036
「増えてる?」
拠点の最下層 地底湖。空間高さ三十メートル、床面積六百メートル四方、視界一面に広がる湖の深さ最長十七メートル。
あたり一帯地中から群生している
双笏水晶が、住民たちに睡眠安定を勧奨するのに採取した昨日より数が増えている。はっきりいって異常だ。
天上には生えてない、巨大な湖・深水地底から岸の地面、二メートルほど腕を上に伸ばせば採れる土壁までに至るあらゆる箇所から透き通る水晶角が突き出して 異常発生している。
思い当たる節があるにはある、が。確証が持てない限り 言ったところで混乱を引き起こしてしまう。
(異世界独特の自然法則??リ・エスティーゼ王国が持ってる魔法知識じゃ解明難しそう技術発展に著しいってお隣り‥‥帝国に訪問すれば、もっと判断材料が得られるかもだけど‥)
ミーシャ・ミールと交わした約束を忘れてはいない。美味しい料理を作れる彼女の身内含め、臣民としてスカウト──
再会するのに"三週間"と期限設けた。残りあと二十日 リ・ロベルを、地図上から削除する。
余裕で完遂可能。帝国に足を運ぶのはそれからでも遅くはない
スキルで少女の姿に変わり、湖と陸の境目まで歩み おもむろに屈んで
双笏水晶を一つ手に取る。子どものちいさい手でもすっぽり収まるサイズ。水晶をかるく握って粉々に割る
(──ふむ思った通り。)
データの
塵となって消失。それだけではない。破片が魔力を帯びて少女の身に。微々たる極少量だが充足する力の流れが身のうちに満たされていくのを感覚で直感する。
住民が使用した
双笏水晶の残り魔力量に差異があったのは──答えは『月』
月の光りには魔力が宿してる。
此処 地底湖を照らす、天上から空の明かりを魔法で陽光と月光が随時 降り注いでいる。
丁度真上にそびえる林檎の巨木からでは地下の構造物は窺えない。明るい場所から暗い地中は見えないマジックハーフミラー天上として魔法を施し、空の光りを照明としている。
水面がきらめき とくに美しい湖。家族の出入りも少ないナマエの一等お気に入り 安らぎ場である。
<
睡眠>込めた
双笏水晶が夜中 月の光りを浴び、電力の消費速度が遅くなる 太陽光電池と同じ効用となっていた──残り魔力量の違いは、コテージ家の構造上 寝室の方角窓から傾いていく月がのぞかなくなった。又はカーテンを閉めきっていたから。
(МPを少なからず回復できる か、いいね。付与魔法重ねてもっと回復量増やしたりもできたり?)
好奇心が尋常でないくらい旺盛であるナマエは。冒険を求めて止まない旅好きであり、しょっちゅう行方をくらます。散歩したい 衝動が湧いてあふれ
(容量がどこまでもつか間諜対策にいっちょ情報阻害系の魔法も付けてみよう‥‥!)
