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カーリィナ=ジズにとって拠点の外について思うことは、灰色が占め変わらない敵が斃れむくろが並び、からの薬莢が足元に降り注ぐ。照準器スコープで覗く敵の絶命する瞬間の繰り返し。
特にこれと言って心動かず。たまに二番目の兄が拠点外で体験してきた事象を語りに来るけれど 全て右から左に受け流す。

悔しくて次兄の話題は必ず主人が傍らに寄り添っている。
「外は楽しい世界モノ」とのたまう──

瞼をつむると時折。黒白入乱れる砂嵐が止み主人ときょうだいらが駆け回る、さざ波が響き空と海とが重なる水平線、蒼に染まる砂浜に自身も立っている──電源が切れるよう景色が替わり 長銃を構えて引き金トリガーに指を掛ける、乾いた土埃と剣戟と銃声が拡がる戦場に立つ色の無い自分を思い出す。

昨夜 余裕ある魅力の尽きない所作でお出掛けに誘うナマエを前にして。
日付を跨ぎ、朝餉を普段通り振る舞い、食堂の後片付けを完了し、自室に戻る。デートのお誘い受けた瞬間ときからだいぶ時間が経ったカーリィナの意識が。""になって戻って来た。
その間 記憶が全て抜け落ちてしまっている──。かなりの重症である。

屋敷出てすぐの泉で待ち合わせしよう。
幸せの絶頂最中うっすら微かに残ってた意識でなんとか約束の内容 留めていた──夢ではない事を獣人ビーストマン持久力スタミナ向上、手合わせしていたアレクサンドルをとっ捕まえ何度も何度も確認し。

掴まれた両肩を激しくガクガク揺さぶられ魂がすっぽ抜けるんじゃないかと、気が遠のき ふらふらになった状態でもアレクサンドルはつぶさに、根気強く。取り乱している妹に向け
「良かったじゃねェの」昨夜の事象が間違いないことを諭し。

器用に真顔のまま、耳まで真っ赤になるカーリィナが再度 屋敷にダッシュで戻っていった細い背中に なんてことはない。はしゃいで先駆ける大将そっくりだと、俺も(別行動だが)みやこ往くんだぜ?アイツ俺のこと何とも思ってねエだろうな‥。

兄の威厳とは──。
年頃の妹との接し方を模索しても、己の得手に当て嵌ら無い。結局 ナマエと心を通わせても何を企んでいるか一向に分からなかった。
あの出不精な妹を外に連れ出すのにも訳が有るんだろうが、賽は既に投げられている そういうこったろ

遠々しい先の場所に居るナマエの背は未だ視えず。
メイド長の稀に見ない奇怪な行動を側で見てた狐と、猪の獣人ビーストマンが腰抜かして困惑極めているのを。溜息吐きながらも首根っこ掴んで仕切り直す。


一端 深く息を吸い、血液が通っていない身なのに動悸する胸を抑え 少しずつゆっくりと吐息する。自室の姿見を前にしてカーリィナは後ろに髪を結うホワイトブリムの紐を外し、腰元まで流れ降りる自分の髪色と同じ海があるんだ、と。"なんごく"なる憩いの地の話しを熱心に語るナマエの姿を淡く雑音混じりで追考して 棚奥に揃えている日誌の内どれかに、書いてあったことを胸中で確認し、手ぐしでエメラルドグリーンの髪を耳掛ける。

陽の光りに満ちたあの海辺の情景が記憶という物なら それは主人が居るからこそ
私の世界は御方が居て、はじめて色づく。

書き記す字には インクの黒しか遺らないしかし憶えている。ナマエ様の笑みと、眩しいくらいの澄み渡る場景を

調子を取り戻したカーリィナは。日課となっている獣人ビーストマンの実戦教育を実施する図書室へ足を伸ばし、本日は休講と伝えた途端に飛び上がり喜び表す畜生共に。すかさず<百科事典>エンサイクロペディアと同じ厚みの試験を課し、解答欄埋めておくよう指導した。

拠点内のこの地に、品位に欠ける野獣等が住み着く決定が下されて。
一番最初に意思疎通の手段、五十音片仮名カタカナの読み書きから徹底して覚え込ませ、座学で知識を身に付けるのに黒板に記す字が訳無く読めるよう仕上げ。
最も重点に置くべき特記事項。もし主人に仇成す敵軍が屋敷に侵犯してこようがすみやかに、かつ死ぬ程 敵本陣営に後悔して差し上げる流儀を脳髄に叩き込む。
私が留守にして気を抜く休む暇があるとでも?生ぬるい明日から更に課題を増やしていきます。

老齢により離脱したエルキーを抜き、青年層八割,中年層二割に区分する気力と精神を充分備えている総員二十三名のベイをリーダーとし。再び獣人ビーストマン勢を鍛え上げる──これがカーリィナが主人ナマエから任された役割り。であった
ナマエの声が頭のなかで木霊する

デートしに行こう──デート──

自室に又戻り ドレッサーの椅子に崩れる落ちるよう、化粧台に額ぶつけ突っ伏し 愛して止まないナマエの凛々しさが増した昨夜のお誘いを思い返して正気を保てない。
ナマエにより創造されて生命が宿ってこのかた大好きな主人と外で出かけた記憶は元エストルグ村の時を除いて無に等しく 今日がカーリィナにとってはじめての二人きりデートとなる!

(デートとはッ!)図書室で置かれている恋物語で読んだ──好き合う異性同士が街に繰り出す。未知の体験を主人と!私とで!!?

※心中穏やかでいられないこの最中でも真顔が崩れていない。
ある意味才能に等しい 体が痺れる感覚を体温の上昇で感じ入り、悶え身を縮み込ませるカーリィナは、はっと面を上げナマエの身辺守る自分の初心を思い出し。

点と点が一筋の線に繋がったのを直感し 先んじてリ・ロベル最奥へ潜入の任務を実行している魚人マーマンが持ち帰った報告で、都市を統べる首魁は馬糞以下の愚劣なサルで在ると──!そんな下劣極まる城下街が華美で治安が良い訳ないじゃない!

何たる思い違いをしてたのかしら!

椅子を押し倒して起立し、カーリィナは着ていたメイド服から直ぐ様 戦場へ赴く戦闘服に着替え外廊下に控えるウーノに声を大にして呼び掛ける。

「ナマエ様は無事!?」

「はっ?え───や、屋敷の外でお待ちしておりますが‥?」

ゴツゴツ、と固い足踏み、物々しい気配がドア越しから近付いてくる──?指揮官殿の付き添いを頼まれたウーノはいやな汗が滲み出し 蹴破らん勢いで、実際に蝶番が破断した。眼前に飛び込んできた最終兵器カーリィナに声にならない叫び上げる。

違う、そうじゃない。

泉で合流したナマエは今にもぶっ倒れてしまいそう。娘の検討違いな(脳筋)ファッションセンスは自身の磨いてこなかった女子力の低さに原罪があると──これどっから説明すればいいんだ?

傍らでセイスも硬直して、クッションにしてた小マシュロは体積を限りなく見えなくなるまで小さくなり、空気凍り付くこの場をだっするアイツ逃げたーッツ!!


要らんとこまで似なくっていいよッ!




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