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6

「月城さ〜ん!また来て下さいよ!!」
「俺ら、待ってますから!」
帰り際、すっかりなついたメンバーが十夜さんとの別れを惜しむ。それに十夜さんは苦笑する。
「ありがとう、皆。でも、僕は仕事があるから、今度は皆に来て貰いたいな?」
そう言って、総長に一枚の紙を手渡す。それは『ふるふる』への地図がかかれたカードだった。
「お店の地図。24時間やっているから、いつでもどうぞ」
「あぁ、ありがとう」
「あっ!総長、ずりぃ!!」
「俺らにもコピってくださいよ!陽太は教えてくれないんだから!!」
それを聞いて、十夜さんがこちらを見る。俺は視線を外す。
「…そうだったの、陽太君?」
「…はい」
「通りで、いつも一人だなと思った。軽い営業防止だから、後でお仕置きね」
にこにこ笑いながら言うが、目が笑っていない。これはちょっと怒っているな。
「月城さん。美味しいお菓子、ありがとうございました。葡萄のケーキ、美味しかったです」
「それは良かった。今度はお店に遊びにきてね」
そう言って十夜さんが頭を撫でると、シンさんは嬉しそうに微笑んだ。ふと、傍らの総長を見ると、ムッとした顔をしている。いくら無害な十夜さんでも、面白くないらしい。それに思わず苦笑する。相変わらず、シンさんへの愛は溢れているなぁ…
「またね、月城さん!」
「今度は『ふるふる』に行くっす!」
「チームを代表して、礼を言います。月城さん、ありがとうございました」
総長が頭を下げて、礼を言う。そんな総長に、
「ううん。こっちこそ、楽しかったよ。皆、ありがとう」
そう言って、十夜さんは頭を下げた。アジトを後にし、車に乗った十夜さんは隣に座った俺の膝に頭をのせる。
「…十夜さん?」
「ごめん。ちょっと疲れちゃった。いいかな?」
「いいっすけど…」
なんか、変。ずっと思っていたけど、今日の十夜さん、おかしい。
「あ、そうだ。陽太君。僕、日の出みたい」
「今から?疲れたんでしょ?」
優しく頭を撫でながら尋ねる。そう言うと、十夜さんは甘えるように手にすりよる。
「うん。でも、最後に見たい。陽太君のオススメ教えて?
「でも…」
「あ、これ、皆にお店教えなかった、お仕置きだから。絶対連れていってね?」
「…うん」
俺は首を縦に振る。それを見ると、十夜さんは目を瞑る。
「着いたら、教えて…それまで、寝ているから…」
そう言うと、十夜さんは眠りに落ちてしまった。それを見て、俺は戒斗さんに話しかける。
「あの…」
「行き先が店なら、送らないぞ。知らないなら、俺がこの辺の絶好ポイントに連れていってやる」
先手を打たれてしまった。どうやら、この人には見透かされたらしい。それを聞いた俺は、諦めて首を横に振る。
「いえ…俺の一押しにお願いします」
「あぁ…道案内、宜しく」
そう言うと、戒斗さんは車を走らせた。時々、道案内しながら、俺は十夜さんの髪を撫でる。
さらさらで癖のない綺麗な黒髪。きっと、染めた事なんて一度も無いんだろうな…
「好きだよ、十夜さん…」
起こさないよう、そっと囁きながら、頭を優しく撫でる。
「好き…凄く、好き…」
愛している、と触れながら。それ以外考えないように。
戒斗さんは、そんな俺に何も言わず、ただ指示通りに車を走らせてくれた。
「ここか…結構いい場所、知っているな。十夜起こして、二人で見に行けよ」
「ありがとうございます」
戒斗さんに促され、俺は膝上で寝ている十夜さんを起こす。
「十夜さん、起きて…?ついたよ…?」
「ん…陽太、君?」
眠っている十夜さんにできるだけ甘く囁くと、十夜さんが寝ぼけ眼でこちらを見てくる。そんな十夜さんの頬にキスすると、十夜さんはくすぐったそうに身をよじる。
「ん…?着いた?」
「着いた。俺の知っている絶好の日の出ポイント」
「ん…ありがとね、陽太君」
体を起こすと、十夜さんは俺の頬にキスして車を降りる。俺も慌てて車を降りる。やっぱり、十夜さん、おかしい。いつもなら、ちょっとでも迫ると顔を赤くして、恥じらっているのに、今日はそれがない。むしろ、積極的だ。
「いってらっしゃい、お二人さん。何かあったら、呼べよ?」
笑いながらそう言ってくれたので、お言葉に甘える。慌てて、十夜さんを捕まえると、手を繋ぐ。
「…ま、すぐに呼ぶだろうけどな」
そんな戒斗さんの呟きは、俺達には聞こえなかった。
手を繋いだ俺達は車から少し開けた場所に出る。時間がちょうどいいらしく、何も障害物のない山頂からは、まさに日が出ようとしていた。
「うわぁ…!凄いね、陽太君!!空が明るいや!」
「そりゃ、そろそろ日が上る時間だから」
「太陽って、陽太君の髪みたいに赤いんだよね?早く見たいな」
「えっ…?」
おかしい。今の言葉は明らかに変だ。まるで、初めて太陽を見るみたいな…?
