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自身が秘めていた乙女チックな趣味が暴かれ、恥ずかしさのあまり卒倒して遺体と化すナマエの名誉の為に弁明させていただくと。

異世界転移する前のユグドラシルゲーム内では18禁に触れる行為はご法度、下手したら15禁も原則禁止である。
ナマエが屋敷の人目に付かなそうな図書室の奥棚へ持ち込んだ恋愛小説類は、花も恥じらうド健全な純愛物そのもの。

アカウントが強制停止される、風営法に引っかかる いかがわしい描写など載せられていないのにも関わらず──。何故 床に転げまわる程羞恥に溺れているのか
現実世界リアルで異性との交際経験が無いに等しいナマエは、現代ではとても珍しい───初心うぶであった。

ブラック通り越してダークすぎる社会で働きづめで恋愛する暇なんてなかったよ!
ママンに隠してたピンク系雑誌見つけられた、身をよじらせ悶え苦しむ思春期の子みたく。床にぶっ倒れ撃沈するナマエは──辛うじて意識を繋ぎとめ。
(くたばってたまるかア!!)渾身の気力を振り絞り、生き返る。

そんなこんなでナマエが1人コントしている間に。上階にある自室からお目当ての小説、数冊探し出してくれた奥方が、すごくいい笑顔でカーリィナに手渡す。

五、六冊をまとめて受け取ったカーリィナは大事そう胸に抱え、浮き立つような気持ちが隠し切れず ほのかに頬を染め。今にも消えそうな声で

「ぁ‥ありがとう 、ございます‥っ」

胸をぎゅっと締め付けられる万感の想いに感極まり、ナマエは熱くこみ上げてくる目頭を掌で押さえ目尻に雫が伝う。

(なんて・・・っ可愛いんだ!)

あんまり、というか ほとんど愛娘カーリィナの感情の起伏を見られなかった。子が喜んで嬉しくない親なんているもんか!止め処なく溢れてくる涙と感動に、デートしてきてよかったとむせび泣く。

我が事のように顔をべしゃべしゃにして泣くじゃくるエリーを、側目で探り見ていた店主はその余りにも拍子抜けな光景に思いっきり面食らった。

階下の賑わいを聞きつけ、何だろう?と降りてきた長男息子も。泣き崩れるエリーを前に口をポカンと開け、立ちつくし固まる。

「あら初めまして?ねぇ君、父さんと母さん好き?」
「うんっ!」

涙を拭い、パッと切り替えてナマエが子どもに問いかける。屈託なく頷き返す男の子に満足し笑みを浮かべ、おもむろに握った両拳をゆっくり差し出す。

「素直でいい子には飴ちゃんをあげよう〜みんなにも分けてあげてねっ」

広げた両掌から何処からともなくあふれ出てくる色鮮やかな飴玉に瞳を輝かせて男の子は、いっぱい菓子を抱え店を飛び立つ。

「お伺いしたいことがあるんですが、こう‥手で持てる顔くらいの大きさで、風景をそのまま写し出せる魔法道具マジックアイテムなーんてもの。聞いたことあります?」
「はァ?何だぁそりゃ」

毒気抜かれ警戒心が薄らぐ店主は、前触れもなく質問してきた内容のモノが何を指しているのか皆目見当つかず。とても不思議そう奥方も疑問符を浮かべてる。

目を剥いてナマエはショックを受ける。
この世界には、カメラがないッ!!!

益々 王国と自分たちとの技術格差を肌身で感じ、頭を悩ます。撮影機が存在しないとすれば、画家や芸術家が肖像画を描いている近代史以前の発展止まりと判断していい。

踵を返し、息子が跳ねて出ていった後に続き。店を去ろうとするエリーへ声掛け

「街の中心部でも商売する気か‥‥?気を付けろ、人攫いもそう珍しくねえ‥目立った行動はやめた方が
「ほう?」

振り返るエリーを目の当たり、二の句が継げなかった──心から楽しそう これから遊び場に駆け出していく無邪気な少女の笑顔に。背筋が凍り血の気が失せた。

「忠告どうも感謝します。もし無事でいられたら‥‥また顔出しにきます、店主お元気で」

手振りして再会の約束交わすエリーと、数冊本を抱えたまま会釈するカーリィナがお互いに手をつなぎ直し。去り行く背に向け、店主はいい加減名前覚えろと声を張り上げて名乗る。

「リュヤドだ、困ったことあったらいつでも訪ねてこい!」

振り向かず握り拳をし了解と応える。
リュヤド家族が細々と経営する道具屋を後に、細い路地裏を歩き進んで周囲に聞き耳立てられていない事を確認してナマエは握り返す手から伝わる。湧き立つような魔力の波を感じ、微笑んで自分もデートの続きが楽しみでならない。

「良いのもらえたね、お礼もちゃんと言えて偉いぞ」
「はい───あの、エリー‥‥様‥?」
「うん?」

今なら誰もいないから本当の名前でも大丈夫なんだけど、律儀なカーリィナは略称に"様"付けなんてして。慣れない呼ばれ方でほんの少し笑いが漏れる。

「貴女様で在ればこの程度の都市、半日もかからずに支配下に収めるのは容易い事で御座いましょう‥‥‥?西の小村を征服致した際もそうでしたが‥‥どうして、前準備をなされてから御身は動かれるのです?」

裏路地を抜けて、大通りに差し掛かる手前で立ち止まった──明るい日差しの下、大勢の人間たちが目の前を往来するなか カーリィナの率直な疑問を耳にして 数秒棒立ちになり静止する。そして

堪えきれず可笑しくて肩を震わす。

「そんなの詰まらないだろ?すぐに終わるゲームなんてするもんか遊ぶなら全力でやる。カーリィナ‥‥私は今、とても楽しい。こうして君と休日、出掛けられるのも異世界に飛ばされなきゃできなかった‥‥君が言うように、壊すのは簡単だ。だけど私は破壊者じゃない。そんな大それた者でもない‥‥‥ただ君たちを、大事に想う親でありたい」

壊れものを扱うように慎重にエメラルドグリーン色の髪を梳いて耳にかける──体温低い頬にそっと手を添え、慈しむ主人の掌や指の感触、ぬくもりをより感じるよう瞼を閉じ。擦り寄る。


超大型ハリケーンと遜色ないエリーと、その連れカーリィナが退店した後も道具屋に及ぼした影響力は凄まじかった──

出血多量で失神していた男衆が復活した頃には、とっくのとうに天女の如き美しいカーリィナの姿は失せており。
あの美女はどこに行ったとか、住んでる場所は、既婚者なのか未亡人なのか。怒涛の質問攻めして詰め寄ってくる男衆に一喝してリュヤドは。ここぞとばかり
「教えて欲しくば店の商品、何か買え」上手く立ち回り財源を確保する。次いでに自身の店の宣伝にもなった。
依然と正体が謎めくエリーに感謝しつつも「いつでも来ていい」なんて大口叩いちまった──後悔先に立たず。

明確な根拠も無いが、エリーならしぶとく生きてそうな気がして──知らず笑えてくる。少しだけ、あの臆しない不遜な態度が気に入った──


楽しんだもん勝ち




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