035


陽光昇らぬ日の出前の時刻、リ・ロベルにてナマエが一人。スキルを駆使して水門常時開放の建設していた最中

刻を同じく。男は光量を極力落としたランタンを腰にぶら下げ、さざ波うちつける仄暗い海底を覗き込む。光源を照明消して後続する同行者に向け手信号で合図

肩に担いでいた魚網を下ろし、男たちは二人とも音を出さず畳んで丸めている網を黙々と広げる。ただの一般住人と呼ぶにはいささか無理がある、灰色ローブの頭巾を頭からすっぽり被り素性がバレないよう。膝下まで覆うローブの隙間から覗く、腰元に剣に、身を守る皮の鎧。

波の音しか聞こえない、岸の崖岩に身を低くし隠れ男二人は息を殺し網の準備作業に没頭する密漁者だ。
犯罪組織に名を連ねここ十数年 特に目立った実績を上げれなかった、過去 密漁部門に属し生業としていた。転々と国内をたらい回しに、三下同然に顎で使われて鬱憤晴らしに強姦殺人強請強盗を繰り返す。暴力がすべて。力を振れば弱者は大人しくなって金を寄こす、抵抗するなら蹴落としてやって二度と粋がった真似が出来ないようにする。永遠に。
簡単なことだ、腕っぷしに覚えがあればのし上がれる単純なこの世界。運がまわってきた、古臭い年功序列で口だけ達者親分から海を見てこいと言い渡され。それだけでは他の奴等より有利になれない 所どころほつれ切目が目立つ魚網だが、使い勝手は身につけている。

海を締め括っていた脅威は去ったと聞いている。めでたい報せ。早い者勝ちと魚網を放る態勢整え。ひと際大きな波が打ち付け破裂音が鼓膜に響き渡る

腰を上げ身を起こすのと同時。相方の動きが停止したのを不審に見やる

「──────?」

声が出なかったのは 手際良く裏仕事をこなしてきた"くせ"もある。それもあった。が、状況がうまく飲み込めず

首が九十度以上 あらぬ方向曲がって後頭部が見える状態で相方の体はこちらに向いて

悲鳴は上がらない、上げれなかった──息を呑み吸う呼吸で叫喚 を、つめたい、濡れる水の輪で首根を吊るされる

縄と呼ぼうか。もがき外そうと縄を掴もうにも水で爪指をすり抜けてしまう。輪の範囲はじっくり時間を掛け狭まり、気道を塞がれ助けを請うにも同行者は物言わぬ。暗い道の角に放り捨てて散々見て来た、弱者と蔑み陥れ、奪ってきた──死体に変わり果て

中性的な子供のこっそりあざけりを耳元かすめる、顔の血の気失い酸素欠乏視界がぼやけ這いつくばって振り向く

宙に浮き 輪郭がはっきりしない透明な体、掴めば簡単に潰せる大きさ、ちっぽけな小妖精──女特有のふくよかな体型で水の体を形成

<水精霊>ウンディーネエイプリルが水の縄で密漁者を首締め上げたまま おもむろに波打ち際海面を指差す

男は絶望する 海の底から自分たちを睨み付けていた──二十四の鋭い眼光 死にたくない気力振り絞って膝に力入れ起き上がろうと、脚が網に絡み引っかかりたたらを踏む ぐらついて背から岩肌に体が倒れ傾くその瞬間多頭水蛇ヒュドラ十二頭の一つ、巨大な牙で男の頸鎖骨部分ごと噛み砕く

雑魚は任せた。エイプリルは掃討の任に就く際 主にそう勅命受けた。
下らん密漁してくる塵は大して情報も持ってない、取るに足らん役立たず。何日帰ってこなくても連中は気にも留めん。話題にも上がらない、我々の海を荒らすモノに相応の報いを

承りました主よ。私たちの最高指導者

多頭水蛇ヒュドラの一頭がえずいて吐き出す。臭かった。──生臭い血と違法な薬物のにおい染み込んでいる男たち。最期にみえた頭巾が風圧で払われ醜い粗暴な面貌、恐怖占める瞳の奥底でよどみ腐ってる。エイプリルは自分を正義と思っていないただ毎日の日課と同じ、ほうきでほこりを掃く感覚。きれいな主人に汚れたものは見せたくない。あの御方に薄汚い手で触れようものなら命であがな

