049


委託販売が軌道に乗り、新鋭の冒険者としてクエストをこなし報酬を得る仕事にも無事にありつけて順調である、筈なのだが──。

斡旋所に寄り 討伐クエストを幾つか引き受けたアークは、外地へと出向くのに着の身着のまま。これから大型モンスターを退治するにはあまりにも頼りない、丸腰でリ・ロベル大通りを横切る。
異国風の服装を身に纏い、体格の大きさも相俟って四方八方から物珍しいそうジロジロと遠慮なしに集中してくる視線のウザさにも、多少慣れてきた。
都に来るちょっと前 妹に一撃喰らったチョップで、痛みがやっと引く後ろ頭を荒く摩り。中身ごと零れ落ちそうな深い溜息を吐く頻度がここンとこ増し、むしゃくしゃして気分が晴れない感じが続いている──元凶は明白

ナマエが策略している計画の一片も存ぜぬまま、出稼ぎに遣わされてるのが釈然としない──。
「働けー。働くのだぁ〜」何てしたり顔した大将が寒い命令下すセリフは実際にはマジ云ってないが。己の他にも拠点に住ンでる奴ら、獣人ビーストマン辺り幾人かはチラっと過ったに違ェねエ。

創造主に不満抱き増してや疑うなど──
ナマエを信じていなければならない身でこの体たらく、きつく歯を食い縛り 肩を震わせる
人間ヒトよりも桁違いに優れた聴覚が、沈んでた意識を我に返るよう鼓膜に響く、遠くの裏路地の方から怒号が長く尾を引く波の如く余響して聞こえてくる。
土地勘を広める為 散策していた歩が気が付けば貧民街近くにまで来ていた──罵声と思しき耳障りな反響音を判別するに 男複数人と女が一人抵抗して逆らう

ほとんど無意識で騒ぎがある現場へと、アークは走った。


人目を忍び、陽の当たらない狭い路地裏奥で地べたに押さえ付けた若い女を六人がかりで無骨な中年男たちが取り囲み、覆い被さるところを。気配も無く、到着したアークが首根っこ掴んで 組み敷いていた一人目を軽々と放り投げる。

鍛えられた大の大人がまるで積み荷袋にでもなったような 宙高く放物線を描き、かなり距離のある運河に真っ逆さまに投げ捨てられる。
情けない女々しい悲鳴が途切れ、水柱が勢いよく上がり、唖然としたままでいる暴漢らを続けて片手で一人ずつ放る。 

残る中年男らはアークに振り返り、存外に巨大な躰である相手に(でけえ)やら(死んだ)と驚きに硬直化した直後に、先の連れと同じ悲惨な目に遭う。

いけ好かない輩を掃除し終え。すっきり気が晴れたアークは 状況が飲み込めず──何故こんな行動に出たのか?動機が己でも分からず 眠りから覚めた妙な感覚が前にも似た事があった──小さく呻いて起き上がる女へ視線だけを向け。
嗅ぎ慣れない匂いが嗅覚を刺す。鼻に皺を寄せ、不快感露に顰める。

女物の香水が幾つも混じり、化粧品類の油染みた柔肌、数人男の汗と何か鼻と口を塞ぎたくなる干し魚が放つ生臭さと葉っぱをごちゃ混ぜにした搾り汁の青臭さが鼻腔を突き、即行後ずさる。
下がるずり足にふいに当たる、古びた本──?異世界文字を自動翻訳する眼鏡で読めた見出しが『治癒薬之書』

同じ刺激臭漂わせる本が、女の所持品であるのを示すが どんな素性か全く検討付かない。まじまじ眼を凝らして見ると──頭まですっぽりと被れる外套を急いで羽織る、緩く波打った明るい茶髪で、女の内側の身なりがやけに胸元を強調している形であった。

(──娼婦か!)やたら数多い香水臭う、大人数女の匂いがする疑問が解けた。
しかし何故 後生大事そうに小難しい本なんざ持ち歩いてンだ?

