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▽ 茅ヶ崎ss


ゴールデンウィーク最終日、出不精で時間があれば引きこもってゲームしてたいが信条の至が珍しくうちに遊びにきていた。今年はもう二度とないだろう長い長い連休で、おやすみなのに私が誘ってもなかなかデートに行ってくれなかったその人がなぜか午前中からうちにいる。来るやいなやくつろぎモードに入った至は携帯ゲームをしていて、いつものことなので私は私で部屋の片付けをしているところ。ゲームするなら寮でもよかったんじゃあなんて思いながらその背中をみつめてみる。

「よく午前中に起きれたね。昨日もゲームしてたんじゃないの?」
「寝たのは3時くらいかな。」
「うんいつも通りだね。それで昼から活動するなんて珍しい〜。」
「現実逃避したくて。」

嫌なことでもあったのかと横になって携帯ゲームをしている背中を引っ張ってなんでうちに来ることが現実逃避なのか聞けば、部屋には千景さんがいて顔をみると明日からの仕事のことを考えてしまうからとにかく現実から離れたかったなんてことを言った。本当にこの人は中二病がすぎるし同居人にも失礼がすぎる。よく追い出されないなぁと話を聞くたびに千景さんに私からお礼を言いたくなってしまう。

「それ千景さん可愛そうだよ。案に顔見たくないって言ってるようなものじゃない?」
「大丈夫。せんぱ、千景さんは分かってくれてるから。」
「ねぇ言い直してまでも会社忘れようとしてるよね?」
「今日は考えないって決めたからね。あー、ほんと今日で終わりなんて信じられないよ。隕石でも振ってくれたらいいのに。」
「あはは、至ちっちゃい子みたいだよ。」

背中を丸めるその姿に呆れつつも隣に座ってふわふわとその柔らかい頭を撫でれば至は携帯を置いてくるりとこちらへ向き直った。スッと伸びてきた手が私の毛先を優しく撫でる。よっぽど行きたくないんだなと苦笑いをこぼして至の手に自分の手を重ねてみせた。

「よしよし、不登校予備軍の至君を今日は甘やかしてあげよう〜」
「…言ったな?」
「っ、」

腕を引かれてそのまま至の胸の中にダイブする形になって体重がもろに乗っかったしまったから、下からうっなんてうめき声が聞こえて。体を起こそうとするとそれは叶わず、背中にがっちり腕が回されて力がこめられてしまった。そのぬくもりが嬉しくて力を抜いて至の胸に顔を寄せれば彼の手がポンポンとあやすようにゆっくりと背中をたたく。

「充電充電。」
「明日仕事頑張らないとね。」
「仕事って単語今日は禁止。」

クスクス笑う私の顔を至は両手で挟んで眉を寄せた。こんなに嫌がってもなんだかんだサボったりはしないんだろうなって思うとこの大きなこどももなんだか可愛く思えてくるのだから不思議だ。ふと額と額とくっつけられ物欲しそうな至の視線とかち合った。

「もうちょっと癒してほしいんだけど?」
「…どういう風に?」

分かっていながらも首を傾げると答えの代わりに自然と唇が重なった。深くなりつつそのまま繰り返されるキスにだんだんと頭が痺れてきたとき、一瞬離れた至の吐息とともに甘い声が耳に届く。

「…まだ足りない。」

そんな言葉ともに視界が反転し、今度は私が至の顔を見上げる形になる。デートしたいって言おうと思ってたんだけどななんて頭の隅で思いながらも逆らえない私はそのまま大好きな人の体温を感じていくのだった。


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