困惑する俺に、十夜さんは顔を日の出の方を見ながら、話す。
「…初めて陽太君が来た時、僕はお日様が僕の所に来てくれたんだと思った。だって、お日様は赤いって聞いていたから。真っ赤な髪と瞳をした陽太君は、夜しか知らない僕にとって、お日様そのものだったんだ」
「…十夜さん……?」
「話をしたら、陽太君は話に聞くお日様みたいに胸がポカポカする位優しくて、また来て欲しくて…思わず、サービスしちゃった。後にも先にも商品をプレゼントしたのは、陽太君が初めてなんだよ?」
「……」
「名前を聞いて、お日様の『陽』が入っているのを知って、僕はやっぱり陽太君はお日様なんだと思った。だから、次も、また次も来てくれて凄く嬉しかった。暗い夜しか知らない僕の所に一杯、いーっぱい来てくれる陽太君を嬉しく思った。僕の所に来てくれるお日様のお陰で、僕の心は満たされていった」
次々と語られる十夜さんの心の声。俺は何も言わない。いや、言えない。
なんだろう…今、遮っちゃいけない気がする。
「僕、分からなかったけど、分からないだけで、最初から陽太君が好きだったんだ。だから、初めて陽太君に告白されて倒れちゃった。あの時はね、本当に分からなかったんだけど、それよりも嬉しかった。片想いのお日様に告白されて、僕は嬉しかったんだよ?」
「そっか…」
「うん。でもね、駄目だ!って思った。僕は夜の月だから、お日様に想われる資格はないって思った。なのに陽太君、一杯一杯『好き』『愛してる』って、伝えてくるんだもん。だから、困って困って…諦めるのを止めて悟った。僕は陽太君が好きだって」
伝わっていた。俺の気持ち届いていた。そして、俺の気持ちで十夜さんは『好き』っていう気持ちを知った。俺はたまらず、横から十夜さんを抱き締める。
嬉しい。嬉しいけど、でも、何でだろう?なんか…嫌な予感がする。
「だから、今日は頑張ろうって決めた。陽太君は僕に『好きだ』『愛している』って伝えてくれたから、僕も僕なりに頑張った…ちょっとでも、僕の『好き』って気持ち、伝わったかな…?」
「伝わった…伝わったよ、十夜さん」
俺はこれでもかと抱きしめ、『好きだ』『愛している』って伝える。それに十夜さんが目を細める。
どうしよう…分かんないけど、泣きそうだ…
「だから、ありがとう。陽太君。僕を愛してくれて…僕、多分、今この世で一番幸せだ。きっと、こんな幸せ、もうないよ…」
「何言ってるの、十夜さん…?これからだよ?俺、十夜さんと両思いになったら、一杯愛し合って、一杯いちゃつくって決めてたんだ。総長とシンさんに負けないくらいラブラブになって、チームの奴等に羨ましがられるようになるんだって…」
「うん。彼らはきっと、これから幸せになるだろうね」
「俺らもなろうよ、十夜さん!てか、総長達に負けないくらい幸せになろうよ!!」
十夜さんの言葉に、俺は思わず叫ぶ。そんな俺に、日の出の方を見ながら、十夜さんは呟く。
「多分、彼らより幸せなのは、今だけだよ」
「なんで?!なんで、そんな悲しい事言うの?!俺達、両思いじゃん!これから、もっともっと、幸せになろうよ!!愛し合おうよ!」
なんでだよ!?なんで、そんな悲しい事言うんだよ!