膝を折り、目線合わせ怯えさせないよう声をかけようとしたところで 突如背後からナマエが問いかける

「それで?その子を助けてどうする」

判決を下す神であるかのような、傲慢な態度で訊くナマエがこの場に居る筈無く知覚出来なかった、故に幻聴なのは確か──なのに問われる言に核心を突かれ。狼狽を隠せなかった。

「きっと厄介ごとに巻きこまれる。そしたらおおやけになるだろうなぁ──冒険者の仕事も請け負えなくなり、今回のビジネスも台無しだ息子よ。お前にその危険が冒せるか」

本物の大将であったなら、こんな戯れ言は云わないナマエはいつも力ある言葉で導いてくれる これは こんなのは

苦しげに蹲る大男に。背伸びしたような無理して色気づいた女が膝を付きながら近付いてくるのを振り払い、背を向けてアークは立ち上がる。

「最後まで面倒が看れぬなら助ける必要もなかったんじゃないか?」

偽物の影を殴りつけ、そこに何もない霧が四散し。鈍器で頭を殴られたようにガンガンする激しい痛みが止まない、重く感じる脚を引きずり、誰も追って来ないかと 一度だけ振り返り──

振り向くアークを見上げ 血の気引き若い娼婦は怯え、短い悲鳴を上げて口を押さえた。眼鏡が掛かっていないレンズの端で目が合ってしまう。人間ではない真紅の虹彩でいろどられている異形のそれ。

真っ暗な路地の奥へと 辛そうに体を引きずり、闇が大男の姿を掻き消すよう消えていった──

動悸が乱れる胸に掌を当て、深呼吸を意識する──落ち着きを取り戻した思考で難を逃れた女は走馬灯のよう、辛苦に耐え続ける過去が蘇る。
信望を受けていた薬師の親を拉致され、身寄りないみなしごとして娼婦に身を落とした、毎日泥水をすする日々。難癖を付けてきた客の何人かが寄せ集まり乱暴してきた──助けがなかったら、こうして無事では済まなかった。今頃になって震え上がる

首に冒険者の印をぶら下げていた、彼にもう一度会えるだろうか──。形見である本を拾い上げ 病床に伏した同業の子に一刻でも早く治療薬を煎じる為、素材を掻き集めなくては。
医学に通じる娼婦──ジョセフィーヌは明るい髪色を隠すフードを深く被り、急ぎ足で駆ける。


一方。母娘おやこ水入らずでデートを楽しんでいるエリーとカーリィナは、近く臨月に入る奥方にお礼を言い。
前回と同様、利益となるお金の代わりに物々交換でカーリィナに日頃の感謝と、初デート記念にプレゼント贈りたいナマエが奥方と店主に頭下げて頼み込む。

難色示す店主であるが。ここぞ女性同士の結束力を魅せつける大一番よ!
文字通り 旦那の尻を叩いた奥さんがなんでも好きなもの持ってっていい了承もらえるどうだい!伊達に商人あきんど長くやってないぜ!!

「カ──あさんっ、なにが欲しい?好きなの選んでいいよ」
「え わ、私が ですか‥‥っ?」

母親(仮)を名前で呼ぶのは不自然だなと思い、都市で人前にいる間は(かあさん)呼びにしよう留意しておき。はじめての二人きりデートでなにを所望するのか、目頭が熱くなる楽しい弾みで胸躍る。

「あの‥‥‥‥〜〜っ、、──り」

最高に可愛い 頬っぺが赤く紅潮し、うっすら涙ぐみ照れて組んだ両手の指をせわしなく絡ませて消え入りそうな かぼそい声でもう一度、意を決してたずねる。

「恋‥‥物語、‥‥‥れ、恋愛小説!はっありますでしょうか‥?」

稲妻が直撃した凄まじい電圧ショックがカーリィナの周りにいた全員に降り注ぐ 他人に一切興味なさそうなフリして、プレゼントに欲しいものが恋愛!小説!!
これが世に言う"ギャップ萌え"の効果を最も受けた店外にいる男衆が鼻血と、諸々体中の穴という穴から興奮で血を噴き出し一掃され。道具屋夫妻はお互い、若かりし頃の青春を思い返す。

本日何度目かの「ウチの娘がこんなにも(以下略。)」と叫びそうになる寸前。ナマエはぷるぷると悶え。屋敷の図書室にしまってある趣味で収集したべっタベタな恋愛もの小説を実の愛娘にバレ、かつ読まれていた──ッツ!!

子は親に似るということわざを心底身を以て理解し、恥ずかしくて全身の血液が沸騰し蒸気を発して茹で上がる。


娘が喜んでくれてなによりデス(瀕死)




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