのが始めだったような気がする。バレーを始めたばかりで幼馴染に負けなくないといつも1人で練習をしていて。その姿を見るのが好きだったから学校が終わると真っ先に公園へ向かっていた。遊んでたというよりおもに私が一方的に徹の後をついて回っていたというのが正しいかもしれないけれど。
引っ越さなきゃいけなくなったときは徹に会えなくなるのが悲しくて毎日ダダを捏ねて親を困らせていた記憶がある。もう遠い記憶。
「そんな頃もあったな…」
小さい小学校だったから同じ土地でも高校で知り合いに会うなんて思わなかったし、ましてこんなに変わった私を見て名前が同じだとしてもあんなすぐ分かった人はほぼ初めてで内心は本当に驚いた。
リセットしたくてわざわざお父さんの単身赴任についてきたのに。よりによって、は私の台詞。