038


蜥蜴人リザードマンと人間種では子が成長して成人に達するにあたり、大きく違いを分けて二つある。
一つは種族の異なりにより蜥蜴人リザードマンの体はワニを彷彿する角質化した鱗で覆われ、人が使用する下手な防具よりも硬く、成人した雄で百九十センチ越え。体重は百キロにも及ぶ。十五の年齢を迎えてはじめて周囲から大人と認められるこの世界で はっきりと見た目で判る通り明らかにザリュース属する種族の方が体躯に恵まれている。
次に潜在能力──主に湿地に住居を構える蜥蜴人リザードマンは水場で生活するに、より適した進化を遂げている。手足指の間に水掻きを生やし、水中で素早く移動が可能で先端の爪はそれほど長くはないが鋭いを鉤爪を有し。生活圏が足場の悪い沼地でも難無く足取りを確りとする太くどっしりとした健脚。腰から生やす長く立派な爬虫類の尻尾でバランスを取っている。

稀に彼ら"緑爪"グリーン・クローや他部族間の中で魔法に秀でた者が誕生する。人間種の中でも"異能タレント"と呼ばれる魔法適合者が、同じよう生まれる。が、部族社会で生まれ育ったザリュースは強さの基準を階級制で認識している。
"緑爪"グリーン・クロー族に身を置く、最も強きリーダーは実兄を族長にして、兄シャースーリュ・シャシャを補佐する選ばれた年長組の長老会。並んで戦士階級の戦士たちが村をまとめている。その下に一般の蜥蜴人リザードマン。階級に属していない森祭司ドルイドの能力を持つ祭司の集まりや、村の者たちにとって安全ではない森で伐採を作業する狩猟班も存在するが彼らは基本的に族長の命令に従うことを求められる。

<小鬼ゴブリン>や<人食い大鬼オーガ>に並ぶ亜人種に分類する蜥蜴人リザードマン。人間社会ほど進んだ文明は持っていないし、暮らしぶりは非常に原始的で野蛮と思われがちだ。洗練されているとは言えないまでも文化を持っている。
故郷を一度見放し、旅人となって権力から完全に切り離れた異分子にみなが排他的な目で見てくる そのことが分かっていても再び古里に戻ってきたザリュースの、狭い世界の外を実際 体験した経験測による直感が導く。

一瞬で呑まれた、たったの自己紹介で。
年端もゆかぬ幼子、しかも女子に。

世界は広かった──その先の、未知なるモノは確かに在った。
自分の思慮など及ばない──がどこか己と通じるところがある──奇怪な存在とこうして相見えるとは

突付けようとした宝剣の、柄を握るのを下ろしてザリュースは潔く片膝を地面に付き目線を低くして対等な視線で最初の言を交わす

「手を‥降ろしていい、悪かった‥‥養殖魚を食い荒らすたぐいかと勘違いをした──ザリュース・シャシャだ」

真っ直ぐ上に両腕をあげていたナマエは素直に手をゆっくり降ろし、身を屈んで威嚇したことを詫びて一度頭を下げる蜥蜴人リザードマンの雄に対し。胸を打たれる感動に激しく涙腺が刺激され、じんと涙が出そうになる

大人だ!これぞまさに大人の対応!!
人間の屑相手に荒んだ心が一気に洗い流されたよ!やーっもぅ貴重すぎるイケメン!!ん?や男性じゃないからこの場合蜥蜴人リザードマンでイケリザ?なんてイケてるリザードマン!!

「ありがとう!」
(ッ泣いた‥だと!?)