もしもの事態。ありはしないだろうが
双笏水晶製作者である自分を無関係者が正体探ろうとしてきたと、仮定して。第一に大事 <
鑑定魔法>に反応・即座に自動破壊 他にも魔力が探知されない虚偽、遠隔視もちょっと付け足しおまけで所有者を保護するまごころ込めてみたり。
「こんなものかっ」
幾重もの
<付与魔法>を込め 無色透明ただの水晶とまったく見た目変わらない。楽しくってつい掌から宙に放ってキャッチ。ズボンポケットにしまい、巨大な湖にひとっ跳び 水へ飛び込む。
水しぶきは上がらなかった──しなやかなで柔靭、均整の取れている筋肉が成せる 見事な着水技能。飛び込みの際殆どの水の抵抗を無くした
水底から気泡も浮き出ない──何度目になるか、家族の誰にも知られず拠点から行方くらます
数少ないナマエの習得している魔法で。<
転移水門>は掌サイズから最大許容量一万人乗せた超大型客船をもかるく潜らせて転移出来る。通常の<
転移門>を使えば同じよう自身含めて運びたい物体を遠くの地まで移動が可能。
第八位階魔法<
転移水門>の とりわけ面白い点は、世界中どこにでもある「水たまりの場所」へ好きに
航行移動する。
これがナマエの心を射止めた。現実世界では地球の表面 陸が三割、残り七割すべてが海を占めていた。しかし荒廃した現代、化学汚染物質によって海水が穢れ、人体に極めて有害。毒性が強い 生物なぞ生息不可能泳げない破壊された自然へと変わり果てた。
ずっと泳いでいたい。
物心ついたころから夢だった海を遊び場に──非常識 と、元の世界では肉親からも陰口後ろ指差されてきたこの悲願を!ユグドラシルが叶えてくれた──はじめて仮想ゲームながら海にもぐれたときの感動は、饒舌に尽くし難し
我らの海を取り戻せた。
次なるは海洋生物、同胞を招き入れる
なるべくひろい水のあるところ、魚がたくさんいて活力があるのがいい、景色がきれいだとなお良い
少女の仮姿から本来
<人魚>に戻り。水棲種族最速を誇る遊泳しながら希望する条件付けた魔法門を潜り抜け、水底から一気に地表へ飛び出す
地上陸地では酸素呼吸が困難な人魚から瞬時に少女へ変化。岸の草地に降り立ち 濡れた体は一瞬にして<水流操作>で水滴弾いて乾かす。拠点に張り巡らしてる防壁との精神的なつながりで自分が今居る場所、正確な距離間を測る。
(おおーっウチからこんなに離れたのって異世界来て初だな!えーっと?北東の?どこだ)
少しばかり霧が濃く見通しが悪い しかしながら吸う空気は澄んでいておいしい。雨が続いてたのか、草地の地面がぬかるんで泥に靴足がとられそう──人が多いところは苦手だ、都市なんて長く居られるもんじゃなかった──欲深い人間というのはどうしてあんなに、流行ってる香水?モンスター避け?上流階級の奴らは言わずもがな。悪臭ひどい
深くため息ひとつ。いかん疲れてる?
我欲に塗れ自分のことしか考えない決断力に欠ける中途半端な貴族しかいないのだろう王国は。王サマっていつの中世よ
バシャン、と水のはねる音がふいに足元から。うらみつらみ沸々はらわたが激する感情から我に返り<
転移水門>からワープしてきた湖畔を眺め
(?これは──生け簀か??)
眼下に広がる水面。魚が何匹も、泳ぐ影が映り囲いのなかを縦横無尽。時折り挨拶に顔を出しているのかと思う 勢い付けて魚が水から跳ねてくるり一回転、着水
もしかして一発であたり?
海の魚類は味があまりにも薄かった。家族皆はすっごく美味しそうに食べてた?ようだけど、塩分濃度の問題か、魚の餌となるプランクトンもアマノミカヅチがほとんど食べ尽くしていたか。それとも元からしてこの世界の海はしょっぱくないのか
今も食糧難でリ・ロベルに住まう人たちが貧困に喘いでいる。
力持つナマエが可及的速やかに為すべきことの一つ。うまい魚介類を、見つけ次第 育て繁殖 自分の領海に。臣民が充分に食べられる量を
生活環として確立する。
はじめから。アマノミカヅチと遭遇してから計画に入れた。巨体である
多頭水蛇は非常に燃費が悪い、十二の頭部持つ完全成体。巨大な体に見合った食べる量は半端ない、だから西の海を制していた。
生きる為。
みんな必死に生きている。
だれもなにも変わらないじゃないか
「動くな」
一陣の風が吹いて霧が晴れる。遠くから近付いてくる気配 とっくに気づいてた。振り向いて低音でよく響き通る、普通に耳に心地いい声の主と対面
魚人より逞しい筋肉で覆われた躰。身長は百九十センチ越え、人間のような手足で二足歩行、ワニの如く硬い鱗に長く立派な尻尾。
堂々たる偉丈夫<
蜥蜴人>の雄。
あらイケメン?
あ。動いちゃダメだったんだっけ
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