姉妹のみんなも気持ちは変わらない、だって大好きなひとに喜んでもらいたい。

直轄の上司カーリィナ様が羨ましい──ナマエ様によって命を創らされた。もっともっと頑張れば御主人様は褒めて下さる私だけに任された指令

賜ったアイテムから略奪者の反応を感知する。今日の初日で何度目になるだろう害虫は早く駆除しよう<念話テレパス>で 名教えてもらったアマノミカヅチに餌の在り処を教え自身も空へ舞い、勅命に奉ずる。


豹と、熊の獣人ビーストマンは草原の地面に仰向けに倒れ 息も絶え絶え持久力スタミナが弛みきっていたのを身に染みた。アレクサンドルが上位に存在する魔獣であることも。赤子の手をひねるようねじ伏せられ、鉤爪、牙 通用しないし軽くあしらわれるあれ?矜持って何だっけ

準備運動にもならねェ。アレクサンドルは魔獣からスキル<人化>で成人男性に姿を変化、ナマエから戴いた真新しい長袍チャイナ服に換装し眼鏡をアイテムボックスから取り出して掛ける。

「なァ」
「ッひゃい!」

起きれる元気はあるんな?反応速度良かった獣人ビーストマンに相談してみよう、分からないことは(ずけずけ)周りの、喩え脆弱な人間だろうと教えを受けていたナマエの姿を思い出しながら

「お前ェらって"匹"でかぞえンの?"一体"の方がいいのか」
「エ?」
「や──ニンゲンとおなじ‥‥一人で 、い いいっす」
「ふーん。」

そーゆーもんなのか、顎髭をいじりながらアレクサンドルは学ぶことを『知恵』を自分のものにしよう考える。丁度二十四時間前さかのぼってナマエと手合せして負かされた、殴り合いでは勝てない。次に何が有効か、もう少し長く、あの高揚感を味わいたい

「英雄っつってナニを思いつく?」

(似てるなぁ‥‥?)豹と熊の獣人ビーストマンは互いに顔見合わせ同様の思いを抱く。人間の女にしか見えないナマエからどうやったら こんなおそろしい魔物が生まれた?深く追求したらいけない本能がブレーキ利かせ、性格の根っこが親子だなぁー成人して立派な体躯鍛えてらっしゃるのにふとして思いもよらない幼子みたいな質問飛び出てくる。
「あれはなに?」「これは?」自分たちを数える言い方なんて聞いて、強者なら何のこっちゃい。知った事ではない。と吐き捨てるところだろう、およそ関わり合いの無い些末。でも誠聞いてきた 純粋真っ直ぐな目で見詰められると上司であることを忘れてしまう

「ガゼフ」

人間でいったらこの人物、熊男の返答に胸膨らむ。そいつは男か強いのか


女の魔法詠唱者マジック・キャスター──名を何と言った。
まだ逢って昨日だぞ半日で?下手をしたらたった数刻の内 水門の魔法壁を建設したロベスは人智の及ばぬナニかと遭遇したのか、背中を冷たい氷のつららに突き射される震慄を覚え。異国の、あの女に今一度会合しように連絡手段を取り決めていなかった事を後悔する

「旦那様!外を、外に怪物がッ!!」

煩わしいアンジェリーナの金切り声、耳を塞ぎたい衝動駆られるも怪物と、鼓膜を打ち。震え上がり腰掛け椅子から行動を起こせない


庭師の青年が尻込み、人数少ない使用人たちが固唾を呑み。玄関先踊り場で全員身を寄せ合っている──古城の門にどこからか現れた<魚人マーマン>一匹。身長は腰より下の小型の怪物だが近寄らせない風格を以て門前にだれかを待っているのか、花を、一輪携えて

