×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




3

そう力なく呟いて、項垂れてしまった。こんな十夜さんは初めてだ。いつも余裕綽々で、にこにこ笑いながら、穏やかで優しい雰囲気を出しているのに、今はまるで罪人が懺悔するように暗い表情で項垂れている。そんな十夜さんの手を一旦離し、今度は包み込むように優しく握る。
「…じゃ、俺、頑張ります!」
「…え?」
俺の言葉におずおずと十夜さんが顔を上げる。
「分からないから、『ごめんなさい』なんですよね?だったら、俺が教えます。んで、惚れさせます!」
にこにこ笑いながらそう言うと、十夜さんは驚いて、俺をまじまじと見つめる。
「で、でも、分かって違ったら、陽太君に迷惑が…!」
「いいっす。そん時はそん時で考えます」
「ででで、でも、一生分からなかったら…」
「んじゃ、そん時は一生かけて傍にいます。傍に、おかせてください」
「だだだ、駄目だよ!陽太君、若いんだから、早く新しい人を…!」
「十夜さん」
慌てふためく十夜さんの手を持ち上げ、手の甲にキスする。すると、十夜さんはぴくって震えて目を瞑る。
ヤバい、すげー可愛い。
手を優しく包み込みながら、顔を近づける。すると、十夜さんは目をぎゅっと瞑って、店名通り『ふるふる』震える。その顔は真っ赤で耳まで染まっている。
あぁ、もう!可愛いなあ!!
「俺が、そうしたいんです。だから、傍においてくれませんか?」
真っ赤に染まった耳元で囁く。実はこれ、総長がシンさんにしているの見て真似ているんだけどね。その時のシンさん、真っ赤になっていたからやってみたんだけど…効果は見ての通り、絶大。
「分かった…から。分かったから、もう離れてよ!お願いだから!!」
「はいはい」
『ふるふる』震えながら、大声を出す十夜さん。だから、可愛いだけだってば。
でも、さすがにこれ以上やると嫌われてしまうかもしれないので、やめておく。だってこの反応、絶対脈有りだろ?だったら、後はガンガン攻めるだけだ。
あ、でも最後に…
「十夜さん」
「な、なに?」
ほっぺに口づけて一言。
「大好き」
そう言ったら、
「…え?」
がくん、と十夜さんの体が崩れる。軽く手を包み込んでいたから、突然の事に反応が遅れて、十夜さんは床に倒れてしまった。
「と、十夜さん?!どうしたの!?」
慌てて十夜さんのいる方へ向かい、倒れた十夜さんを横抱きすると、ぺちぺちと頬を叩く。しかし、全然反応がない。
申し訳ないが、横抱きしながら十夜さんの服を触り、携帯とかスマホとかないか探す。別にやましい気持ちはないから、責めないで欲しい。
「う〜ん、ないな…」
どうやら、コック服にはないようで、ポケットをまさぐっても無い。仕事中だから、バックヤードにでも、片付けているのかな?
「仕方ない」
十夜さんを横抱きしながら、店の奥に入る。
ホールの奥は広いキッチンになっていた。俺は十夜さんとしか会っていないが、十夜さん以外の時間はパティシエが多いのだろうか?
「あ、電話発見」
キッチンの奥に壁にかかった電話を見つける。多分、業務用だろう。傍らには内線番号と従業員のらしい名前が書いてある。一番目は店長でオーナーが二番目。変な店だ。
「とりあえず…」
面倒なので、一番に登録されている店長に電話した。こんな時間だから、気づくかどうか…
「何があった、十夜?!」
早ぇよ!しかも、うるせぇ!!ワンコールの後、いきなり耳元で怒鳴られた。
「おい、どうした!何があった?!答えろ、十夜!!それとも、お前、十夜以外か?!」
うるせぇ!耳元で怒鳴んな!!頭いてぇよ!
正直、滅茶苦茶頭にきているが十夜さんが腕の中にいるの必死になって堪える。
「…すいません、店長さんですか?」
「…誰だ、てめぇ。十夜はどうした?」
俺が問いかけると、一気に声が低くなり、ドスの効いた声で尋ねられる。なんなんだよ、ここの店長。十夜さんの可愛さとは雲泥の差だ。
「あの、俺、陽太って客なんですけど…十夜さんが倒れちまって…」
「…何だと?」
「だから、十夜さんが倒れた…」
「すぐ行く」
そう言うと、ぶつっと音がして、ツーツーって音しか聞こえなくなった。
本当に何なんだよ、ここの店長!
はぁ、とため息をついていると、バタバタバタって音がして、
「…お前が陽太って、奴?」
調理室の奥から黒髪の爽やか系のイケメンが出てきた。だから、早ぇって!
「そうっす」
「ふむ…」
店の奥から出てきたのはコック服の長身の男。黒目黒髪は十夜さんと同じだが、こちらは短髪の爽やかな感じのイケメン。俺を下から上までジロジロ見ると、
「…赤髪に金色のメッシュ、目には赤のカラコンの男前な不良…なるほど、確かに十夜の顧客リストにいるな」
そう言うと、警戒を解いたのか、ため息をつく。
「悪い、色々警戒したりして…十夜は時間が時間だけに、たまに危険な客が来たりするんだ。気を悪くさせたな」
「いえ…」
そう言われれば、何も言えない。確かにこの時間はあんまり安全じゃないし、客も普通じゃない。何度か色んな客と会っているから、俺だってそれ位分かる。
「で、どうして十夜は倒れた…」
「いや…いきなり…」
俺の腕の中にいる十夜さんに近づきながら、店長らしき男は尋ねる。俺も正直、訳が分からない。そう言うと、店長はいきなり十夜さんのコック服に手をかけ、脱がし始めた。
…って、脱がす!?
「ちょっ…あんた、何してんだよ!?」
「こいつ、いきなり倒れたんだよな?」
「そうっすよ。でも、なんで服脱がしているんですか!?」
「この店にいるからって、油断した。まさか、倒れるなんて…」
「ちょっ…だから、なんで服脱がしているんだよ!?さっぱり訳分からないんだけど!?」
「いや、ちょっと…」
「ちょっと、じゃねぇよ!あんた、十夜さん狙ってんのか!?だったら、ぶっ殺すぞ?!」
「え?お前、何言ってんの?」
心底不思議そうに俺を見る店長。だが、頭に血が上った俺は止まらない。
「だから、十夜さんが可愛いから、倒れてんのをいい事に手を出そうってのか?!合意ならともかく、こんな形で十夜さん襲うなら、俺がぶっ殺すぞ?!」
「は?いやいや、ちょっと待て。お前、何言ってんの?」
「だから、可愛い十夜さんに…!」
「ん…ぅん…?」
俺が怒鳴ると、第三者の声が。そちらを向くと、十夜さんがうっすら目を覚ましていた。
「十夜さん!良かった!!目ぇ覚めたんだな!」
「…あれ?……ここ、は?」
ぼけーっとした目でくしくしと手で瞼を擦る十夜さん。
やっべ、可愛い!十夜さん、滅茶苦茶可愛い!!
「お前、どうしたんだよ?いきなり倒れたって…何があった?」
「…律?」
ため息つきながら、店長さんが尋ねる。すると、十夜さんは虚ろな目で店長を見上げる。
「とりあえず、起きろ。いつまでも、お前を抱えている奴が可哀想だ」
「え…?」
そう言って、俺の顔をじーっと見て、認識した後、
「はわわわっ?!」
声と共に俺の腕の中から逃げ出し、見事に顔面から地面に落ちた。
くっ…十夜さんへの恋心を自覚した今、顔面ぶつけた地面すら羨ましい。
「すっげーいい音したな、おい…大丈夫か?」
「なんとか…」
地面に突っ伏する十夜さんを見て、店長さんが声をかけると、地面につっぷしたまま答える十夜さん。何故に顔をあげない。
「俺、お前を姫抱っこしていた陽太君に電話で呼び出されて、駆けつけてきたんだけど?」
「…とりあえず、今は無理」
「なんで?」
「…陽太君いるから」
地面につっぷしたまま、答える十夜さん。それを聞いて、こちらをちらりと見た店長はため息をつく。
「…ちょっと分かってきた。分かった、こいつ一旦ホールに連れてくわ」
「…ごめん、律」
「いいから、体起こせ。地面汚いんだから。お前、仮にもパティシエだろ?あ、陽太君はお前の右側にいるから」
「…ありがとう、律」
店長の言葉にお礼を言いながら、十夜さんはようやく体を起こす、俺に背を向けて。
くそっ…なんで、こっち向いてくれないんだよ、十夜さん。悲しいじゃねぇか。
「はいはい、百面相している陽太君はこっちなー」
「あ、ちょっ…」
手首を捕まれ、ぐいぐいホールの方に連れていかれる。そんな店長を睨み付けると、
「察してやれ。あいつ、恥ずかしいんだよ」
「…え?」
と店長の言葉に思わず驚く。そんな俺をよそに、店長は俺をホールへと連れていく。
「安心しろ。服を脱がそうとしたのは、何か体に異常がないか確認しようとしただけだ。別にやましい思いはないし、俺とあいつは単なる仲間だ」
「……」
説明する店長には悪いが、今の俺は十夜さんに恋する男な訳で…仲間でも、十夜さんと二人っきりになるのはいい気はしない。それを察したのか、店長はため息をつく。
「あいつに対してやましい気持ちは!まぁーったく!!無い!ゼロだ、ゼロ!!」
そう言うと、睨み付ける俺に呆れ返りながらキッチンへと向かった。
時間にして、十分かそこら。だが俺には果てしなく長く感じれた。
「…陽太君、君、何してんのよ」
キッチンの入り口をイライラしながら睨み付けるように見ていると、店長が呆れ返りながら出てくる。
「何がっすか?」
「睨むなよ。むしろ、こっちが怒りたい」
「なんで?」
「お前、十夜に告白するだけならまだしも、耳元でエロ声出したり、ほっぺにちゅーしたんだって?」
「そうだけど…それが?」
睨みながらも尋ねると、店長はため息を吐く。
「それが?じゃねぇよ。何してんだよ、お前。あいつが恋愛未経験者なの、知らないのか?」
「え?…あ、そういや分からないって…」
「お前、知っててそんな事したの?あいつが、恋愛経験値ゼロだと知っていて?」
「あ…」
店長に呆れ返りながら見られて、さすがの俺も気づく。そうだよ、あの人、『恋愛感情わかんない』って、言ったじゃん。なのに、俺、総長と付き合っているシンさんでさえ、照れてる事したんだ。十夜さんには、さぞかし、刺激が強かっただろう。
「あんまり、強引に迫るな。あいつ、それで許容オーバーになって、倒れたんだと」
「…すいませんでした」
うわあああ!すっげぇ申し訳ない!!でも、後悔しない!あの時の十夜さんはめちゃくちゃ可愛かった!!
「…とりあえず、事情は分かった。俺はあいつに無理させないなら、特に何も言わない」
「…え?」
「十夜がそう言ったからな。だから、俺はあいつ自身に支障がきたさないなら、何も言わない。それに…」
てっきり責め立てられるかと思ったら、店長はそう言って息を吐き、
「恋愛が分からないあいつに好きな奴ができたんなら、あいつにとっていい方に行くと思う」
そう言いながら、ポケットに手を突っ込み、紙を一枚差し出す。
「自己紹介がまだだったな。俺は砂條律。十夜の仲間で、この『ふるふる』の店長だ。十夜関係でなんかあったら、ここに連絡しろ」
「あ、俺は…」
「十夜から聞いてる。陽太君、だろ?常連客は特徴聞いているから、分かったよ」
笑いながら、店長…もとい、砂條さんはそう言った。そっか、それで最初から俺の事知っていたのか。しかし、常連客かよ…ま、俺も今日アジトで自覚したし。
俺はため息をつきつつ、名刺を受け取り、服の内ポケットにいれた。ここなら、まず落とさないだろう。
「あ、先に言っておくけど、十夜は携帯とか無いから。聞いても無駄だ」
「あ、そっすか…」
それは残念。ついでに聞こうと思ったのに。


[ 12/44 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]