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4

「静観するといった矢先に何だが…」
「何ですか?」
「あいつにあんまり迫りすぎるな」
「というと…?」
「今回みたいにあまり迫りすぎるな。また倒れると困る」
「…すいません」
「いや、俺に謝れても困るんだよ。あいつがこんな時間に一人なのは、あいつ一人でも問題なく仕事出来ると判断したからなんだぞ?なのに、頻繁に倒れるとなったら、十夜にも、他の従業員にも迷惑がかかるんだからな」
「はい…」
砂條さんの言葉に俺は思わず項垂れた。
そうだよな…多分、この人休んでいただろうし。それに俺、十夜さん以外の従業員と会った事ないもん。きっと、体調管理とかしっかりしているんだろうな。
「あぁ、あと十夜の体調崩して、オーナーにばれるとまずい。だから、あいつの体調は死守しろ」
「へ?」
「あの人、とんでもない人だから。色々な意味で」
なんじゃ、そりゃ?よく分からない。
「何か問題あるんですか?」
「俺、一時期グレた事あるんだけど…」
「え?!あんたが!?」
こんな爽やか〜なこの人が、グレた事あんの?!とてもじゃないけど、信じられない!
「俺を更正したのは、オーナーだ…あの人、俺を肉体的にも精神的にも、徹底的に痛め付けて…」
「……」
「俺、そのせいで、一時期、引きこもりになった事ある」
「……」
どんだけ恐ろしいんだ、オーナー。砂條さん、めっちゃトラウマになってんじゃん。
俺は心底この人が可愛そうになり、とりあえず、肩をぽんぽん、と叩いた。
すると、今度は砂條さんに肩を掴まれ、俺ががくがく揺さぶられる。
「だから、絶対!十夜の体調崩すなよ!!あの人、それを知ったら怒り狂って、とんでもない反撃してくるからな!?何されても、俺は知らないからな?!」
「ははははは、はい!分かりました!!」
がくがく揺さぶられながら、なんとか答えると、砂條さんはやっと手を離してくれた。
「ま、そんな訳で、お前はとにかく自分の身を守り、十夜を気遣え。いいな?」
「はい……」
こえぇよ、オーナー。どんだけ強いんだよ、オーナー。逆に気になるけど、砂條さんがここまで言うんだから、一生会わない方がいいな、うん。
「そんな訳で、迫るならあいつがオーバーヒートしない程度にしておけよ。あいつが倒れ、それがオーナーにバレたら、死ぬまでいたぶられると思え」
「わかりました。ところで、十夜さんは…」
ちらちらキッチンの方を見ながら尋ねると、あぁ、といいながら砂條さんもそちらを見る。
「十夜なら、自分の部屋行って寝た。ここ住み込みなんだよ」
「へぇ…」
「最近、忙しいらしく、毎日のように働いていたらしい。そこに…」
そう言って、砂條さんは俺をちらりと見る。
「誰かさんが初なあいつに強引に迫りすぎて、キャパオーバーさせたし?」
「…すいません」
砂條さんの非難めいた言葉に頭を下げるしかない。はあ、とため息を吐きながらも、砂條さんは笑いかける。
「ま、いいさ。さっきも言った通り、最近、休んでいなかったから、丁度良かったしな。オーナーへは俺から言うから、お前は見つかる前に帰れ」
「あざっす」
砂條さんの言葉に甘えて、俺は帰る準備をする。が、一つ忘れていた事を思い出した。
「あの、色々教えてくれて、ありがとうございます。そのお礼といっては何ですけど…」
「なんだ?」
「うちのチームの総長の恋人から差し入れがあるんですけど、受け取ってくれませんか?」
「あぁ、いいよ。十夜にも明日…というか、今晩届くようにしておくから、持ってきてくれないか?」
「お願いします」
引き戸を開き、バイクに向かう。パウンドケーキが入った袋を取りだし、店に再度入る。
「あの…持ってきました」
「悪い。カウンターに置いてくれ。十夜が寝たから、今、急ピッチで他の従業員に引き継ぎを頼んで忙しいんだ」
「はい。色々、ご迷惑おかけしました」
ちらりとこちらを見るとどこかに連絡をする砂條さん。よっぽど忙しいらしい。俺も「お邪魔しました」とだけ言うと、カウンターに袋を置き、そのまま帰った。
「十夜が、感情を…?副作用で…いや、もしかして、あいつ……」
ぶつぶつ呟きながら、作業していた砂條さんを知らないまま。
バイクを引きずりながら、アジトに向かう。皆、応援してくれたから、どうだったか報告しなくちゃな…
「分からない、か…」
返事はイエスでもノーでも無かった。恋愛経験がないから、そこから教える事になった、と。
「…頑張らないとな」
空を見上げて、呟く。見上げた空は日が登り始めたせいか明るくなり始め、月が沈みかけていた。


「こんばんは、十夜さん」
「こ、こんばんは!ようこそ、陽太君…!!」
『ふるふる』の引き戸を開き、挨拶しながら入ると、十夜さんは顔を真っ赤にして挨拶してくれる。そんな十夜さんが愛しくて愛しくて然り気無く手に触れる。すると、十夜さんはびくって震えた後、顔を真っ赤にしながら店名みたいに『ふるふる』震えるんだ。可愛いなあ、もう…!
告白してからの十夜さんは日に日に可愛くなっていく。俺が言葉で、体に触れて『好きだ』『愛している』って伝える度に、最初の余裕はどこへやら、わたわたと慌てるんだ。これで自覚がないっていうから、困る。最近はそれが悩み。
可愛い可愛い十夜さん。そんなに可愛いと狼な俺にぺろりと食べられちゃうよ?そう思いながら、触れた手を優しく握り、口付ける。
熱いオーブンで火傷したり冷たいお菓子を作るせいで荒れている手。でも、俺は知っている。この手が美味しい美味しいお菓子を作る魔法の手だって。知れば知る程、俺は十夜さんに夢中になる。俺、やっぱり十夜さんが好きだ。
「あ、あの…陽太、君」
「何?」
「手……」
恥ずかしそうに俯きながら耳まで真っ赤にして十夜さんがちらちら俺を見る。その瞳は潤んでいて、俺のいたずら心をくすぐる。
「離してもいいけど、いい加減、ここにキスしたいなぁ…?」
「あっ…」
そう言って、少しかさついた十夜さんの唇に触れる。すると、十夜さんはオロオロしながら、
「だ、駄目…」
「なんで?」
「き、キスって、大切な人にするものでしょう?だ、だから…陽太君、穢れちゃう…」
そう言って、顔ごと俺からそらしてしまう。そんな十夜さんの頬を撫でながら、俺は囁く。
「…俺、大好きな十夜さんとしたい」
「だだだ、駄目だよ!」
ぱっと手を放しながら、十夜さんがこちらを見る。
「僕はまだ陽太君が好きかどうか分からないから、駄目!」
顔を真っ赤にしながらも、その目は真剣ではっきりと拒絶している。それを見て数秒間黙っていた俺だけど、こうなったら十夜さんはてこでも動かないって知っているから、思わず深い息を吐いた。
「分かった…じゃ、今日のおすすめ、教えて?」
そういうと、十夜さんはぱっと顔を輝かせる。
「うん、いいよ。今日はどうする?」
「あー…メンバーがジンジャークッキー食いたいって言っていたから、それ中心にお勧めを…」
「分かった。メンバーさん中心ね?なら、今日は…」
にこにこ笑いながら、ウキウキと十夜さんは商品を梱包していく。もう何度も会いに来ているので、うちのチームの大体の好みは分かっているそうだ。
なんだかんだで、この人、パティシエだなぁ…と思う。こうして、自分の作ったお菓子を詰めているのを見ると。やっぱり、嬉しいんだなあ、て。
なんかもう最近は十夜さんへの思いが暴走して、こんな十夜さんも可愛くてしょうがない。というか、もう十夜さんなら、何でもいいかも。
「はい。チームの皆さんに宜しくね」
「あざっす」
綺麗に梱包された袋を手渡され、カウンター越しに受けとる。すると、十夜さんがにこにこ笑いながら言う。
「陽太君は本当にチームが好きなんだね」
「え?」
「だって、いつも楽しそうに話すから…」
「そうですね」
チームの奴等、たまに腹立つ時あるけど、基本一緒につるんでて楽しいし、俺、総長を尊敬しているし…でなきゃ、俺、一匹狼だよ。
「まあ、楽しいですよ。たまにムカつきますけど。俺、なんだかんだ言って、チーム好きですから」
「そっかぁ…いいなぁ……」
目を細めて、十夜さんはにこりと笑う。優しい瞳は羨ましい、と訴えていて…
「…来ます?」
「え?」
「俺らのアジト。十夜さんなら、きっと皆、ウェルカムっすよ?」
本当はチームの奴等に見せたくないけど、でも、十夜さんが望むなら、出来るだけ叶えてあげたい。
俺の言葉に驚くと、十夜さんはマジマジと俺を見つめる。
「…いいの?」
「まあ、先に総長とかに許可貰わないといけないっすけど。ほら、俺、下っ端だから…」
「じゃ、大丈夫なら、一杯お土産持っていきますって伝えて。手ぶらじゃ悪いしね。あと、賄賂的な?」
そう言って、いたずらっ子のように笑う。なんか、いつも穏やかで優しい笑い方しているから、ちょっと茶目っ気感じて…でも、可愛い。
「仕事は大丈夫っすか?」
「そっちが大丈夫なら、仕事は律に事情を話して休ませて貰うよ。最近、ずっと僕、働いてばっかだもん。たまにはこれ位の我が儘言わないと」
むくれながら文句を言う十夜さんが可愛くて、俺はぷくっと膨らんだ頬をつつく。すると、くすぐったそうに身を捩りながら、笑う十夜さん。可愛い。
「じゃ、俺、上層部に掛け合ってみるね。お土産つきの賄賂がありますよって」
「お願いね」
クスクス笑いながら見送る十夜さんに、俺は笑いながら答えて店を出た。
「は?連れてきたい?」
「あー…駄目っすかね?」
「それは、総長に聞くけど…」
十夜さんを連れてきたいと幹部の一人に言うと、周りの人間が驚いて俺を見る。何故に?怒るなら、まだしも…
「いや…お前、店名しか言わない程、隠していたじゃん?なんで、いきなり連れてきたいってなるんだ?」
あ、そっちね。俺、十夜さんの事は勿論、『ふるふる』の場所さえ言わなかったもんなぁ…
「いや、本当は独り占めしたいっすよ?でも…」
「頼まれたのか?」
笑いながらの言葉に振り返ると、総長が。シンさんの腰を然り気無く抱きながら、こっちに向かってくる。相変わらず、ラブラブ…
いいなぁ、総長とシンさん…俺も早く十夜さんとイチャイチャしたい。
「なんか羨ましそうだったんで、誘いました。総長、駄目っすか?」
「いいぜ?俺ら、その人の菓子、結構頻繁に食っているけど、なんら問題ないし。それに…」
そう言うと、シンさんのつむじにキスして、
「シンにうまい菓子、食わせてやりてぇし」
総長の言動にシンさんは顔を赤くしてわたわたと慌て出す。あー…これは、恥ずかしがってんな。十夜さんも似たような反応するから、分かるようになっちまった。
それにしても…総長、シンさんの為って…相変わらず、愛が半端ねぇし、ブレねぇ。シンさん、愛されてるなぁ。
俺がオーケーという事を伝えると、十夜さんは嬉々として「じゃ、張り切って準備しなくちゃね」と言った。準備には時間がかかるらしく、日にちを提案され、俺は頷く。カレンダーを見たら、その日の月は三日月だった。
三日月…俺と十夜さんが初めて会った日に浮かんでいた月。これは偶然だろうか?それとも、十夜さんはわざと?疑問に思いながら、俺達はその日を迎えた。


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