握り拳から親指を突き立て、感謝の意を突然叫び出したエリクシールと名乗った女子がぶわっと頬濡らし泣き出す。益々異質な、人間?の姿をしている──訳の分からん存在だ。反応に困り果てるザリュース。
悪いヤツでは無さそう──なんだ。そう 悪そうでは無い、んだが調子を狂わされる。

「いや、ごめんなさい‥‥この頃あまり良い出会いがなかったもんで。ホントいきなりの訪問してすみません‥素敵な生け簀に見惚れてボーっとしていたら時間を忘れてね」

訊きたいことは此方こちらも山程ある──先ず何処から来たのか、何故モンスター蔓延る僻地に踏み入って無傷で済んでいるのか、女子の力じゃ敵わないだろうと思うに反し、この存在モノには"なにか"ある──圧倒される気迫を巧妙にかつ高度に か弱い外見に隠匿している
緊張からくる米神伝う冷や汗。悟られぬよう固唾を呑み込み目的は何だ、と探ろうと

「養殖ってどうやるか教えてほしい」

肩透かしを喰らってザリュースは急激な脱力感に襲われ、地面に倒れ伏さないように四つん這いでなんとか堪える。

警戒していた自分が阿呆に思える。
キラキラとした真っ直ぐな瞳で訴えてくるものだから(ああコイツ争う気は無いんだな。)と否が応でも納得せざるを得ない。

よくわからんがショック受けてる──?蹲っている彼の腰元に、微かな魔力の波を感じ。注視すると青白い刀身で氷で出来ているのか 仄かな光りが文字を形作り──この世界で初めてお目にかかる魔法武器マジックウェポン。角度が悪くて刃になんて書いてあるのか見えない、んー。ヘタな真似するとめんどくなるしやめておこう。

「魚に餌やり ご一緒しても?」
「い──いいぞ‥(疲れる)」
「シャシャさん、餌は主に小麦を混ぜたものを使って?」
「ザリュース と──呼び捨てでいい。上に兄が居てな‥名前で呼んでくれた方が間違えないで済む」

気を取り直した彼の背後に大きめの麻袋が放ってあった、生け簀の管理人が持ってくる荷物といえば餌に違いないと踏み当たってた。
結び口の紐を器用に解き、袋から取って見せてくれるみじん切りにして砕いた果物の撒き餌。それを鉤爪を避けて傷付かないよう ちょっと上からふりかけて手渡す彼のジェントルマンな気遣いを察し。再び感銘を受ける。うっかりウチに勧誘する寸であった

「普段は地中の虫を集めて細かく砕いた餌を使うんだがな、あとはそう木の実に、食い残った魚の小骨、なるべくすり潰してな──今日のは特別だ、森祭司ドルイドにツテは居るか?彼らが魔法で作る果物がより良い成長をもたしてくれる」
「───いる。」

冷静な表情を必死こいて保ち、跳び上がって叫びたい歓喜を一端 鎮める。

(マシュロぉぉお!!)

お前の天下だアアア!!!──謎の大音量<念話テレパス>をキャッチし、白金プラチナリングのなかで休眠していた長子マシュロは急にたたき起こされビビリあがる。(また超過労働か‥‥‥)真っ白に燃え尽きる、そう遠くない未来を直視する。

何だろう本当に。泣き出したり満面の笑みで明るく感情がくるくると、いそがしいヤツだ──肩の力が抜かれる代わりに溜息が後を絶たない。

更に驚きが重なってザリュースの目が点になる。
連日振り続けた大雨の所為で生け簀の湖が水質変わってしまい、養殖魚の体調が余り良好ではなかった。稚魚の成長促すのと、治癒の効果が見込まれる村の森祭司ドルイドたちが魔法で作ってくれた果物は貴重な餌であり、余程のことがない限り成魚には使わなかった。十分に脂が乗って丸まると育ち 村の者たちに満足して食べてもらう為。今日までとっておいた、林檎のすり潰した撒き餌を生け簀にやる前に魚たちが狂ったように水面を激しく揺らし大量に集まって腹を空かしているこんな光景を見るのは初めてである。

「めっちゃ元気な子たちだね?」
「ッ何かしたろ!!?」

滅多に声を荒げない喉が噎せて咳き込む本当に何だこの女子は!?

試しにエリクシールとの距離を開けて同時に餌を撒き、ヤツの方に魚が群がっていく──ああこれはもう確実に人間じゃない。おい。育てたのは此方だ、苦労を返してくれ


良いこと聞いた!お礼をせねば




もどる
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -