037


いざ本腰入れ冒険者としても任を果たそう意気込んで出立前に、大将が常の如く見透かし 昨日より明らかに増量している飲料水スライム詰め込んだ大風呂敷を。意外や意外 ナマエのこと以外では滅多に外出したがらない妹が見送りに来たふくれっ面 荷物を突き差し出し手渡される際

「その似合わない服と眼鏡は、ナマエ様から賜り品かしらッ‥‥!」

(こわ。)拠点防衛指揮官であるメイド長と領内で連絡を取り合い、行動をよく供にする、同じく見送りに来ているウーノが青ざめて──<透明化>したい。けれどそれだと失礼行為に値する 出来ない。自分は只の新米騎士、空気張り詰めて棘々とげとげしい体感温度も下がったこの場で、発言してなにか変わる筈も無く。大風呂敷の結び口をあらん限りひっ掴んでギリギリィイと渡そうとせず。邪悪な嫉妬オーラを纏うカーリィナから三歩下がって、控えるのみ

アレクサンドルは存外動じず 納得

「着飾りたいって?そーか。そう云う、年頃??ってヤツかァお前さんも可愛いところあンじゃねーの」

決定的瞬間をウーノは見逃す。能面みたく冷たい顔立ちで感情を表に出そうとしない、カーリィナの鉄仮面が放心してから、徐々に熱を持ち耳まで真っ赤に「恥ずかしい」とひと目で判る。口をパクパク何度も大きくあけて、

「ッ断じて!!違います!!」
「女がく服のことはサッパリだが、みやこ近いって分かったンだから大将と出掛けてみたらどーよ?食材調達にでも行きたいつって誘ってみンのも良い気分転換になるだろ」

素晴らしい上司を持った!目頭が熱くこみ上げウーノは感涙咽ぶ 胃痛まで襲ってきていた指揮官殿の暗い威圧感が一瞬にして吹き払われる、うっかり失念しそうであった自分を激しく叱咤する。メイドと云うのだ彼女はまぎれもないうら若き乙女であり、擁護しなければならない御方。任に就かれている以外の、気を休まれている御姿を未だ見ていない。
目の前のアレクサンドル様と主が重なって──身内を、血が繋がっていない人間種・領民の心身体調にも細かに気遣いなさっている、主従揃って度量が超大過ぎる!

直感してカーリィナも兄の変化を目の当たりにする──!この男は誰だ、否。兄の他、違いは居ない。胸がつかえる もやついて幾つもぶつかり合っているこの気持ちは、

助言からつい想像する、主人と並んで外歩く自分を思い浮かべ幸せに包まれる

(そッ!そそれ は所謂!逢引き──!)
「根詰めて無理すンじゃねェぞ」

カーリィナ。

弾かれて再び凝視 ナマエ様と間違えた──なんという、呼び方がひどく似て

「晩飯食うから俺の分忘れんなよ」

妹の手から滑り落ちる前に大風呂敷を受け取り、軽々荷物を片腕で持ちあげ背に担ぐ。後ろ向きで手振りして 出稼ぎに出立してくアレクサンドルを茫然と見送る


獣人ビーストマンと鍛錬し終え、彼らの故郷亜人国にも知れ渡っている人間でありながら最強の戦士。住民たちからも厚く英雄として認められている──ガゼフ・ストロノーフ男の名。

物理的遠距離の問題で、逢えないことを理解しアレクサンドルは只残念に感じる──ガゼフが居住する地は王都。リ・ロベルより遠く離れて歩いて三日掛かる 直接逢って言葉を交わすより、実力を見てみたい。

平民出身で実力だけで王の懐刀に上り詰めた。その強さ、源は?何が己と違う

単純な腕力ならナマエより己が強い自信があった──世界は広い。それだけでは真なる強者には届かない

何となく英雄とナマエを合わせてみたが如何どうにも疑問が残る。偉功を立てられる才を持ち合わせて一切褒美を拒んでいる

(あ──?)