「すみませんっ通してください!」

使用人たちの壁を押しのけ怖れ知らず。門へとミーシャはコスモスを持っている魚人マーマンセイスの元まで駆け寄る

鼓動の高鳴りを抑え。ミーシャは問う

「エリクシール様は‥‥?」
言伝ことづてを預かっています。貴女がミーシャ殿」

何度も頷き、あのひとはいなく、迎えではないと察し。魚人マーマンの心を宿す 芯の強い眼差しにエリクシールを追思

「貴女を守るよう仰せつかり参りました この手紙を此処の雇い主に」

コスモスをアイテムボックスからしまうのと取り換えて書状を差し出し

「"まだ花は枯れていませんか"」

感動が恐怖を押し退ける、覚えててくれている!エリクシール様が。もうミーシャの前におそろしい怪物魚人はいない

「‥‥はい 大事にしています。お名前は?なんと呼べば」
「セイス。他にも仲間が、」
「わかりました──どうぞよろしくお願いしますセイスさん」

これにはセイスも目を丸くする。モンスターである自分たちをすんなり受け入れた少女、主があっけらかん風に仰ってた「大丈夫だ」現実に正に起きた。まるで初恋の異性想って頬を赤らめながら。この少女 ミーシャも主を思慕しているのだ──カーリィナ様とは又違う、あの方もあの方で執着の影があからさまにみえてる貴女たち同性でしょうに、

騎士である自分たち、残りの五人は拠点に残り 一人ずつ。半日交代でミーシャの護衛とならび古城の監視を任されあっさり私有地に入れた──なにをどうしたらモンスターが人間の生活圏に受容出来る

(はぁぁぁぁ〜‥‥)

振り回されてる感じ。獣人ビーストマンの皆もこんな感じなんだろうな 気が遠のく


デカいため息をつくセイスから。
書状がロベスの手に渡り、簡潔に一文

魚人マーマンを護衛に就かせます〜

命の保証を確実なものに。<透明化>を行使出来る魚人マーマン六騎士、いつ何時 組織から力で脅かされようと護ってくれる。諸手を上げロベスは歓喜する。不便・難点を感じようともせず

<透明化>出来る ということは。自分ロベス他使用人からも"セイスが見えない"くうの対象に話してかけても"沈黙"が返ってくるのみ、奴隷の扱いは受けない。彼らは騎士だ。ナマエの命令しか聞かない。ミーシャを介しての伝言が唯一の連絡手段

むしろロベスにとって都合が良かった、城の景観を損なう醜い怪物は要らない。見えずとも結構 勝手にせよ。手紙をぞんざいに丸めて捨てる

(愚劣)と騎士たちも判断する、ナマエはわかってた。塵が対応してくる反応様子思っていること。塵の考える略式パターンは面白いくらい似ている。経験から予測看破

ミーシャと二人きりの際には。<透明化>を解く、会話せよ。仲良く。唐突過ぎな指令にセイスたちはこれがどんな意味を成すのか分からない、しかし。楽しい──尊ぶ主、彼の女性の話しになるとミーシャが体を前のめりにして熱心に聞いてくれる、種族の境なぞ気にならない。

やがてロベスにしかるべき処置が下る。騎士はそれだけは どことなく、予見出来る


朝食どか盛り飯の量が増えていることに 腹が満腹ご馳走様してからドックは小首をかしげ

「なにか良いことありました?」
「や?いつも感謝してるからーってか、フツーに倍の量ご飯食べたねー夕飯も銘酒持ってこさせるよ。たらふく飲んで食べてー」

丘小人ヒルドワーフが野太い歓声を叫んで跳ねる。頑張ってくれてる分お給料も適切に払わないとー喜んでくれて嬉しいな
完食たいらげた食器後片付けを地下工房まで浮遊してきた<水精霊>ウンディーネジャニュアリーが持ってってくれるのを感謝伝え、上級水晶の研究に没頭できるというもの。メイドに全力の褒めを拍手も送る。

「ん〜水晶に名前をつけてみるのはー」
「なまえ。」

待て。スリーピーよ!ご飯食べたあとで眠くなるのはすっごくわかるんだが寝るな、お願い。船をこぎながら超眠たそう彼の提案を同意するも

道具の名付けって苦手なんだよなぁー!
ユグドラシルでは自分ひとりだけのオリジナルアイテムを無限に作り出せる。モンスターを斃した際に落とされる、データを内包したクリスタルをアイテムに複数個詰め込むことによって好きな品物に。低級アイテムの売買は通常データクリスタルの形式でやりとりが多かった──ナマエはより大幅にデータ容量を増やした利便性に富む魔法道具マジックアイテムを販売していた──そこで売る前 問題になるのは。放送禁止用語や特定人物等を侮辱するような名前は運営より修正要求が届くことがある、基本的には制作した者が好きに命名して良いことになってる

ナマエは商売人。当然ながら売る際に変な名前の道具だと、買うひとが忌避することは明々白々。名前を変更する為の課金アイテムも格安ではあるが!わざわざ実費負担してまで購入 使うプレイヤーは少ない。ましてや真心込めたオリジナル魔法道具マジックアイテムずらっと並び揃えた自慢の商品、多くの人たちに試してもらいたい。曲がりなりにも人情派商人あきんどナマエ。
道具に名前を付ける時は毎度 頭を抱え苛まれる。他のプレイヤーも大抵深く悩み 不要になった武器防具等 神話から持ってきたり、英語の名前を付けたりして売りに出す大して変わらない。

「確かに"上級水晶"じゃ味気ない?他にも似た便利水晶?どっかのクエストフィールドにあるかもだけどーさぁーあ?」
(やる気ねぇえなあ‥‥!!)

地下の湿ってる岩の地面に突っ伏して。雇い主であるナマエが腑抜けてる姿を見るのはこれが初めてじゃない、ドックは地上で陽の光りを浴び 庭の外を走り回ってるナマエこそ本来活発な女性で在り、ふさわしいと想う。ひとの感情をストレートに感じれる感受性豊かな御人と見受ける。やさしくも厳しいのだ。
愛がなんと示すだからこそ、この御人についてった。

「───<双笏水晶>セプタークォーツ
「ほっほ」

センスも文句なし。面倒としながら決めることは早い。見ていて飽きない。
面白いひと

「良いんじゃない!?形もきれい角みたく両端とがってるし、魔法込めるロッドみたいだしどうさねー?」
「せぷたー?王笏って意味だろォ」
「こおり砂糖。」
「とんがり。」
「水晶玉。」
「玉ってまるくはな──っくしょん!」
「格好良くって宜しいのでは」
「んんっスースー‥‥‥」

あえてツッコまないでおこう!あとスリーピーが限界達して寝た。君たちの技術力もッンのすっっっごいんお持ちなのよ王国なんて目じゃないド偉いんだよ!!どうしてネーミングセンスが皆してソレなの!不思議でならない

「魔法を付与して、一晩使ったあとの残り魔力に違いがあった??」
「んんん〜そうなんだ」

モヴウ村長が皆に配ってくれてた<睡眠スリープ>込めた上級水晶 改め<双笏水晶>セプタークォーツを十個ほど借りてきて、薄紫色の濃さが明らかに 目に見えて判る差異があった。皆使ったってのは分かるんだけど。残ってる魔力量が違うのはなんだ??
丘小人ヒルドワーフの皆もさっぱりだ唸る

「ん〜〜〜っんん!!もしやー!?」

勢いよく開眼してナマエは一拍手、地上の住民が生活しているそれぞれのコテージ。寝床のベットへ印付けた枕元に双笏水晶セプタークォーツを転移してすべて返却する

「ありがとう皆ー!ちゃんとわかったら説明するからー!夕飯も楽しみにしててー!お邪魔しましたあ!」
(あーあーあー。)

これも初めてじゃない。待てと言ったところで、成功した試しがない。面白いものに我先と走り出して往ってしまわれる。我々より数手先を見通す、あとで期待して待ってると本当に抱腹絶倒 大口あけて腹がよじれるほど笑えるのだ。これだからやめられないナマエに全幅の信頼を寄せる。今度はどんなびっくり箱を用意してくれるのか



(霧が濃いな──)連日の雨を回想して、ザリュース・シャシャは濃霧のなか 行き慣れた森の木々獣道の間をすり抜け目的の沼地へ足を運ぶ、

一陣の風が吹き 深い靄が晴れて見通しがよくなる──自身が建てた養殖場の生け簀を湖畔岸から眺めている 影


子? しかも 人間の女子


テンションあがってきた




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