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7

「陽太君だな?!十夜はどこにいるんだ!!」
ワンコールで出た砂條さんは、前に十夜さんが倒れた時みたいに怒鳴ってきて、耳が痛い。だけど、そんな事言ってらんない。
「…チームのアジトへ行った後、山頂で日の出を見に行きました。そしたら、倒れて…」
「日の出を見ただと?!十夜に日の光を浴びせたのか!?」
「…はい」
「体は!?体はどうなっている?!」
「体…?」
砂條さんの言葉に、俺は以前十夜さんが倒れた時、砂條さんがしたように、十夜さんのコック服を脱がせた。
「なんで…?日に当たってないだろ…?!」
上半身裸にさせて、俺は目を見開く。病的に白い肌が、徐々に毒々しい赤に侵食され始めたからだ。
「どうなんだ、陽太君!」
「…呼吸が段々荒くなって…肌が気持ち悪いくらい赤くなってきています…」
俺の言葉に砂條さんは舌打ちする。
「くそっ…!症状が出てきたか……!!」
「砂條さん…何ですか、これ?」
「それより!なんで、十夜を外に出した?!」
訳が分からなくて尋ねるも、砂條さんは答えてくれない。戒斗さんを見ると、戒斗さんは運転しながら言った。
「十夜がそれを望んだから、と伝えろ。陽太君」
「戒斗さん…」
「は!?戒斗さん?!戒斗さんって、史狼戒斗さん?!」
話しかけてきた戒斗さんに反応すると、砂條さんが狼狽えるのが分かる。
「なんで、オーナーがいるんだ?!」
「え?!お、オーナー?!」
砂條さんの言葉に驚きながら、戒斗さんを見ると、戒斗さんはにやっと笑って俺を見た。
「そ。俺、史狼戒斗は『ふるふる』のオーナーでっす。いや〜、陽太君、あんまりにもあま〜くて凄かったな〜」
「……」
「陽太君…何おこっても、俺、知らないから…」
状況を忘れ、絶句する俺に、砂條さんは薄情な言葉をかける。
「あ、でも、バラしたのは十夜だから、陽太君には非はないよ」
「え?」
「そもそも、十夜は死ぬのを覚悟して、無事に今日を過ごせるように、俺に『運び屋』を依頼してきたんだ。その辺の理由は、律に聞いてくれ」
そう言って前を向くと、再び運転に集中する。
「…多分、俺に言ったら、止められると思ったんだと思う」
「え?」
「…俺も十夜も、普通の体じゃないから」
驚きながらも、砂條さんの言葉を待つ。
「…俺と十夜は、昔、人体実験されていたんだよ」
「んなっ…!?何だよ、それ…!」
「信じられないだろうけど、事実だよ。実際、今、十夜に症状が出ているだろ?」
砂條さんの言葉に、ショックが隠せない。そんな…非日常的な話、漫画とかでしか知らない。でも…
ちらりと十夜さんを見る。症状が進んだのか、呼吸は更に荒くなり、体の侵食もどんどん進んでいく。
「どんな薬の実験台にされていたかは、俺自身も覚えていない。きっと悲惨すぎて、覚えていたら気が狂ってしまうから、脳が自己防衛の為に、思い出せないようにしたんだろ。助けられた後、その組織は跡形もなく消されたし、助けた人達も何も言わないし。だから、分からない」
「でも、砂條さん、何の問題もなく生きているじゃないですか。十夜さんだって、太陽を見るまで、大丈夫だった…」
そう言うと、砂條さんが困ったように笑うのが聞こえた。
「薬が違ったせいか、症状はそれぞれの人間で違ったんだ。例えば、俺は普通に見えて、普通に生活するにもカロリー消費が膨大で破壊的な味覚音痴。十夜は太陽の光が全く駄目だ。照明すら症状を出す。『ふるふる』は窓が少ないだろう?あれは十夜が月の光で症状を引き起こさないためなんだ。照明も十夜が大丈夫なものだけ使っている」
だからか!窓はなんか少ないし、照明もなんか優しい光だと思った!!