常日頃、周りの奴ら振り回してあンだけ感情を素直に出しておきながら何を望んでる

「アークの旦那!おはようごぜえます!今日も来てくれたんすねっ!」
「あんたの商品売れ行き上々だよ!ありがとうねぇ」
「あぁ‥‥はよ、ども」

昨日協力関係を結んだ行商人チームから再びもみくちゃにされながらアレクサンドルは、卸しの商談するも創造主のことが頭から離れず意識が外向く

<以心伝心>が完璧ではない、思っていることは感じられても。本当に何を求めているのかはとんと分からなかった

つくづく己の過信を痛感──頭を抱える 英雄とは何たるか、ナマエは答えを知っていて己にわざわざにして課題を出したのだ確り目を合わせて<以心伝心>が繋がっている状態であっても、その心。
深淵までは察せらず

(俺一人で王都往ってみるかなんざ考えてる場合じゃねエ!!)

<転移魔法>テレポーテーション使えるし上級水晶でも一個ちょろまかして王国戦士長に遭ってみようかと思ってた。そんな暇は無い。

売り上げ金は受け取らず、(一日だけでもかなりの金額であった。にも関わらず)まとまった額になったらでいいと言い残し一目散にリ・ロベル都市へ冒険者組合斡旋所へ向かう

「アークさん!組合から<多頭水蛇ヒュドラ>討伐の功績を讃えランクが昇か
「要らねエ」

受付嬢が目が点に。周りの者たちも一様にどよめきが起きる

焦りを自覚して歯噛みする、偽名使って目立った行動は避けよっつってたか、無理だ。大将 アンタ何処へ往こうとしてる

「‥‥‥‥‥‥じ」
「じ?」

昇格を唐突に蹴ったアークを前に。呆けて受付嬢がオウム返しで続きを耳澄まし

「ジブンはまだ、修行中なモノで」

目線が泳いでいるも確かなつっぱね
昇級すれば難易度の高いクエストが受けられて危険度相応に見合う報酬金が出るのに、欲さない──斡旋所に居る周囲の同業者たちは。ぽっと出の冒険初心者・アークを良くは思っていなかった、が──彼の様な金や名声に構わず人々のためと修練する冒険者としてあるべき姿ではないのか。胸打たれる

周囲のざわめきが僅かばかりの感銘の溜息や喝采に変わる。アレクサンドルは評価変わった等なんでもいいから仕事クダサイ。五十のクエスト達成すれば大将と又手合せ出来る

(追い着きたい)

ナマエと肩を並べて国創るところを視る
冒険者アークとして最初の一歩だ



ザリュース・シャシャは自分より頭三つ分も小さく幼い女子に畏怖を感じる。子が此処辺境の地に一人、親はどうした、迷子にしては身形みなりが綺麗──湖畔を見下ろして俯いてる女子を眼に、当たり前に湧く疑問が直後に吹き飛んだ、はだが栗立つ危険を本能が警告鳴らす。

「動くな」

一気に臨戦態勢入り腰落とし宝剣をいつでも抜けるよう。口から衝いて出た牽制 冷静な思考の片隅で自分はおかしいのか思う気持ちあるも、ただの子では無い──いつもと変わらぬ生け簀の光景。
刺す空気が幻だったのか、詰めていた息を吐き にじり寄る前に先に女子が振向く

目を大きく何度も瞬きして益々子にしか見えない 警戒していたのに気が殺がれる

両腕を上げ掌を見せる降参のポーズ。武器は持ってない、真上を見上げ亜人に笑み浮かべるとは、肝が座ってる?


「突然の訪問失礼する 旅をしているエリクシールという。貴方がここの管理者」
「‥‥‥‥‥‥‥‥。」


前言撤回。
子でもこんなにしっかりしてないだろ


互いの未来揺るがす邂逅




もどる
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -