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5

「…十夜さん、それは何?」
沢山の箱を持って出てくる十夜さん。それを不思議に思っていると、十夜さんは店の車に次々とそれらを乗せながら、にこにこと笑って答える。
「お土産だよ。僕、パティシエだから、こんなのしか思い付かなかった」
「何か分からないけど、とにかく多いっすね」
「陽太君の所は大所帯みたいだし。量は沢山会った方がいいかなって、思ってね。だから、運転手さんをお願いしたの」
そう言って、ちらりと運転席に乗っている人物を見る。俺もそちらを見た。
うっすら茶色に染めた髪。年は多分十夜さんより、上。体を鍛えているのか、しっかりした体つきで、何故か所々傷痕がある。運転手、と言われた男は俺を見ると、にっこり笑う。
「君が陽太君?」
「あ、はい」
「よろしく。俺は史狼戒斗な。戒斗でいい」
「はぁ…」
にこにこ笑いながら、手を差し出されれば、握手するしかない。俺は求められるまま握手した。
なんか…変な感じ。一見、穏やかで優しい感じだけど、隙がない。なんか胡散臭いなぁ…
「戒斗さん、積み終ったよ!」
「よし、行くか!んじゃ、陽太君。ナビはよろしく!!」
「え?」
そう言うが、十夜さんは何故か店の灯りを消して店を締め、『closet』と書かれた札を入り口にかけていた。だが、それをした十夜さんは勿論、戒斗さんもそれには何も言わない。
「あの…十夜さん」
「ん?何?陽太君?」
「店、なんで締めたんですか…?代わりの人は…」
俺がそう言うと、十夜さんは苦笑して、
「大丈夫。律からはオーケー貰っている。締めたのは、律が従業員の手配をしきれなかったから」
と言った。それに内心驚く。
砂條さんが…?十夜さんが倒れた時もうまくしようと手配していたのに…?
「とりあえず、陽太君。どこに向かえばいい?」
「あ!えっと…」
戒斗さんの言葉に思考を遮られ、俺は慌ててアジトの場所を教えた。アジトは敵襲から守る為、当然の事ながら分かりにくい場所にある。その為、俺は一生懸命になって、場所を教えた。
だから、俺は気付かなかった。十夜さんが遠ざかる『ふるふる』を見ながら、申し訳なさそうに、泣きそうな顔で見ていたなんて。
アジトにつくと、早速荷物を下ろす十夜さん。俺も手伝うし、戒斗さんも手伝ってくれる。
「ちーっす。連れてきました」
アジトの扉を開くと、騒がしかったアジトが一瞬にして静まり返る。全員こちらを見るので、ちょっと恥ずかしい。そんな中、十夜さんは堂々としている。
「こんばんは、月城十夜です。あ、『ふるふる』のパティシエって言った方がいいかな?いつもお菓子買ってくれて、ありがとうね」
にこにこ笑いながら言うから、皆、ざわざわ騒ぎ出す。どうやら、困惑しているようだ。ま、十夜さん、見た目は真面目な平凡だし。でも、最初っから不良の俺にもびびんなかったし、いつも一癖ある人達の客の相手しているから、今更、チームのよる奴等にびびるわけないか。この辺は、さすが深夜働いているプロだね。
「…あんたが『ふるふる』の店員さんか?」
ざわめくメンバー達の中、総長が出てくる。だが、十夜さんは顔色一つ変えずににこにこと笑顔だ。
「そう。君は総長さん?」
「あぁ、俺は百々竜馬っていうんだ。総長でも竜馬でも、好きに呼んでくれ」
「じゃ、総長さんって、呼ぶよ。名前呼びは恋人だけの特権だと思うから」
ね?と言いながら、十夜さんは奥の部屋を見る。俺もそちらを見ると、シンさんが扉から顔を出して、真っ赤になりながら、わたわたと慌てていた。
十夜さん…絶対確信犯だ。
「さて、押し掛けておいて申し訳ないんだけど、荷物を下ろすのを手伝ってくれないかな?」
「あぁ、何人か手伝わせる。おい」
総長の言葉に、何人かのメンバーが立ち上がる。全部の荷物をアジトに運ぶと、
「じゃ、俺は車で待っているから」
「え?戒斗さんは?」
「ばぁか」
そう言って、戒斗さんは俺にでこぴんした。地味に痛い。
「邪魔なんかしねぇよ。十夜がそれを望んだんだし」
そう言って、車に向かっていった。ちょっと引っ掛かったが、まあ、あの人なりに気を使ったんだろうな。
「…あざっす」
そう思って、俺は戒斗さんに頭を下げた。
「月城さん、何なんすか、これ?」
「でっけー箱…気になって仕方ないんですけど…」
アジトに入ると、荷物を中心にメンバーが集まっている。とりあえず受け入れて貰えたらしい。それにほっとしながら、俺も近寄る。
「気になる?じゃ、空けようか?」
なんだなんだと集まるメンバーに十夜さんはいたずらっ子のように笑いながら、箱をあける。
「じゃーん!」
箱から出てきたのは、
「…ケーキ?」
「焼き菓子もあるよ」
色とりどりのケーキを見せた後、別の箱を開く。そこにはびっしりと焼き菓子が。にこにこしながら、十夜さんは平然と言う。
「僕、パティシエだから、こんなのしか思い付かなかった。良かったら、食べて欲しいな」
「…甘いもんなんかいらねぇよ!」
十夜さんの言葉に、立ち上がるメンバーが。
「俺は、旨い料理が喰えるっていうから来たんだ!なのに、こんなふざけた…!!」
「はい、あーん」
「もがっ?!」
数あるケーキの一つ、カボチャのタルトを手にとると、それを強引に吠えるメンバーの口に突っ込む、十夜さん。すると、そいつは十夜さんの手で口を塞がれている為、モグモグと咀嚼し、飲み込む。そんなメンバーを見て、十夜さんはにこりと笑う。
「美味しい?」
「…っす」
ぶすっとしながら、そいつは首を縦に振る。正直、俺は、大丈夫かよ?!と思ってはらはらしていたのだが、十夜さんは動じない。この人に怖いのは無いのだろうか?
「皆も食べたいのあったら、どんどん食べてねー。甘いのから、ブランデーケーキといったお酒が効いた大人のスイーツもあるし、ガーリックラスクみたいな甘くないのもあるよー?」
笑いながら言う十夜さんの一言に皆も目配せしながら、それぞれ手に取って口に放り込む。
「うおっ、うまっ!」
「マジで旨い!」
「超うめぇ!こんなん、初めて!!」
「すげぇ…マジですげぇ…!」
「ちょっ…!てめぇ、それ、俺にも寄越せ!」
わぁわぁ言いながら、皆が皆、十夜さんの作ってきたお菓子にハマっていく。そんなメンバーを見て、嬉しそうに笑っていた十夜さんだが、奥の部屋に向かって、
「良かったら、総長さんの恋人さんもおいでよ」
「え?」
「君には、パウンドケーキのお礼もあるから、特別なの用意しているんだ」
奥の部屋に向かって、そう声をかけた。シンさんが困っていると、総長が手招きする。どうやら、多少癖はあるが、問題ないと判断されたようだ。それにシンさんも部屋から出てくる。
「はい、どうぞ」
「あ…!」
シンさんが嬉しそうな声をあげる。そこには、葡萄のジュレがのったケーキが。
「恋人さんにとって、葡萄のゼリーは特別なんだってね?だから、こういうの作ってみたんだ。あ、カロリーも低めに作ったから、ご安心を」
にこにこ笑いながら、差し出す十夜さんから、シンさんは嬉しそうにケーキを受けとる。そんなシンさんの頭を総長が優しく撫でる。
「良かったな、シン」
「うん!あ、二つあるから、竜馬さんも食べよう?」
「俺は、シンが美味しそうに食べているのを見ているだけでいいよ」
「あ、総長さんも食べてね?その為に二つ作ったんだから。甘さも控え目だし」総長の言動を予測していたのか、十夜さんはそう言う。驚く総長に、十夜さんは微笑みながら言う。
「恋人と幸せを分け合うのも、いい事だよ」
その言葉に負けた総長は、自身もケーキにフォークを突き刺した。だが、結局ほとんどをシンさんに食べさせている。いいなぁ…俺も十夜さんとしたい。
「あ、陽太君」
「はい?」
「あーん」
そう言って、十夜さんは一枚クッキーを差し出す。俺は嬉々としてそれを口にいれて食べた。実は、さっきのメンバーにした「あーん」、俺的には面白くなかったりする。だって、十夜さんは俺の好きな人なんだから。でも、これでチャラ。
とか思っていたら、
「辛っ!」
「そりゃ、タバスコ入りのイタズラクッキーだから」
めちゃめちゃ辛かった。苦笑する十夜さんを軽く睨む。
「酷いっすよ、十夜さん!こんな仕打ち…!!」
「でも、おいしかった?」
「…旨かったです」
「ごめんね、陽太君。ちょっと意地悪したくなっちゃった」
そう言って、ほっぺにキスされたら、何にも言えない。何気に十夜さんからのアクションは、これが初めてだったりする。仕返し、とばかりに俺も十夜さんの頬にキスすると、十夜さんは目を見開いた後、すぐに嬉しそうに微笑む。
「あーっ!陽太が月城さんに迫ってるーっ!!」
「いちゃつくんなら、別の所でしろー」
「いちゃつきは総長とシンさんでお腹一杯だー」
「いいじゃないっすか!十夜さんは俺の好きな人なんだからっ!!」
メンバーにからかわれると、俺はそう叫ぶ。すると、十夜さんは恥ずかしそうに目を伏せて、
「陽太君の馬鹿っ…でも、すごく嬉しい。ありがとう」
そういって、嬉しそうに微笑んだ。あんまりにも可愛いから、思わず顔を隠すように抱き締める。
「…陽太君?」
「ここで可愛い顔しちゃ駄目っす。皆に十夜さんの可愛い顔が見られちまう」
「…ごめんね?」
そう言って、俺の背に腕を回し、俺の体にぐりぐり顔を擦り付けてきた。だから、可愛いってば!
お菓子は次々となくなり、そして、
「あー、旨かった!」
「もう、コンビニのスイーツじゃ満足できねぇよ!!」
「すっげぇ…!まさに神…!!」
「おい、誰か写メ撮ったか?!」
「あ、俺、撮っといた!」
「俺にも送れー!」
と、大変好評だったらしく、皆、食べ終わった後も騒がしい。そんなメンバーを見ながら、十夜さんは嬉しそうににこにこ笑いながら、後片づけする。
「あ、十夜さん。俺も手伝うよ」
「あ、ありがとう、陽太君」
二人で持ってきたケーキなどの箱をたたんだりしていると、
「俺にもさせてくれ」
「総長…?」
「総長さん…」
なんと、総長が手伝ってくれた。総長だけじゃない。シンさんも、一部のメンバーも手伝ってくれる。
「お前には、借りが出来てばかりいるな」
「え?」
「シンの時も、お前だけがシンの身を案じてくれた。そしたら、今度は凄いパティシエを連れてきて、皆を喜ばせた」
「いや、俺は…」
総長はそう言ってくれるが、俺は大したことはしていない。シンさんの時も、結局シンさんは体を壊した。今回だって、十夜さんの願いを叶えたまでだ。
「分かっている。でもな…」だけど、総長は笑って、
「ありがとうな、陽太」
そう言ってくれた。その一言に、俺は泣きそうな位、嬉しくなった。
総長達のお陰で、後片付けはすぐに終わった。車まで行き、寝ていた戒斗さんを呼んで、車に荷物を運んでもらうのを手伝ってもらう。


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