「だが、それも症状を押さえる薬を飲んでやっと出来る程度。薬が出来るまでは、十夜は光なんて一切ない、真っ暗な部屋で生活していた」
「え?!薬あるんですか!?」
「あるよ。俺が作った。出来たのは、十年前かな?だけど…」
砂條さんの言葉に、一筋の光が見える。だが、次の瞬間、奈落の底に突き落とされた。


「十夜の薬の副作用は、感情が無くなることだ」


「…え?」
感情がないって…それって…
「感情がないって…なんですか?」
「言った通りだ。前の十夜には、喜怒哀楽が無かった。だから、あいつには幸せも恐怖も何も無かった」
「でも…最初から、十夜さん、笑っていましたよ?」
「陽太君、笑顔なんて作れるんだよ。感情なんて無くても、笑顔は浮かべられるんだよ」
砂條さんの言葉に、体が震えるのが分かる。口のなかはカラカラだ。
「じゃ、恋愛感情が分からないってのは…」
「分からなくて当たり前だ。十夜には喜怒哀楽が無いんだから。だから俺は、君に何も言わなかった。君の想いに触発され、少しでも感情を知ればいいと思ったから」
なんてこった…だから、十夜さんは怖いもの知らずだったんだ。だって、『怖い』という感情が無かったんだから。
それなら…それなら……
「…十夜さん、俺の事、好きって言ってくれました。俺の想いが嬉しいって、俺に幸せだって…」
「…だろうな」
「え?」
てっきり否定されるかと思えば、砂條さんは頷く。そして、
「薬が残っているのを見つけた。きっと、君と出会ってから、まともに飲んでいない」
「じゃあ…!」
「…君と出会って、感情が少しでも芽生えたんだろう。そこにきっと希望を見出だしたんだろうな、十夜は。それから、きっと薬を飲むのを止めたんだろう…だから、君に告白された時、ぶっ倒れたんだよ」
そう言って、砂條さんはため息をつく。
「…皮肉なもんだな。君が十夜を想えば想う程、十夜は自らの命を削っていった。俺は十夜がぶっ倒れた時、もしやとは思ったんだが…」
それを聞いて、頭に血が上る。
「だったら、なんで話してくれなかったんですか!そうしたら、俺は十夜さんに会いに行くのを止めていた!!…生きていれば、何とでもなると思って!」
「君は感情のない人間を生きた人間と呼ぶか?!死なないだけの人間を!君みたいな『普通』の人間に、感情が無かった十夜の気持ちが分かるか!?」
耳元で叫ばれて、思わず息を飲む。熱いものが頬を伝う。
分かるかよ…分かるはず、ねぇよ…!だって俺は、『普通』に感情のある人間だから!!でも…!
「生きていれば、なんとでも…!」
「俺もそう思っていた…俺にも人並みに感情があるから。でもな、暗闇で心を閉ざしながらも微かな光を欲しがっていた十夜に、初めて薬を飲ませて灯りを見せた時、あいつ、なんて言ったと思う?」
「分かんないっすよ!」
「『灯りって、大した事ないんだね。今までと変わらない』…そう言ったんだ。無表情で」
ショックで頭が真っ白になる。
「…だから、俺は君に賭けた。十夜に『人』として、『生きて』欲しかったから。例え、結果的にこういう風になったとしても…」
悲しそうに呟く砂條さんに、俺は何も言えなくなる。そうか…砂條さんは、これも予測していたのか…ただ、それが今日になったというだけで。
「…君にとって幸か不幸か、十夜は『生きて』君を想う事にした…今日、店が閉まっているのを見て、十夜の本気を知ったよ…十夜にとって、君はまさに命を与えてくれた『太陽』だったんだろうな…」
だから…あんなに俺の事、『お日様』だって言ったんだ。感情がない為、生きているか分からない自分に、感情を与えてくれたから…そして。
『生きて』、誰かを愛する事を知ったから。
「十夜、さん…」
荒い呼吸をしながら、必死に『生き』ようとしてくれた十夜さんに触れる。
「とぉやさぁん…」
すがり付き、泣く事しかできない。
「ありが、とう…あり、がとう…俺を、そんなに、想って、くれて…ありが、とう…」
ありがとう…こんな俺を、命を賭けて想ってくれて…ありがとう…
「好き、だよ、十夜、さぁん…大好き、だよ…愛して、いるよ…」
沢山沢山、愛を伝える。俺も、同じ立場だったら、きっとそうしていた。
だって…こんなにも、誰かを愛しいと思ったのは、初めてだから。
「…みっともなく泣いている場合か、陽太!」
泣きながら、十夜さんを抱きしめていると俺を叱咤する声が響く。それにびくっとし、声のした方を見ると、戒斗さんだった。
「泣いている場合じゃねぇぞ、陽太!てめぇも腹くくれ!!」
「え…っ?」
「十夜は死ぬ覚悟で俺に依頼してきた!てめぇも十夜が好きなら、その想いに答えろ!!命をかけろ、とは言わないが、十夜の想いを無下にするな!」
「でも…俺に出来る事は…」十夜さんの手を取りながら、オロオロする俺に、戒斗さんは盛大に舌打ちする。
「好きなら、十夜の事だけ考えて、しっかりしろ!お前の選択次第で、十夜は生きれるんだからな!!」
「えっ!?本当ですか?!」
戒斗さんの言葉に俺は目を見開く。そんな俺に更に戒斗さんは怒鳴る。
「何の為に店に向かっていると思うんだ!十夜を生かす為だ!!だから、しっかりしろ!でないと、十夜は死ぬ!!」
十夜さんが生きれる…?!それが本当なら、俺は…!