俺は、捨てられる女みたいにみっともなく喚きながら、十夜さんを抱き締める。
「好きだよ、愛しているよ、十夜さん!俺、きっともっと好きになる!!十夜さんの事、これからもっと好きになる!俺、会うたびに好きになっていったんだ!!今日だって好きになった!だから、これからも、もっと…!!」
「あ…」
叫ぶ俺に、十夜さんが声を漏らす。なんか、十夜さんの顔が明るくなっていくような…?恐る恐る視線の先を見ると、太陽が顔を出していた。
「…陽太君は、本当にお日様だったんだね」
「え?」
「だって、お日様って赤いだけじゃないもん。ちょっと、金色っぽい」
そう言うと、俺の金のメッシュをくいっと引っ張って、
「この色が混じれば、きっとお日様の色になるね」
そう言う。その言葉に、涙が込み上げる。
「十夜さん…」
名前を呼ぶ俺の唇に人差し指を当てて、十夜さんは俺を黙らせる。
「陽太君、僕は悪い子です。夜の月なのに、お日様の君を好きになりました」
悪くない。全然悪くないよ、十夜さん。嬉しい。俺、嬉しいよ。だって、嬉しすぎて泣いているもん。
「悪い子な僕だけど、今、とっても幸せです。大好きな君に愛され、こうして君と一緒に、念願だったお日様を見られたんですから。だから…」
そう言うと、十夜さんは目を細めて、



「だからバチが当たって、もう死んでも、悔いはありません」



「…え?」
がくっ、と俺の腕の中に十夜さんの体が崩れた。慌てて支えるけど、十夜さんは荒い呼吸を繰り返し、目を閉じている。
「十夜、さん…?」
ぺちぺち頬を叩くけど、反応がない。それどころか、症状は酷くなっている。まるで、今さっきまで立って喋っていたのが嘘のように。
「ねぇ…起きてよ、十夜さん」
今度は体ごと揺さぶるが、十夜さんは目を開かない。それどころか、
「なんだよ…何なんだよ、これ…!」
手が、顔が、赤くなっていく。最初は太陽に照らされて明るくなってきたのかと思ったのだが、初めて日の下で見た十夜さんの肌は病的に白く、それが段々毒々しく、赤くなっていく。
「十夜さん!目を覚まして!!お願いだから、目を覚まして!!」
いくら頬を叩いても、体を揺さぶっても、十夜さんは目を覚まさないし、肌が赤くなるのは止まらない。
「…そうだ!戒斗さん!!」
慌てて十夜さんを抱えると、車に戻る。車では、すでに扉を開けた戒斗さんが腕を組んで待っていた。
「戒斗さん!十夜さんが…!!」
「やっぱり、か…」
俺の悲鳴に、戒斗さんは冷静に呟く。
「詳しい事情は後だ。それより、十夜を車の中へ。日の光が一切入らないようにしているから」
あくまでも冷静に戒斗さんは十夜さんを車にいれるように促す。それを不思議に思いながらも車に入ると、すでに横になれるスペースが出来ていた。俺は十夜さんを横たわらせて、俺自身も車に乗り込む。いつの間にか、後部座席の窓という窓は閉じられている。
「店に戻る。飛ばすぞ」
「え?病院じゃ…」
「病院で治るなら、とっくに治っている」
疑問に思いながらも、戒斗さんは車を走らせたらしく、運転に集中する。だが、ほとんど振動はない。
「事情は律から聞け。俺より詳しい」
訳が分からない俺に、戒斗さんはそう言う。その言葉に、慌てて服のポケットから連絡先を取り出す。


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