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破顔する屈託無い笑みを浮かべるエリーの背後になにか黒いツノを生やした、いかにも悪巧みしてますな したり顔でほくそ笑む悪魔の影が薄っすら見えるような

「ご無沙汰しています!体調はお変わりありません?」

一昨日おととい対峙した時と同様、何と言い表そう──鋭い刃の切っ先が喉元に突き付けられているような威圧を幼いエリーから感じられ。親子ほど歳が離れてるのに、漠然とした身震いを覚える。
追い詰められた袋のネズミというのは、こういう心境であるのか大柄な店主は眩む意識を何とかカウンターレジ前で踏み留まる──豊かな語彙力が小気味良い響きで 小川に流れる水音に似た緩やかさで鼓膜を震わす、甚だ弁が立つエリーだけでなく。大層美人な連れが、矢で射るような軍人の目付きだと思われる視線を冷厳な容貌に、流星のよう光り、瞬く間に消え 無表情で正面向かい合い、エリーの傍で動かずにいる。

何の牽制か。猛烈にお引き取り願いたい「帰れ」と危うく言いさす

「賑やかな様子でよかったですわ〜グミの売れ行きはいかがと思いまして、立ち寄らせて頂きました」
「あ、あぁー‥‥上々、といったところだな、お蔭さんで‥、そっちの連れは‥?オメーのかーちゃんか」

急に押し黙るエリーと美人に。ますます疑念を抱き、別に変な質問じゃなかったよな?

いぶかしげ、怪しむ眼差しを向けてくる店主から目線を逸らし変な汗垂らしてナマエは、急ぎ<念話テレパス>つなげカーリィナと示し合わせる。

「はっ、母の──カーリィナかあさん、デスー‥‥」
「娘が大変お世話になっております。」
(ッ下手くそか!?)

モロ嘘がバレっバレであるも、余計な事に首突っ込まないでおこう──自称母親と名乗るカーリィナと、己も自己紹介だけして口を噤み。
前回エリーが卸しの商品として持ち込んで来たグミなるものを食べ、幻肢痛が快方した訳や何処の国出身なのか真実尋ねたいところ 正式に弊店で商談を纏めたい──のだが。どうも歴戦の勘がエリーを信じていいものか、判断に迷う。

めしいた右目を隠すよう白いバンダナを巻く店主の左眼に、前はなかった、力強い生気が含んでいる。意志がとても固く 隻腕でも屈強な躰付きは今も鍛練を続けてる証拠。店構えする立地や条件が悪く、厳しい状況のなかであろうと、商売を切り盛りしよう努力する姿は──見ているこちらも、ガンバろうという気持ちが湧いてくる。
思い惑う店主を知ってか知らずか──。何も言わずナマエはおもむろに両手を背の後ろにまわし手品を真似。追加のグミを包んだ大袋を<転移水門アクア・ゲート>で取り出し、カウンター卓上へ差し出す。

「ありがとうございます──かあさんが作ってくれたグミっ!たくさんの人に食べてもらえて、うれしいです!」

つい先刻取り決めた虚偽の設定で話題に上げられ 言葉に詰まるカーリィナであるが──確かに回復グミを大量作製するにあたり、ナマエ主導の下 携わっている。自身が調理した品が市場に出回る、主人のはつらつと大喜びなさる言葉もさること 何とも胸の奥に染み入る波打つ余韻が引く──

温度を感じない堅い表情がわずかに雪解ける春の陽射しのよう、頬をほんの少し赤らびてうつむき目を細め瞼を震わせ垂れ下がる髪を弄り耳にかける仕草に。店の外窓に張り付く男衆が身を乗り出し、一斉に色めき立つ。

どうにか母親を演じ深々と一礼して姿勢直すカーリィナと手をつなぎ直したエリーは。あっさり道具店を後に踵返そうとするところで慌てて店主が呼び止める。

何処にしまい込んでいたのか グミが大量に入った袋が手ぶらで軽装、エリーの手元から取り出され何も交渉せず品を寄越した。商人であればこんな得にならない行為はしない、許容出来ない振る舞いに瞠目するも 治療効果のある不思議なグミを作った本人が眼の前にいる、カウンターに乗せられた大袋からすぐさま店主はばっと首を上げカーリィナへ意識向け

「これっこのグミ!作ったのアンタ!」
「、さ‥‥左様で ございます‥‥」
「なぁにー?大きな声出して‥‥?」

間延びした女性の声が店奥にある階段上から降りてくる足音とともに近づいてきて、ふっくり丸みを帯びるお腹を支える奥方が顔を出し。一瞬ナマエがひっそりと白い歯を見せニヤリ含み笑う。

「あらー?あなた、この前のお嬢ちゃんっありがとうねぇ〜あなたが持ってきてくれたお菓子、この人の体調がよくなったのよーわたしも寝付きが悪かったんだけどなんだが眠れるようになってね、腰も軽くなったし!息子もすごく気に入ったみたい!」
「どういたしましてー!前にいただいた本、どうもありがとうございます!今日もグミをお届けにきまして‥‥そのー、‥あのっかあさんになにかプレゼントしたいなって思ってて、」

ここにきて嫁に対し歳相応、少女らしく しおらしくなったエリーに不審がり、店主は片眉を上げ両者の間を割って入ろうとしたが。喜々として応援しだす嫁に制止かけようか戸惑い、躊躇ためらう。

初対面の相手に内心まごついているカーリィナに奥方を紹介し、外で同性の知り合いができたことになごやかになるナマエが身篭もる奥さんに是非ともお願いを持ちかける

「お腹‥触ってみてもいいですか‥?」
「ええいいわよ」
「ほらかあさんも、そっとだよ」
「え‥‥‥?」

赤ちゃんがびっくりしないようにね──そう呼びかけ、主人がゆっくりした動作で手を伸ばし 妊娠している胎の内で眠る胎児をいつも自分たちにしてくれる柔らかさで撫で、さする──

感心する声を上げる主人につられ 自身も壊れ物を扱う際の慎重な対応で、指先をおずおずと肚に当て

静かに乗せる掌に とくり とくり──
ちいさな命が脈打つのを服越しで感じる体温で伝わる ここにまだ世界を知らない赤ん坊が眠っている

「そんなに怖がらなくても大丈夫よ」

初めて見るものでもないでしょうにどぎまぎして触れてくるカーリィナが なぜかしら妙に年少に思え、奥方は思わず吹き出しそうになる。幼い子に語りかけるよう何気なくかけた言葉であった。

怖々とした肩に力が入るカーリィナが、ほうっとため息をつき 緊張がとけて胎児の命に触れる感動的場面を心のアルバムにしっかり保存してナマエは激しく苦悩する いつかはカーリィナもお嫁さんに行っちゃうのか──!
ウエディングドレス着る愛娘をイメージし、寂しさやら感慨深いやら色んな気持ちがごちゃ混ぜになり、溜まらず嗚咽を漏らし号泣し出す。

健やかな成長を願う




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