「店は!?まだですか?!」
「もう着く!てか…」
叫んだ途端、いきなり重力がかかり、前のめりになる。戒斗さんを見ると、真剣な表情で、
「着いた」
と言った。
戒斗さんが降りるのを見て、俺も車から降りる。明るい太陽の下で『ふるふる』を見るのは初めてで、なんだか違和感を感じる。
「十夜を横抱きで連れてきてくれ。横抱きが一番負担にならないんだ」
戒斗さんの指示に従い、十夜さんを車から降ろす。扉を閉めた戒斗さんは睨むように俺を見ると、
「腹くくれよ、陽太…お前の選択によっては、十夜が死ぬんだから」
そう言って、『ふるふる』に向かった。俺も緊張しながらも戒斗さんの後に続き、『ふるふる』に入る。
「待っていたよ、陽太君」
ホール、キッチンを抜けると通路になっていて、そこに砂條さんが難しい顔をして待っていた。そんな砂條さんに、戒斗さんが声をかける。
「とりあえず、症状を見る。お前も腹をくくれ、律」
「…はい」
そう言って先を歩く戒斗さんに、砂條さんは顔を俯かせた。
朝なのに真っ暗な部屋。電気をつけてもほの暗い。多分、ここが十夜さんの部屋。戒斗さんに促され、ベッドに抱えていた十夜さんを仰向けで寝かせる。
「…駄目だ。脈も弱いし、体温も低い。何より、元の薬と太陽光による症状の侵食が酷すぎる」
「じゃあ、普段の薬は…」
「ここまできたら、いくら飲ませても、何の慰めにもならねぇよ。下手したら、変な反応を起こして、悪化させてしまう」
そう言って、戒斗さんは砂條さんを見詰める。
「律」
「…はい」
「今、持っているんだろ?多分、ここから一気に回復できる位の薬」
「……」
「あるんですか、砂條さん?!」
戒斗さんさんの言葉に目を見開きながら尋ねると、何故か砂條さんは黙って俯いてしまう。
「十夜がぶっ倒れた時点で勘づいたお前が、何も手を打っていなかった訳ないと俺は思うんだかな?」
「どうなんですか、砂條さん?!」
戒斗さんの言葉に俺が更に問いただすと、砂條さんは黙って透明な袋を取り出す。そこには何粒か入った錠剤か。
「…ごめん。実験したけど、保証はできない。しかも、二組しかない。店が閉まっているのを見て、慌てて持ってきたけど…」
「じゃあ、早く…!」
「ま…て……」
砂條さんに更に詰めかけようとした時、か細い声が。驚いて振り向くと、十夜さんがうっすら目を開けていた。そんな十夜さんを見て、慌てて駆け寄る。
「十夜さん。砂條さんが、薬を持ってきたから。もう少し頑張って!」
「ぃ、ら…な……」
「え?」
「ふ…くさ……」
俺が励ますように言うと、十夜さんは何故か拒否する。そんな十夜さんを見て、砂條さんは悲しそうに目を伏せる。それに、俺は怪訝な顔をしながら砂條さんを見る。
「…副作用として、感情が無くなるのは、確かだろうな」
「なっ…?!」
「多分…記憶も……」
「なら…ぃ、らな……ぃ…」
砂條さんの言葉を聞いて、十夜さんは微かな声で、だけどはっきりと拒絶を示した。そんな十夜さんに俺は戸惑いを隠せない。
「なんで…?なんでなの、十夜さん?なんで、そんな事言うの…?!」
「ぼ…く……よぉ、た…ぉもっ…て…死に…たい……」
その言葉に唖然とする。そんな…俺の、せいで…この人…


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