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9

「陽太君って、凄いなぁ…」
「何が?」
「前は林檎の皮を剥いたら、皮の方が身が多かったのに、今は…」
そう言って、皿の上の林檎を一つ取る。
「うさぎちゃん、作れちゃうんだもん」
「愛の力っすかね?」
そう言って、むくれる十夜さんの頬にキスする。すると、十夜さんは顔をリンゴみたいに赤くしながら、
「…前々から思っていたんだけど、陽太君は気障だよね…本当に不良なの?」
と尋ねてくる。それに笑いながら、
「チームでは下っ端の不良ですけど、十夜さんの前では、十夜さんのかっこいい恋人です」
と言えば、更に顔を赤くさせる。それを見て、俺がクスクス笑っていると、十夜さんはまたむくれる。
「…僕の方が一回り年上なのに」
「でも、俺の前では可愛い可愛い恋人でしょう?」
「…もう!僕のお日様は意地悪だ!!」
そう言って、ぷいっとそっぽを向いてしまった。どうやら、やり過ぎたらしい。可愛くて愛しくて、愛していると想いを込めて頬にキスすると、こちらを向く。
「…唇にキスしてくれなきゃ、駄目」
「林檎を全部食べたら、とけちゃうくらいしてあげます」
「やっぱり、意地悪だ!!」
そう言うと、手元の皿にのっている林檎を少しずつ食べ始めた。
「体調はどうですか?」
「うん、順調に回復しているって。相変わらず夜しか駄目だけど」
そう言って、ため息をつく。
「でも、まだお店に立つには早い、かな?」
「やっぱり駄目ですか?」
「陽太君以外は、まだ駄目。自分でも、よく感情が無かったのに笑顔浮かべられたなって思うよ」
俯きながら十夜さんは呟いた。
目覚めた後、恐ろしい過去に悲鳴をあげた十夜さんは、俺を思い出した途端、その時の記憶を消した。だが、やはりあの時の薬の副作用は大きく、俺に関する感情と記憶しか残らなかった。幸い、お菓子の作り方は記憶に残っていたが、残念ながら、それ以外はさっぱりだ。俺の前ではこんなにも表情豊かだが、俺がいないと途端に無表情になる、と砂條さんが教えてくれた。
「でも、これからは一緒だもんね。お店に復帰できるのが楽しみだな」
そう言って笑う十夜さんは心底嬉しそうだ。実は、もう一人じゃ駄目だ、と判断された十夜さんはキッチン専用スタッフになり、俺が接客する事が決まった。
「十夜が一緒に太陽を見たいと言った奴だからな、陽太君は」
だから、依頼を受けた。後で戒斗さんから、そう聞いた。十夜さんは、死ぬなら太陽の下で死にたい、と公言していたらしい。そんな戒斗さんに、俺は疑問に思っていた事を尋ねる。
「なんで、恐怖に陥っていた十夜さんに力付くでも俺を見せたんですか?」
「十夜が『誰か助けて』って言ったからだよ。『誰か』って事は、『誰か』を求めていると思ったんだ。で、そこまで求めるなら、太陽を一緒に見たいとまで思わせた陽太君だろう、と」
「携帯の光は?」
「十夜の部屋は暗いからな。はっきり判別できるように明かりをと思ったら、携帯しか無かった。あの部屋は十夜の部屋だけあって、あれしか照明はつかないから」
ま、結果的にハッピーエンドで良かった、と戒斗さんは笑った。
「…でも、いいのかな?」
林檎を食べながら、ぽつり、と十夜さんが呟く。それに意識を戻す。
「何が?」
「僕は夜の月なのに、太陽の陽太君を独り占めして…」
「あぁ、それは問題ないっす」
「え?」
暗い顔で呟く十夜さんに即答すると、十夜さんは驚いて目を見開く。そんな十夜さんに俺は苦笑しながら、答えた。
「俺、『星野』陽太っていうんです」
「…え?せいの?」
あ、頭こんがらがっているな。だから、俺、名前しか言わないんだよね。
「俺は、名字が夜に空に浮かぶ『星』で、名前が『太陽』なんです」
大体、俺のフルネームを聞いた奴は、こういう風に混乱するか、馬鹿にする。で、馬鹿にしていた奴を殴っていたら、俺は不良になった、と。お陰で俺は、名字が軽くコンプレックスだ。
「本当はね、『太陽』の名前通り、髪は赤一色に染めようかと思ったんです。でも、それじゃ名字の『星』が可哀想だなって思って…」
「だから、陽太君は一部分を金髪にしたんだね」
そう言うと、十夜さんは俺の前髪にいれたメッシュに触れる。
「でも、それで正解だったね」
「というと?」
「多分、赤一色だったら、僕はこんなに君に惹かれなかった」
そう言って、十夜さんは軽く髪に口付ける。
「きっと、陽太君でも赤一色じゃ駄目だったかも。同じ『夜』の『星』もあったから、『太陽』の君に惹かれたんだろうな…」
「十夜さん…」
「僕は『星』の陽太君だったから、惹かれたんだよ」
だから、好き。満面の笑みでそう言われては、もうお手上げだ。
十夜さんも十分凄いよ。俺のコンプレックスまで愛しちゃうんだから。
俺は最後の一つを口にくわえると、十夜さんに差し出した。意図を察した十夜さんは、しゃりしゃり林檎を食べていく。食べれるだけ食べた十夜さんに、ご褒美と言わんばかりに口付ける。その際、林檎を口移しするのを忘れない。
十夜さんの口の中でしゃりしゃり刻まれていく林檎。飲み込む音が聞こえると、十夜さんがにっこり笑う。
「全部食べたから、ご褒美ちょうだい?僕の『太陽』」
「いくらでも。俺の『月』」
俺も笑いながら、深い深い愛を口移しで伝えた。





24時間営業している、お菓子屋『ふるふる』。夜に行くと、黒い髪の『月』と、赤い髪に金のメッシュが入った『太陽』が、貴方をお待ちしております。


end

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