012


攻め手は息子ただ一人。何も変わらない

陽が没する日暮れともに
見張り番の命を刈り取り
収容所の獣人を解き放ち
栽培場に火を放ち
若い娘たちが屋敷砦に連れ去られているのを保護するべく村の家長たちに、偽装用の兵士の装いを装備させ<完全不可視化>パーフェクト・アンノウアブルで姿を透明化した息子が砦内へ侵入を果たす。

"黒粉"──リ・エスティーゼ王国で最も蔓延している違法薬物。その原材料となる植物を獣人ビーストマン捕虜たちを利用して栽培の一介を担わせていた。

火を放ち、吸い込む煙ですら強力な毒性を有する栽培場全体に魔法で防護壁を作り。被害の拡大を防ぐナマエは、側付きの魚人マーマンクアトロとともに燃え広がる炎を眺める。

「ナマエ様 こちらを」
「ありがとう。ご苦労さま」

見張り番の後始末から戻って来たトレスから、差し出されるメモ紙を受け取り

(ん〜やはり読めない‥)

異世界の文字が記されているメモに、当然ながらどういう記述の意味なのかさっぱり解らない。だがこの村にある全部の書類だの地図だの、ちょっとした走り書きも洗いざらい持ってこいと命じてある。移住を望んだ村人にあとで翻訳の要請しよう。

「ここは私とクアトロでもう充分だから、先に屋敷へ合流してくれ」
「はっ」

裏工作に私と魚人マーマン四匹。力を振るうべくもなく村の陥落に滞りなし。
奴らは奴隷労働力として獣人ビーストマンたちを捕らえて利用して。抗う術を奪い、枷で繋いでおけば危険はないとでも思ってたのか

<獣人>ビーストマンとは本来──獅子ライオンや虎などの獣が二足歩行をしているような亜人種で、その頭部から一目瞭然であるように肉食であり。人を普通で食べる。肉体的性能は人間よりもはるかに優れており、基本となるスペックからして同じように成人した人間と獣人ビーストマンとの差は10倍になる。
毒薬漬けにして力を衰えさせ、思考力を奪ったとしても野性までは奪えやせん。
あちらが利用している手段をこちらが使ってもなにも不思議ではないだろう。使えるものは何だって、何者であれ活用してやるさ。これが私のPKプレイヤーキルされPKプレイヤーキルして培ってきた、命の遣り取りだ




太陽没し月昇る
銀に光る鉤爪と牙を、檻から解き放たれ原始本能を解放する獣人ビーストマンたちを警備兵士に相手させ。悠々とアレクサンドルは屋敷内へと足を踏み入れる

「待ってくれ!俺達も付いていく!」
「娘がッ、子どもがいる筈なんだ!!」

兵士の装いを取り外した村の家長、父親や恋人の男たちが追随していく。

「あー‥‥見ても辛いだけだと思うぞ」
「構わない!彼女を連れ戻すためにここまで来たんだ!!」

玄関の廊下奥から突撃してくる兵士たちを、紙くず同然に薙ぎ払い。朱と臓腑を撒き散らす光景を前に、膝震わすも屋敷奥へ進んでいく。

歩進め ある格子付きの扉をぶち破り

「なッ何だ!!」

愛しい者を凌辱するけだものたち

同じ人とは思えぬ凄惨さ
怒髪天を衝き恐怖を塗り替える

「ほぅら言わんこっちゃねェ。だから嫌だったんだ俺の楽しみが減っちまうって」

村人とて阿呆ではない。装備した防具の鎧は外しても武器の剣は手に持ってる

「お前ら何を!何をする気だッ!?」
「やめろ!!こッこんなことして許されるとでも思っているのか!?」

刃をけだものたちに矛先向け
アレクサンドルは断末魔上げる監禁部屋をあとにして、階上へ向かう

「こりゃマジで大将に手合せ願うっきゃねェなー」




いつの間にか。久しい安らぎの時を母の胸のぬくもりと、腹も満たされやさしく包み込む寝床へと夢すら見ぬ深い眠りに誘われた。
フェリシアは耳を落ち着きなく動かしながら目覚める、窓から夜帳と月明かり。そして遠方から張りつめる空気を察知して、起き抜けから一気に覚醒至る。

(なに──)


運命は足音を立て傍らまで




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