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「ふたりのおもいで」

企画参加させて頂きありがとうございます!
お話は「ふたり」より、タイトルは「ふたりのおもいで」です。



「あぁーー!!!」

一夜の通う大学の近くの道端に一夜の叫び声が響く。

「えっ?ど、どうした一夜!」

「どうしたじゃないよ!和ちん!なんで、どーして、
坂本と一緒にいんの!?」

一夜の目の前には和也がいた。
しかし、坂本千尋という人物
が隣で歩いている状況で。

「どうしてって…」

「僕と和也くん、友達になったんだよー。友達が一緒に歩いてるのは普通でしょ?」

坂本は満面の笑みで答える。

「はぁ!?俺すっごい一生懸命和ちんをガードしてたのに、いつのまに…っ。てゆうかなんで名前呼びしてんの!?」

「もー、一夜くんのガード鉄壁なんだもーん。苦労したよ?
若干ストーカーみたいになって、一夜くんのいない隙に和也くんに話しかけるの。
あ、名前呼びはねぇ、和也くんに許可取ったらいいよって言ってくれてね、もちろんあの時のことはちゃんと謝罪した上で和解しましたー」

とても楽しそうに説明する坂本とは対照的に一夜の眉間には皺が寄っていく。

「まぁ色々あったけど、謝ってくれたし、友達になりたいって言われて嬉しくならないわけないだろ?だから歩み寄っていこうかと」

和也も笑顔で答える。

「いっいつから?いつからそんな仲になってた訳?」

この場でひとり、苦い顔をした一夜が問う。

「いや、ほんとについ最近」

「今日は一夜くんの大学での講義が終わったらデートする予定だったんでしょ?だからついでに僕と和也くんの事を報告しようかと思って、ふたりの時間お邪魔してごめんねぇ」

全く悪びれていない様子で坂本が言う。その言葉は一夜にとってはとても悪い知らせだった。

「なんで俺と和ちんの愛の時間を邪魔すんのー!」

「でも和也くんと友達になったの黙ってたら、バレた時絶対怒るでしょ、なんで黙ってたの!って」

確かに。正論を突きつけられて
一夜は文句を繰り出すことができなかった。


***


「で、和ちんと坂本が友達になったのはともかく、なんで俺と和ちんのラブラブデート割り込んでんの!?」

大学近くの喫茶店にまたもや一夜の声が響く。

「いーじゃんちょっとくらい。
一夜くんと和也くんは一緒に住んでるからいつでも会えるけど、僕は違うんだよ?僕だって和也くんとお話したいしー」

そう言ってミルクティーを啜る坂本。

「まあ俺と一夜がいつでも一緒にいるのは本当だし、たまには
3人でいてもいいんじゃないかな、一夜?」

「うう、和ちんにそんなこと言われたら納得するしかないじゃんかー…」

さらりと「一緒にいることを当然と思っている」というニュアンスの含まれる発言をされて、嬉しく思いながらも項垂れる。

「ホントにふたりってずっと一緒だよねー…
ねぇ、昔のふたりってどんな感じだったの?」

「え、唐突だね」

「だってぇ、なんか気になったんだもん。思い出話聞かせてよ」

うーん、と回想する和也。

「と、言われても…昔からこんな感じだったよ?」

「和ちんは昔からもうすっごく可愛かった!!」

「はいはい、一夜は昔からすっごく格好良かったよ」

さらり。

「……和也くんってやっぱり天然タラシ…」

「え?」

一夜は赤面してコーヒーを一口。それから慌てて話し出す。

「あっでも和ちん凄かったんだよ、なんか一部からは「裏番長」って呼ばれてたよね!」

「………は?」

「えぇっおとなしい優等生っぽい和也くんにそんな呼び名が!?」

「…ちょっと待て、俺そんな話知らないよ?」

身に覚えのない話に戸惑う。

「え、あの時だよー、小6の時。ちょっと喧嘩が強くて粋がってるガキ大将みたいなヤツがいてさ」

「あー…、その事は覚えてるけど…。「裏番長」なんて呼ばれた記憶はないぞ」

「えー、聞きたいなその話」

坂本は瞳を輝かせて話の続きを期待する。

「えーっと…、俺と一夜が小6だった時の事なんだけどな…


さっき一夜がちょっと話してたけど、俺らの同学年に喧嘩が強くて何人か舎弟みたいなの連れてる
吉田っていう、それこそ「番長」みたいなヤツがいたんだけど。
そいつには好きな女の子がいてさ、学校ではリーダー格で、そこそこ顔も良かったから自信があったんだろうな、教室内で堂々と告白したんだ。
でも、振られちゃったんだ」

「へぇ、振られた所を大勢に見られて、リーダー的には痛いよねぇ」

「ところがそこからもっと可哀想なことに、吉田は振られたことが信じられず、理由を聞くと

「私、一夜くんが好きなの。
だからごめんなさい!」

と好きな子に言われてしまった」
「ひゃー、当時から一夜くんモテモテだったんだね」

「俺は和ちん以外見てなかったけどね!」

「それで、その吉田くんとやらはどうなったの?」

「それからは――――……」


***


「お前が萩原一夜の幼馴染みか?」

と声を掛けられ、戸惑いながらも頷くと、体育館裏に強引に連れていかれてしまった。
正直怖い、すっげー怖い。
今まで平凡に学校生活を送ってきた俺は、こんな呼び出しを受けたことはないし、この派手な吉田グループとは挨拶もする事はないのだ。

「あの…、どういう用件?俺、呼び出される理由が分かんないんだけど…」

いくら不良まがいのグループだからって同学年なんだから敬語は使わなくても良いだろう。多分。

「あ?お前も見ただろ?俺が恥をかかされたところ」

とんでもなく不機嫌な声が返ってくる。恥をかかされたところ、とはあの公開告白の事を言っているんだろう。俺は小さく頷いた。

「俺は傷付いたんだ。フラれたあげく他の男が好きと言われ、俺のプライドも心もズタズタだ

だから、
あいつには落とし前つけて
もらわないとなぁ?」

―――驚きと呆れ、それから怒りと心配、焦り、色んな感情が駆け巡った。
こいつのやろうとしている事はただの逆恨みだ。けれど、それで一夜が傷付くかもしれない。
一夜が、危ない。
そして一夜を危険にさらすのは、

「俺は、一夜を呼び出して、事を有利に運ぶための人質か」

俺だ。俺が人質であるせいで一夜が……っ

吉田はにぃっと口の端を上げると

「よく分かってんな、最初は普通に萩原を呼び出したんだが、シカトされてな。腹が立ったんで手段は選ばない事にした」

最悪だ。一夜は、俺を見捨てるようなヤツじゃない。
きっと、俺を盾にとられていれば殴られてしまうかもしれない。

どうしよう、取り敢えずここから逃げなければ。
もし、逆の立場なら、俺はすぐに一夜の元に向かうだろう。自惚れじゃないけど、一夜もきっと俺が捕まっていると分かれば、すぐにここに来てしまう。

その前に逃げ出して一夜と落ち合わないと、俺のせいで一夜が吉田の逆恨みに巻き込まれてしまう。

なんとも理不尽な理由だが、喧嘩の腕は確かなんだろう。俺の周りには5人の生徒がいる。しかも皆少し怯えているようだ。吉田の動向を窺っているような、そんな感じ。
ということは腕っぷしで皆を束ねているという事。


力ずくで逃げ出したり、隙を狙って走り出したりというのは無理そうだ。
ならば――――


「なぁ、考え直してくれないか?」
直接交渉だ!

吉田は「はぁ?何言ってんだお前」とでも言いたげな顔をしているけど、気にせずに続ける。

「吉田の気持ちはなんとなく想像できるよ。けど、一夜は関係ないだろ?もしかしたら告白を断るために適当な名前出しただけかもしれないし。それだけで呼び出すっていうのは理由としてはちょっと弱いと思うんだけど」

でもこれは危険な賭けだ。
相手を逆上させないようにあくまで冷静に、うまく柔らかい言い方で説得しなければならない。成功すれば一夜への呼び出しはなかったことにできる。失敗すれば俺が殴られてしまうかもしれないが、それは俺の生意気な発言に吉田が怒ったからという事にできる。

吉田の好きな人が一夜を好きだったから、という理由で一夜が被害を被るよりはよっぽど正当性がある。

「関係ねぇよ。前々から萩原は気に入らなかったしな、いい機会だったんだ」

「だけど、そんな理由で人質まで使ったって事が公になれば、吉田の立場が悪くなるんじゃないのか?」

「俺の立場?んなもんとっくにねぇだろ、公衆の面前で振られたんだ。今更だろ」

中々吉田が折れない。どうしよう俺がここに来てから5分以上は経っている。吉田が俺を連れてきたすぐ後に一夜を呼び出したとしたら、もうすぐ一夜が来てしまう。

「……一夜のせいにするな」

焦りと、吉田と話している内に沸々とわき上がってきた怒りで俺はそんな事を口走ってしまった。

ピクッと吉田の眉が動くのが見えた気がする。

「……何か言ったか?ああ?」

駄目だ、これ以上言ったら吉田の機嫌を損ねてしまう。
しかし、俺は口が開くのを止められなかった。

「お前は、一夜が好きだからって理由で振られたって思ってるだろ?」

「だったら何だってんだ」

「お前が振られたのは、あの子が一夜を好きだからでも、一夜がイケメンで魅力的だからでも何でもない、

ただ単に、
お前がその程度の人間で、お前に女の子を振り向かせるだけの魅力が無いからだろ!!」

あ、

「………んだと…!?」

やって、しまった。


目の前には瞳の中に怒りの色を映した吉田。

あ、やばい。
拳が、振り上げられる。
―――殴られる!!


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